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第三百十八話 名前を考えろ?見まくってた!?

一話目。

またも難産。

 

「ねえ、そのレイガーに名前をつけない?」


 こんな発言をしたのは一体誰だったのだろうか。

 俺はそいつの事を恨めしく思いながら歩いていた。何故なら…


「森で拾ったんだからモリソーだろ!」


「そんなどこかで聞いた覚えがある名前なんて駄目に決まってるじゃない!赤い猫みたいな外見なんだから、レッドでしょ!!」


「まんま過ぎるだろ!そこはもっとひねった名前をだな…」


 論争が起きているからだ。俺の肩にいる幻獣様の名前について。

 十五人も居れば多すぎるほどの意見が出る。しかも取り仕切る人間がいないのでは必然的にカオスな状況になってしまうだろう。


「やっぱりここはポチかタマよ!」


 ギーナはどんだけポチとタマを推すんだよ…フォルフの時も言っただろ。

 俺はため息をついて名前はまだ無いレイガーを見た。こいつ、呑気に寝てやがる。

 自分の事だと言うのに全く関係ないように振舞っている幻獣様を見た俺は、またため息をついた。







「はあ…魔物ってこんなに見つからないものだったっけか?」


 森の中を一人で歩く少年。この少年はパートナーとする魔物を探していた。

 この少年は”魔物使い”と呼ばれる、魔物を従えて戦ったり人々の依頼をこなしたりする狩人。その卵だ。

 余談だが、魔物使いという呼び名は、元は単に便宜上の呼び名であった。

 しかしその言葉が流通していき、ついには正式な呼び名となったのだ。魔物使い専用の依頼と言うのもちらほら見られるらしい。

 話を戻そう。この少年は”卵”という理由。それは、まだ一匹も魔物を従えていないからだ。

 なので少年は森に入り、最初のパートナーを探しているのだ。

 そんな少年に、ある光景が飛び込んだ。


「ん?あれは…魔物だ!」


 少年が見つけたのは、一匹のマルフ。

 長い時間探し回り、ようやく見つけた魔物だ。少年のテンションはうなぎ上りだ。

 少年は足音が立たないように気をつけながら器用に走り寄り、木の陰に隠れてマルフの様子を窺った。


「だから、もっとひねった名前にしろよ!!」


 少年はマルフの近くに人が居ることに気付き、そこにいる人は魔物使いで、あの魔物には既にパートナーがいるのだろうかという考えが浮かぶ。

 だが、その考えはすぐに打ち消された。

 何故なら、その少年が住んでいる村以外の村では魔物使いはそうそういない。あの集団は間違いなく余所者だ。だから違うだろう。

 と思っている少年は集団を見て、ある一点で止まる。


「アレはまさか…幻獣レイガー!?」


 幻と呼ばれるほど珍しい獣。幻獣レイガー。

 警戒心が強く、人間の気配を感じ取っただけでその場から離れるため、その姿を見たものは数少ない。

 爪には猛毒があり、その動きは俊敏。

 魔物使いは獣も従える事ができる。

 獣よりも魔物の方が多方面で優れているため、実際に獣をパートナーとするものは少ないが。

 せっかく見つけたんだ。放っておく手は無い。

 そう思った少年は、人の集団に近づいていった。






 誰かが俺たちを見ている。

 その気配を感じたのは、俺が二度目のため息をついた直後だった。

 …近づいてきたな。動き始めたか。


「やっと来たか。さっきから見てたみたいだが、なんなんだ?」


「は?守、何言ってんだ?」


「…気付いてたか。」


 俺の後ろから人が出てくる。さっきから俺たちを見ていた奴だ。


「お前らは魔物使いか?」


「魔物使い?」


 魔物使いってなんだ?聞いたことが無いな。


「魔物使いっていうのは、魔物か獣を従える狩人のことよ。とある町で盛んになっていて、それ以外のところではあまりいないんだけど…

 そう言えば、この辺りはその町に近かったわね。」


「その様子だと、一人もいないみたいだな。そこで、ものは相談なんだが…そのレイガーかマルフをパートナーにさせてもらえないか?」


『断る。こいつらと一緒にいると楽しいからな。離れる気は無い。』


「ミャ~。」


「レイも断る、だって。」


「レイ?」


「うん、この子の名前。」


「ミャ~。」


 レイガーが俺から降り、キャビの肩に飛び乗る。


「喜んでる!」


「みたいだな。こいつの名前はそれにしよう。」


 レイガー改め、レイの様子は喜色満面そのものだ。

 キャビにも懐いたらしい。


「…それは残念だな。実は今、パートナーにする魔物もしくは獣を探していたんだが…どこかで見てないか?全く見つからなくてな。」


 …見まくったな。幻獣の群れを。

 だが、それを言うと薮蛇になりそうなので言わない事にする。実際のところどこで見たかも良く分からないので、案内しろって言われても無理だしな。


「ここに居る奴ら以外は見てないな。」


「そうか。俺はまたパートナー探しに行く。じゃあな。」


「ああ。じゃあな。」


「…おっとそうだ。その喋り方、止めた方が良いぞ?せっかくの美人さんなのによ。」


「なに…って、そうか。余計なお世話だ。」


 今の俺の姿がギーナだった事を忘れていた。なんとか思い出せてよかった…

 そして、魔物使いは森の中に消えていった。

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