第三百四十八話 欠片に惑わされるな?恩人の正体は!?
二話目。
いろいろと歯がゆいのがこの章の魅力。
裏口から逃げた私たちは、足音を立てないようにして町の中心を目指して逃げる。
多くの人の前なら、そうそう目立ったことをしようとはしないはずだと考えたからだった。
とは言っても、空は茜色に染まりかけている。そんな時間帯になるとどうしても人通りは少なくなってしまう。
しかし、そんなことを言っていられる状況じゃないのも事実。少しでも助かる可能性は上げたいので、私たちはそれでも走っていた。
「あ!居たウサ!」
空から聞こえた声の主は、さっきの一行にいた人だった。
妙な口調だと一瞬思ったけど、そんな思考はすぐに打ち消される。
何故かは分からないけど、空を飛べるのは厄介。隠れる時に、空から見つけることが出来ない場所を選ばなければならないということだから。
「…高壁、守…」
ふと出てきたのは、記憶を失う前に私を助けてくれた恩人の名前。
守さんに会えば、きっと助けてくれるかもしれない。今は記憶にも無い、助けてくれた時のように。
「…どうしましたか?」
突然私の様子が変わったことを心配したのか、ルクアさんが心配そうにこちらを見る。
「今戻っている記憶の中に、”高壁守”という人に助けられた、というものがあるんです。
あの人達も捜しているようですが…先に守さんを見つければ、助けてくれるかもしれません。」
敵も守さんを捜している。
なら、なんとしてでも向こうが見つける前に私たちが捜し出すしかない。向こうが先に見つけてしまったら、守さんが敵と一緒に私を捜すかもしれない。
そうなる前に助けを求める。そして私は、安心して記憶を取り戻すことができる。完璧だ。
「…でも、もしその守さんも敵の一員だったら?」
「その時はその時です。どの道、私たちだけではあの人達には勝てませんから。」
もしそうなったら、もう終わりかもしれない。
でも、私は捜し出してみせる。命の恩人を。
「見つけた!もう逃がさないよ!」
そんな時、ついにあの人達に見つかってしまった。
さっき飛んできた人が教えたんだと思う。もっと早く移動が出来れば…
「なんでさっきから逃げてるの!?わざわざ皆で迎えに来たのに!!」
迎えに来た?一体何のこと?
『…こんな時に出てくるのもどうとは思いますが…』
「誰!?」
『この声は貴方にしか聞こえていません。これ以上は見ていられないので出てきました。
一つだけ言わせてください。
記憶の欠片に惑わされずに、真実を見極めてください。』
記憶の欠片に惑わされずに…真実を見極める?
どういうこと?記憶の欠片が間違っていると言うの?
『…それは確かに貴方の記憶です。ですがそれは』
「ねえ、答えてよ!」
『…これ以上は、貴方自身で気付いてください。』
「ちょっと待って!まだ話は終わってな」
「答えて!」
「……そりゃ、記憶も無いのに敵と戦うなんて無謀ですから。逃げもしますよ。」
敵は固まった。
全員の全ての動きが止まり、表情は驚愕としか言えないものになっていた。
「今のうちに逃げましょう!」
ルクアさんの言葉が終わる前に、私は走り出していた。
『…本当に覚えていないのか?』
逃げていると、突然テレパシーの声が聞こえた。
子供が現れた時とまったく同じ声だった。
「…誰なんですか?」
『本当にそうらしいなぁ~…残念だが、本当に覚えていたらさっきあいつらの事を”敵”だなんて言わないはずだからなぁ~。』
『そう言うことなら、改めて自己紹介させてもらおう。
我の名はデュア。ルーマ、お前の背中にある剣の名だ。』
『同じく剣のルソード。ちなみに、俺は青い方だぁ~。』
剣?
「…剣が喋るとでも言うんですか?」
『これはテレパシーだ。我とルソードは意思があって魔法が使える剣なのだ。』
『俺達は記憶を無くす前のお前の剣なのだよ。』
記憶を無くす前の…
「じゃあ、記憶を無くす前の私のことを教えてくれませんか?」
『いいだろう。だが、その前に一つ教えなければならない事がある。』
「なんですか?」
『言うのか?デュア。』
『どの道、いずれ気付く事だ。これ以上不毛な事をするくらいなら全部教えた方が良い。皆のためにな。』
やけにもったいぶる。一体何を教えてくれるのかな?
『…我は高壁守のことを知っている。その居場所もな。』
「!」
『何故なら、高壁守は我らの主でもあるからな。』
「え?でも、貴方達の持ち主は…」
『そう。お前だ。』
今言われた事を整理すると、デュアさんとルソードさんは、記憶を無くす前の私の剣。
そして、高壁守もデュアとルソードさんの持ち主。
…つまりどういう……まさか!
『気付いたようだな。つまり…』
”高壁守”とは、お前のことだ。ルーマ。
…知ってたっつーの。
とか言わないであげて下さい。記憶喪失なんです。




