第三百十三話 そんな優雅なもんじゃない?間違えたってなんのことだ!?
一話目。
テスト勉強の合間をぬって執筆。
…サボってはいませんよ?
平日の三日間頑張ったから休憩を入れただけで…
椅子に揺られてぶらり旅。今日はどこへと行くのでしょうか…なんて優雅なものじゃない。
椅子に縛られながら出る旅なんてあるかバカヤロー。
前にもこんな事があったからだろうか。俺は結構冷静だ。
「あれ?今のってギーナじゃ…」
流れていく景色の中、すれ違った誰かの声が遠ざかっていく。
今すぐにでも大声で叫んで助けを求めたいが、口が猿轡(木)で塞がれているため、それは叶わない。
木様許さんぞ!
…言ってみたかっただけです。はい。
それはそうと、今すれ違ったのは声からして光だろうか。他にも二、三人いたと思うが…
「キィ!」
椅子魔物が鳴いて止まる。
この椅子キィって鳴くのな。
って、木が鳴いた!?魔物って何でもありだな…
止まった椅子魔物は俺の拘束を解いて後ろに下がると、その姿を変えていった。
座った体制のまま後ろに下がったので、椅子を突然引かれたようになって尻餅をついてしまった。地味に痛い。
…は?もう開放された?早くね?
呆気に取られていると、いつの間にか目の前に光がいた。
「まずはいきなり連れてきた事を謝りたい。すまなかった。」
…光が何を謝っているのかが分からない。
しかも喋り方がおかしい。
「……む?この姿で話す方が話しやすいのかと思ったのだが…どんな姿のほうが話しやすいのだ?」
…のだ?ものすごく違和感があるな。しかも言っている事がおかしい。いつ光は真似をする悪魔の木の実を食ったんだ?
……この世界なら悪魔の木の実が実在しそうで恐いな。今度似たようなものがあるか、ギーナに聞いてみよう。
「どうした?意識はあるのか?」
「…光…だよな?」
「光、というのが誰かは分からんが、先程すれ違ったお前の知り合いらしき人間の姿を借りた。」
姿を借りた?マジで悪魔の木の実を食ったのか?
「…一応言っておこう。私はお前をここに連れてきた魔物だった。」
「だった?」
「ああ。私は数多姿族だ。数多姿族というのは」
「知っている。姿を自在に変えられる種族のことだろ?」
「…良く知っていたな。」
「ああ、前に知り合った事があるからな。」
数多姿族。かつてキャビと出会った時に巨大な魔物が攻め込んだことがあった。
その魔物の正体は、キャビの村の長の知り合いのジルムという数多姿族だった。
相対した時はもう終わりかと思ったな…
「なるほど。説明する手間が省けて助かる。」
「それで、わざわざ誘拐紛いのことをしたのは何故だ?」
「それを今から話そうとしていた。それはな」
「守ー!」
なんだ突然表情を変えずに叫んで……なんで俺の名前を知ってるんだ?
「守!大丈…あれ!?」
「あっちにも光が!?じゃあこの光は…」
「そうか!コイツが偽者」
「違うわよ!」
本物の光が来てしまった。あとタカミと俊太も。ややこしい事になった…
「守、そこの私モドキは何?」
「ああ、コイツは数多姿族っていってな…いろいろな姿に化けられる種族なんだ。」
「その通り。我々はあまり知られていない種族だからな。君達が分からない事も無理は無い。」
「それは分かったけど、私の姿でそんな喋り方するの止めてくれない?」
「ではどうしろと?君達が話しやすい姿になったつもりだったんだが。それに、化ける…という言い方は好かないが、そのためには少しではない魔力を使う。先程変化したばかりで魔力が残っていないため変化は出来ない。」
「じゃあしょうがないわね…」
光は渋々ながら納得したようだ。
その気持ちは良く分かる。どこかの誰かさんは俺の姿で女口調を使うからな…
『それは貴方も同じでしょう…』
「え?誰?」
『あ!間違えました!ごめんなさい!!』
「どうしたギーナ?」
「私にも分からない…」
『間違えたじゃありませんか!』
は?なにが?
『え、あ、えっと、なんでもありません!それより、貴方がその台詞を言うんですか?』
アーアーキコエナーイ。セイロンッポイゲンチョウナンテキコエナーイ。
「そ、それより、お前の目的は何だ?さっき言いかけたっきりじゃないか。」
『逃げましたね…』
俺が悪かった。だからまずは話を聞かせてくれ。
『仕方ありませんね…』
「そうだったな。では言おうか。私の目的はな…」
この幻聴は俺以外には聞こえないので、話の流れは数多姿族の目的に移る。
さて、コイツの目的はなんなのかね…




