第三百五十八話 気遣ってない?信じられない一言!?
一話目。
「……」
まさかそんな…
でも信じたく無い…とはいえこの通り証拠は…
「ま、まも…じゃない、瑠間…?」
「……これ、どういうことなんですか…?
まさか…まさか私は…」
「……」
誰も喋らない。
ここが図書館であることもあってか、話し声どころか物音一つしない。
「まさか私は……そう言う趣味があったんですか!?」
「「「「へ?」」」」
男装して、女子を惚れさせる。
最悪にも程がある。どうしてこんな吐き気を催すような邪悪な事が出来たのだろうか。
…そうか。
「…記憶喪失は、心を改める良い機会だったのかも知れません。
どうやら私は、記憶を無くさなければそんな事にも気付けない愚か者だったようです。」
「「「「……」」」」
四人からは背を向けて固く目を閉じてるから分からないけど、きっと四人はようやく気付いてくれたかと安堵の表情を浮かべているだろう。
「しかし、これからは違う。
これからは一人の女性として、しっかりとした人生を歩んで生きたいと思います。」
四人を真っ直ぐ見て、強い決意のこもった言葉をぶつける。
これで四人…特に移図離さんと光さんは安心して過ごしていけると思う。
…そう言えば。
「移図離さん、光さん。」
「「……何?」」
「記憶を無くす前の私に、何かされませんでしたか?」
「……いや、何も無いけど…」
「…同じく。」
何もしてないなんて嘘に違いない。
きっと二人は記憶喪失で不安定になっている私に気を遣って答えてくれたんだと思う。
無理はしないで欲しいけど、今は二人の厚意に甘えておこう。
「……無理はしないでね。」
「してないけど…」
まだ強がってる。でも、そんな私にも情けを掛けてくれるのはありがたいと思う私だった。
放課後。
あの後は全く調べられず、守の記憶が戻ることは無かった。
守が帰ろうとしていたので、僕達四人は守に声を掛けて一緒に帰った。
帰る途中に津瑠も合流したけど、どうやら昼休みに思ったことをよほど気にしていたみたいで、あの記事の件について謝っていた。
なんのことだかさっぱりな様子だった津瑠だけど、身に覚えが全く無いのでとりあえず許すと答えた。
守はそれ以降、暗い顔をして俯いている。流れからして自己嫌悪にでも陥っているのだろうか。
「どうする?勝手におかしな解釈しちゃったけど…」
「ああ、太郎にもメールで状況を伝えて聞いてみたが、この通りだ。」
俊太が皆に見せたケータイの画面には、太郎からのメールがあった。
無題で、本文は、
「そんな超解釈をするとは…もう手の施しようが無い。
少なくとも今は誤解させたままにした方がいいかもな。」
だった。確かにそうだ。
ただでさえ自己嫌悪に陥っているというのに、真実を話して更にショックを受けてしまったら…まずいことになるかもしれない。
実は男という真実を知れば、受けるショックは尋常ではないはず。だから自然に記憶が戻るまで、守にはそのことを知らせないようにしていた。
でも…今回のことを考えると、こんな状態になる前に真実を話しておいた方が良かったのかもしれない。
そうすれば、こんな妙な解釈のせいで傷つく事も無かったのに…
「どうしました?」
今まで小声で話していたので気付かれなかったみたいだけど、何か話しているのはばれたらしい。守が暗い顔のまま話しかけてくる。
「今日は記憶に関して全く進展が無かったなって話をしてたんだ。」
とっさに嘘をつく。特に疑う様子も無い…無いけど、何か引っかかる。
「……そのことなんですけど…」
「「「「「?」」」」」
この五人の中で、守が放った次の一言を信じられた者はいたのだろうか。
「私…記憶を取り戻すの、止めようと思います。」
少なくとも、僕は信じられなかった。




