第三百七話 言えない理由?まさかの大群!?
二話目。
「…もし移図離の能力で入れ替わりが出来る、って俊太が聞いたらどうなると思う?」
「……なるほど。そう言うことね。」
俺が危惧したのは、俊太による悪用である。
俊太がトラブルメイカーであることは周知の事実だが、その騒動の大半は俊太自身が意図して引き起こしているのだ。
実ッ苦ス汁スの一件がいい例だろう。おかげで歯がゆい目に遭ったり踏み潰されそうになったことは記憶に新しい。
「で、作戦としては移図離が一人の時に相談しようと思う。それまでは誰にも悟られないように隠す。」
「俊太一人がこの話を聞いてなければそれで良いんじゃない?」
「俊太はこういう勘だけは良いからな。事情を知っているものが増えるという事は、ばれる確率も上がるということ…それにだ。
…恥ずかしくないか?」
「その作戦でいきましょう。」
ほぼ即答とも言える早さでギーナは答える。
これで方針は決まった。後は実行するだけだ。
…少なくとも俊太にはばれませんように…
「話は終わったみたいだな。」
「ええ。行きましょう。」
俺は普段のギーナの口調を必死に思い出しながら演技していた。
演技力がこんなに働き者だったとは…給料は弾んでおこう。
…力の給料ってなんだ?
「そ、そうよだね、早く行きましょうぜ…」
「……本当にどうした?守?」
「なななんでもない…」
ギーナの演技が全くなっていない。しかもそのことに動揺したのか、更に挙動不審になった。なんと言う悪循環。
「出来るだけ黙った方が良さそうだな。下手に話しまくって怪しまれるよりは良い。」
「………分かった。」
小声でアドバイスをし、それ以降俺もギーナも黙って歩いた。俺だってあんな口調で平気というわけではないのだ。精神が削れる。
「…そう言えば二人とも、転移してなんとも無かった?」
「え?どういうこと?」
「…自分以外の生き物を転移させた時、その生き物に異常が起きるかもしれないって、世界の意思から聞いたから…」
「い、いや、何も起きてないわ!」
「そ、そうそう。」
実際は起きている。むしろその真っ最中だ。
…何て言えない。言える訳が無い。
「…二人以上のときは精神が入れ替わるかもしれないとも」
「なんともなってないって!移図離は心配性ね~、ハハハ…」
「…なら良いけど。」
図星だったが、なんとかなった…
「怪しいわね。何か隠してるんじゃないの?」
と思ったらタカミからの追撃が来た。まあ、今のは怪しいわな。俺が逆の立場でも疑うと思う。
「な~んにも?」
「そう…」
ジト目でまだ怪しいと暗に訴えてくるタカミの目を見ないように、前を向いて歩いた。
「あ!次の村ってあれじゃない!!!」
そこには次の村らしきものが見えたので、この空気を打破するために疑問符も忘れて大声で叫ぶのであった。
そう叫んだ数秒後、魔物の大群が来た。
原因は俺が叫んだからかもしれない。割と大きな声だったからな。
「なんで、守と、ギーナは、戦って、ないの!?」
火太郎が魔物の攻撃を避けながら訊いてくる。本来火太郎は遠距離型の戦い方をしているのだが、いかんせん魔物が多すぎて間合いを詰められてしまったらしい。
俺たち二人が戦えない理由は、もちろん入れ替わりだ。それが無ければ戦闘に参加していたのだが…
今の俺は最早使い慣れてしまった障壁が使えない。しかも、武器はデュアとルソードではなく、腰に下がっている長剣一本のみ。
魔法で戦おうにも、遠距離から狙い撃つような魔法はほぼ使っていないので、狙いが外れてうっかり近距離戦闘をしている火太郎達に当ててしまうかもしれない。
かと言って近距離で肉体強化または慣れない剣で戦って傷を負ったら…考えないで置こう。
と言うわけで、俺は参加できない。そうでなくとも慣れない体。戦闘が出来るほどうまく動かせるわけでもないからな。ギーナが動かない理由もそこにあるのだろう。
その結果、移動中割と魔物とエンカウントしていると言うのに、苦戦を強いられている。
何故なら、いつもの戦闘で俺とギーナが暴れまくっているからだ…ほぼ主力の二人が居ないとなると、苦戦しても仕方無いだろう…まだ主力は一人いるが。
「ねえ!話を、聞いて、る!?」
あ、考え事をしてて返事してなかった。スマン火太郎。
「ちょっと今具合が悪くて…歩く分には大丈夫だけど、戦うのは厳しいみたい。守もだって。」
と、演技をしながら答える。
一応タカミが無双して魔物を屠っているのだが…数が多いために捌ききれず、他の奴らのところにも魔物が行ってしまっている。
あの大声でどんだけ集まってんだよ…一応終わりは見えてきたけどさ!
俺とギーナは何の役にも立てない自分を恨みながら、皆が魔物を倒していく様子をただただ見ているのだった。




