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第三百二十九話 もちろん大丈夫?調子に乗りすぎた!?

一話目。

睡魔が強欲すぎる件について。

「…ん?ギーナはどうした?」


 バイトが決まった他の居候組はあんなに喜んでいると言うのに、俺だけ何の反応も無かったからだろう。父さんが声を掛けてきた。


「え!?も、もちろん大丈夫よ!?」


 ギーナの目もキラキラと光っていたため、異論は無いと判断して了承した。


「そうか…本当の事を言うと、俺はお前らにバイトなんてさせたくない。だから、嫌だったらすぐに言ってくれ。」


 父さんってこんなに優しかったっけ……ん?ちょっと待て。

 という事は、ギーナの代わりに俺が働く事になるのか?入れ替わりは隠してるし。

 …マジで?


「えっと~…私は?」


「ああ、令音は良い。お前は食費が掛からないし、なによりまだ物に触れる魔法は練習中だろう?」


 令音は昨晩で魔法の使い方や、魔力の使い方を覚える事はできた。

 だが、まだ肝心の物に触れる魔法は完璧に使えるわけではないらしい。だから働こうとしても、何も出来ない可能性もある。

 それに、令音の仮の体は少し透けている。

 これを説明するために幽霊だのなんだのと言える訳が無い。


「とりあえず、どんな店かはその紙に書いた。それを元に考えてくれ。」


 俺を除いた九人は各々返事をし、その紙を覗き込んだ。

 …俺、学校どうなっちゃうんだ?






 夕食の後、ギーナに能力をどれだけ使えるようになったのかを聞くために部屋に呼んだ。

 当然バイトの事もあるが、変な粗相をしてギーナの逆鱗に触れる前に戻りたい。早くこの状況から逃れたいのだ。


「能力だけど…一応、障壁を消すところまではなんとかなったわ。だから、障壁は自在に操れるようにはなった。授業中に机の引き出しで練習してた甲斐があったわ。」


 ああ、だから授業中ノートに板書を写している合間にちょくちょく引き出しに手を突っ込んでたのか。

 手で触れることで、障壁が消えたか消えていないかを調べていたのだろう。


「という事は…」


「そう、機能と性質をつける能力ね。能力を使う要領が障壁のおかげで分かったから、多分障壁よりは早くできると思うわ。」


 良かった…もうすぐこの入れ替わりも終わる!そうしたらこの妙なプレッシャーともおさらばだ!!


「出来るだけ早く頼む!」


「分かってる。まずはこの障壁を消して、レアモンドの結晶を取り出すわ。」


 その直後、ギーナの姿は光に包まれて性別が変わる。そして能力も。


「さて…出来るだけ早く終わらせないとね!」


 ギーナは早速能力の特訓を始めた。






 ネクストモーニングだぜヒャッハー!


「…なんか上機嫌だな。」


 今の俺はタムが不審なものを見るような目で見てくるほど上機嫌だ。

 俺がこんなに上機嫌なのには理由がある。入れ替わり関連の事だ。


「フッフッフ、そりゃあ上機嫌にもなるさ。」


「……何があったんだギーナ?」


「俺はギーナではない…俺は高壁守だ!」


「何!?と言う事はもう戻ったのか!?」


 そう。ギーナは能力の特訓を始めてなんと三十分で機能を付けられるようになったのだ。障壁とはなんだったのか。

 更に、何故か部屋の本棚の裏側にあったフラフープに、触れた者の精神を入れ替える機能を付けて入れ替わった。

 そしてレアモンドの結晶に触れて男に戻った後にギーナと別れ、自分の部屋で、自分のベッドで、そして自分の体でぐっすり眠り、今に至る。


「その通りぃ!俺はついに戻れたんだ!元の体になぁ!!」


「…守、それはどういう意味だ?」


「は?お前らも知ってるだろ、俺とギーナの体が…入れ…替わって………」


 言いながら振り返ると、そこには父さんが居た。


「なんとなく違和感があったのはこういうことだったのか。なるほどな。」


「え、あ、えっと、その…」


「何故隠した?」


 ここで嘘を言えば、俺は地獄を見ることになるだろう。俺は本能的にそれを察した。

 もっとも、父さんからのプレッシャーを受けている以上、嘘なんて考えられもしないが。


「…ギーナに頼まれた。」


「何故だ?」


「……学校に生徒として通ってみたかったらしい。」


「嘘は無いな?」


「嘘じゃない。なんならギーナに確認してもいい。」


「お前が休みたかったから了承したわけではないな?」


「だったらテキトーな理由をつけて昨日は学校に行ってなかった。」


「……良いだろう。今回は許してやる。」


 内心、ハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー位の安堵の息をつきながら、表には出さずにポーカーフェイスを貫く。

 マジで恐かった…調子に乗りすぎるもんじゃありません。出る杭は打たれるのです。という言葉が、女神様の声で脳内再生された。


『本当にそう言ってあげましょうか?』


 結構です。

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