第三百五十話 逃げずに意思を持て?言いたい事は言えた!?
一話目。
『分からないんですか?そこにいる人達の戸惑いが。』
戸惑い?
誰のものか分からない声に出てきた単語に、俺の頭はクエッションマークしか出さなかった。
『いきなり知人が記憶を無くしたと言われ、更に自分が敵呼ばわりされたら…誰でも混乱します。
今必死にかばってくれている剣達もです。本当は二人も戸惑っているところを、貴方を信頼して必死に皆を説得してくれている…
その頑張りさえも分からないのですか?』
………でも、俺自身どうすれば良いのか分からないんだ。
だから、俺には何もできない。
『そう言って逃げるんですか?』
…逃げる?
あのな、いきなりやり方も分からない事をしろと言われても出来ないだろ?
それと同じだ。
『いえ、貴方は出来ないと言い訳して何もしてないだけです。
なら、しようという意思を持ってなにかした方が数百倍マシな結果になりますよ。』
………
『さあ、うまく仲裁してあげてください。
元はと言えば貴方が原因なんですから、逃げるのは無しですよ。しっかり責任とって下さい。』
…そうだな。やるだけやってみるとしよう。
この声が誰のものかは分からない。だが、俺はこの声に助けられた。
冷静さを取り戻し、するべき事が分かった。
俺は声の主に感謝しつつ、仲裁の方法を考え始めた。
まずは原因。原因は俺が記憶を失ったことを言い、敵呼ばわりした事から始まった。
記憶を失ったと聞いて戸惑った皆は…恐らくそのことを信じられなかった…いや、信じたくなかったのだろう。
だから何らかの目的で記憶を無くしたフリをしたと自身に思い込ませ、その目的に関することで一番怪しいのがルクアだったという結論に達した。
その為にルクアは疑われている。
これを解決するには、まずはルクアの無実を証明し、敵呼ばわりした事を謝罪する。
そして…俺が本当に記憶を無くしたことを信じてもらう。残酷だが、これが現実なのだ。
それに、記憶は順調に戻りつつある。完全に戻る日も遠くない事も言って、安心させよう。
これで完璧だ。
『とにかく、我らは騙されてなどいない!!』
「本当にそうかしらね!?」
空気は先程よりも険悪なものになっている。
これ以上悪化する前になんとかしないと…!
「皆!聞いてくれ!!」
皆の注意が俺に集まる。
「俺の記憶は無くなった!これは本当のことだ!!
でも既に記憶のいくらかは戻ってきている!完全に記憶を取り戻すのはそう遠くは無いはずだ!!だから安心してくれ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「『……』」」」」」」」」」」」」」」」」」
「それと、ルクアは倒れていた俺を介抱してくれた良い奴なんだ!ルクアが居なければ、安心して記憶を取り戻そうとすることすら出来なかったんだ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「『………』」」」」」」」」」」」」」」」」」
「最後に!お前らを敵呼ばわりして悪かった!!
記憶が完全に戻った訳じゃないが、お前らは俺の友達だったってことは思い出したんだ!!思い出すのが遅れてゴメンな!!」
頭を勢いよく下げながら謝る。
「「「「「「「「「「「「「「「「「『…………』」」」」」」」」」」」」」」」」」
…俺が伝えたいことは全部言った。
これだけで許してくれるとは思わない。敵呼ばわりした事も、記憶をなくしたことも…そして、心配をかけたことも。
だがもし許してくれるなら…俺は何度でも謝るし、どんな難題を出されても乗り越えてみせる。
「…守、俺達は友達だよな。」
「……」
「例え記憶が無くなっても同じだ。お前は俺達の友達だし、俺達はお前の友達だ。
性別が変わっても、罰ゲームで小さくなっても、顔が変わっても、入れ替わってもそれは変わらなかった。
今回も同じだ。何があっても、俺達の友情だけは変わらない。そうだろ?」
「…!」
これまで、本当に色々なことが起きた。
だがその変化の中でも、こいつらが友達である事は変わらなかった。
たった今記憶が蘇り、その事実を肯定した。
「…これ、俊太の台詞なんだぜ…笑っちまうだろ?キャラじゃないって…」
…直後にこれだよ。
「こんな時に止めてよ移図離。本当に笑っちゃうって…」
「フッ…アッハハハハハハハハハ!!」
聞こえてきた発言に、つい笑ってしまった。
そうそう、こいつはそんな良い事を言うキャラじゃなかった。思い出した。
「人が必死にこらえてるのにお前が笑うなハハハハハ!!」
「お前等…珍しくこの俺が真面目にしてるって言うのに!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「『『『ハハハハハハハハハハ!!』』」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
険悪だったこの場が、笑いに包まれた。
シリアス終了は突然に。




