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第三百十二話 変わったことわざ?俺が知るか!?

一話目。

 あれからまたしばらく経ち、もう日は暮れかけていた。

 既に二回ほど森の中から抜けたのだが、皆が居るところには出なかった。


「ミャ~。」


 そんな状況でも、この子猫は呑気に俺の肩の上で鳴いている。あの後飛び乗ってきたのだ。

 乗れる面積が広いとはとても言えるものではない上、歩いているために生じる振動もあるというのに器用に乗れるものだ…


「って、爪立てんな!」


 子猫を見ると、子猫は爪を立ててつかまっており、防具に爪が刺さっていた。

 もしも体に傷でも付いたら、ギーナに怒られ…いや、殺されるかもしれない。

 だが、無理に引き剥がそうとしてもなおの事爪を立てて更に防具に爪が食い込むに違いない。そうなれば、最悪肌にも届いてしまう。

 それは避けたいので、ヒヤヒヤしながらもそっとしておく。


「ギーナ!ココにいたのかい!」


「うわ…」


 そんな時にシンが来てしまった。

 頭にとあることわざが浮かんでくる。

 犬も歩けば…ん?形が変わった?

 俺も歩けば災難に遭う…やかましいわ!!


「なんでさっきはいきなり」

「飛んで行けええええええええええええ!!」


 シンは無言で吹っ飛んだ。いや、何か叫ぶ前に吹き飛ばした。

 …あ。爪のこと忘れてた。急いで確認したが、良く分からない。

 さっきよりも深く刺さっている事は分かるのだが…肌に届いているのかどうか。

 少なくとも痛みは無いのでますます気になる。

 とにかく届いていない事を祈るしかないか。さて、また歩くかな…


「ギー…じゃない、守!ここにいたのか!」


 と思っていたら後ろからタムの声がした。

 …ちょっと待て、今タムは何て言った?


「…まさか、ばれてるのか?」


「え?なんの…ああ、入れ替わりの事なら、皆にばれてるよ。」


 ……恐れていた事態が…


「恥ずかしいとかそう言うのは分かるけどさ、そう落ち込むなって。」


 今の俺は膝を地面に着き、がっくりとうなだれている。

 恥ずかしいだけならこうはならないのだが…


「俊太に知られちまった…それだけはどうしても避けたかったのに…」


「ああ、そう言うことか…」


 例の本の作者とだけあって俺の言いたい事は察してくれたらしい。いや、俊太を知るものなら大体察せるだろうか。


「守!やっぱりここに居たのね!!」


「やっぱり?やっぱりってなんだ?」


「さっきシンらしき物体が飛んでいったから、恐らくシンが吹っ飛んできた方向にいるんじゃないかって思って。」


 なるほど。あいつを吹っ飛ばす理由を持っているのは俺くらいだからな。


「他の皆は?」


「別の場所を探してると思う。今のことに気付いていれば良いけど…」


 少なくとも約一名のトラブルメイカーは気付かないだろうな。確実に。


「ん?その赤い猫は何なんだ?」


「赤い猫!?どこにい…ちょっと!?」


 なんかギーナが忙しない。

 この子猫が何だって言うんだ?


「なに肩に乗せてるの!?」


「こいつが勝手に乗ってきたんだよ。下手に取る事もできないから仕方なくこうして」

「言い訳はいいから!そもそも、どうやってこんなのを見つけて懐かせたの!?」


「ど、どうやってって言われてもな…」


「ミャ~…」


 ギーナの反応からしてこの子猫、ひょっとするととんでもない奴だったりするのか?

 子猫も心なしか困惑しているように見える。

 お、こんなところに椅子が。話は長くなりそうだし、座っとこう。


「フーーーッ!」


 椅子に座ろうとすると、子猫が俺から飛び降りて威嚇し始めた。

 少し傷つく。さっきまではあんなに離れなかったのに。


「何だギーナ、その子猫がどうかしたのか?」


「どうもこうもないわよ!これはね…」


「うわ!?なんだ!?」


 椅子に座った瞬間後ろから木の根っこのようなものが伸び、椅子に縛り付けられてしまった。


「守!?なんでそんなみえみえの罠に引っかかっちゃうの!?」


「罠!?椅子が罠なんて思うかあが!?」


 木の根っこは口にも絡みつき、猿轡のようになって喋れなくなってしまった。


「そうだよ!こんなところに椅子がある訳が…って、どこに行くんだ!?」


 椅子(罠)は足が長くなり、そのまま明後日の方向へと走っていった。

 どこに行くかなんて、俺が知るかああああああああ!!

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