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第三百二十六話 気にも留めない?ハラハラは止まらない!?

一話目。

結局、昨日は徹夜しました。

レポートは強敵でしたね…いやマジで。

「はい。」


 ギーナは返事をして歩き、黒板の前に立つ。

 数人ばかりざまあみろと言わんばかりの視線を投げかけているが、そんな事は気にも留めていないようだ。


「ギーナ、当てられたね。」


 俺の隣で教室をドアの窓越しから見ているキャビが言う。

 その声色には心配が混ざっている。

 ギーナはそんな俺たちの様子を知ってか知らずか、チョークを持って数字を書いている。その手には迷いが無い。


「…まさか当てずっぽうに書いてるんじゃないよな?」


 俺の後ろにいるタムが言う。その可能性もゼロでも無い。

 だが、あの天才のことだ。何の考えもなしにすらすらと書くことは無い…ん?

 ギーナの回答が当たっている…?

 今気が付いたのだが、ギーナが書いている計算過程は俺たちがこの前習った公式に基づいたものだ。

 そして、ギーナは答えを書き終える。


「…正解だ。」


 先生はそう言って、ギーナの回答の上に大きな丸を書いた。


「当たった…?」


「何故だ…?」


 キャビもタムも驚いている。

 もしかして…


「もしかして、この前の俺たちの授業を見て覚えたのか?」


 それとも、俺の教科書をこっそり読んでいたか…のどちらかだろう。

 いずれにせよ、ギーナは正解を導き出した。その事実に驚いたのは俺だけではない。


「光達もポカンとしてる…」


 そう。入れ替わりのことを知っている親友四人も驚いていたのだ。

 ちなみに他のクラスメイトはというと、歯噛みしているもの、顔をしかめているもの、など、十人十色な反応をしているが、大体(特に男子)は悔しそうだ。


「…なんというか、さすがチートだよな。」


 タムの言葉に対する返答は無かった。






 その後に当てられることは無く昼休みを迎えたが、それまで俺はハラハラしながら授業の様子を見ていた。

 いつもの俺ならあんな熱心に先生の話を聞くことは無いし、ノートを丁寧に書くことも無い。

 その様子で怪しまれると思ったが、意外なことになんとも思われていない。いや、睨むので精一杯といったところか。

 ギーナはそんな事などどこ吹く風と流しているようだが、このままだと確実に…


「おい、そこのお前。」


「なに?」


 やっぱりか…やっぱり誰か突っかかってくると思った。

 ギーナは教室を出たところでいかにも不良のような生徒に話しかけられた。しかもその様子は機嫌が良いとはかけ離れている。


「お前…美人の彼女が出来てるからって、調子に乗ってんじゃねえぞ?」


「…え?ああ、俺に彼女は居ないよ。」


「とぼけんな!お前に彼女が居る事は既に学校中に知れ渡ってんだ!!これを見ろ!!」


 そう言って不良が取り出したのは一部の新聞…って、あれ南凧野新聞じゃないか。

 南凧野新聞は、この高校の新聞部が独断と偏見で記事を選抜して書き、気まぐれで発行する新聞とは言えるかどうかすら怪しい自由すぎる新聞だ。

 その一面には…げっ…


「”高壁守に美人の彼女!”このでかでかと書かれた見出しを見てもまだ否定するか!」


 嘘だろマジで…

 根も葉もない彼女疑惑をでっち上げられ、しかもそれが学校中に知れ渡っていると言う…まさに悪夢だ。

 強く否定したらますます怪しまれるんだろーなーとか思ってあんまし否定して無かったのが裏目に出た。しかも最悪な形で。

 新聞部め…今すぐにでも乗り込んで訂正とお詫びの記事を書かせてくれる!


「…これ、学校中に知れ渡ってるの?」


「そうだ!さっき言っただろ!!」


「……」


 ギーナは開いた口がふさがらないようだ。ポカーンとしたまま動かない。


「…んん?おい!どうした!動け!!」


「……」


 不良が大声を上げるが、フリーズは解けない。


「ギーナ…新聞部に悪夢を見せてやるから後に続け。」


「うおっ!?いつの間に…」


 いたたまれなくなってきたので、ギーナに高速で助け舟を渡す。


「…!そうね。この記事をぜひとも訂正してもらってたっぷりとお詫びしてもらわないと…」


 ギーナから黒いオーラが湧き出る。既に俺の周りに漂っているものと同じだ。


「お…おい…なんだその黒い霧みたいな奴は…ヒッ!?」


 不良は怯えた様子で俺たちを見てくる。

 一瞥しただけでこの有様だ。さっきの威勢はどこに行ったのか。

 まあ、そんな事はどうでも良い。


「さあ…待ってろよ新聞部!貴様らに引導を投げつけてくれるわぁ!」


「そうね。さあ、行きましょう。」


 俺とギーナは黒いオーラを纏ったまま、新聞部の部室へと急いだ。

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