第二百九十一話 ネタじゃねえよ?なんで今に限って!?
一話目。
母さんの言葉を聞いた俺は、呆けているタカミとギーナを置いて、急いで台所へと急ぐ。
そこにいたのは…
「誰だ?うるさいぞ慌てて走るな…って俺ええええええ!?」
「うるさいのはお前だ!俺!」
俺だった。正確に言うと、異世界ドタバタ騒動記の俺だ。
「え?守が二人?」
「前にも似たようなことがあったような…」
確かにそっくりさんネタはリセスの時にやったな…
って、ネタじゃねえよ!
「何なんだそこの俺は!?」
「俺はこの世界の俺だ!」
「この世界の俺は俺だ!」
「お前は何を言ってるんだ!」
「俺にもわかんねえ!」
「実は俺にもわかんねえ!」
「何この漫才…」
おっと、話が漫才になった。
「話を戻そう。この世界はお前にとって平行世界だ。で、俺はお前にとって平行世界の俺だ。」
「話が見えてこないんだが…」
「俺なんだから俺が言いたい事くらい察しろ!」
「知るか!俺はお前じゃなく俺だ!俺は俺なんだ!」
「だからなんなのこの漫才…」
また話が漫才に…自分同士が出会うと漫才をしてしまうのだろうか。
いや、高壁の場合は漫才にならなかったからこれは偶然か…
「とにかく、この世界はお前が知ってる世界じゃない。お前にとってこの世界も異世界なんだ。思い当たる節は無いか?
例えばみんなの様子がおかしいとか。」
「……言われてみれば、今日は皆がいつもより冷たかったような…」
「ど、鈍感設定…」
「何か言ったか?」
「いや、なにも。」
な、難聴スキル…
とことん典型的なラノベ主人公だなコイツ…
「それより、私達が置いてかれてるんですけどー?」
あ、他の皆忘れてた。って、いつもの居候組に加えてトーナもいるような気が…
「あれ!?守!?」
「ふ、二人いる…」
さっき置いて来たタカミとギーナも追いついてきた…って、あ。
「……私とタカミがいるように見えるのは気のせい?タカミ。」
「奇遇だね、私にもそう見える…きっと二人揃って幻覚を見てるんだ…」
こっちの世界の二人が現実逃避を始めた。普通は自分を見たらこういう反応をするのだろうか。
俺はやっぱりそういう事態には慣れたのだろうか。
逆に考えるんだ。順応性が高いのだと…
「守、説明して。」
「私達も手伝うから。」
あ、完全に俺とこの二人以外は置いてけぼりだ。
平行世界のタカミとギーナは非常に協力的だ。平行世界の俺の扱いが混ざっているせいかもしれないが、結構嬉しい。
「…というのが、俺の仮説だ。」
「じゃあ証明しましょうか。守、あなたはキャビに勝った?」
俺が話し終えると、こっちのタカミが俺たちに訊く。
「なんとかな。結構危なかったが。」
「俺は負けた。瞬殺でした。」
「はい。では、この仮説は正しいということで話を進めましょうか。で、ここがあんた達の世界じゃないって知った守はどうする?」
「「元の世界に帰る。」」
「こっちの世界の守には訊いてなかったんだけど…まあいいか。で、とにかく帰るのね?」
「ああ。」
「じゃあ、早く帰ろう?」
「…俺はついていかんぞ二人とも。トーナはまだしも、何ちゃっかり俺も連れて行こうとしてるんだ。」
「あ、ばれた?」
ギーナとタカミは転移しそうな向こうの俺の腕を掴みつつ、俺の腕も思いっきり掴んでいる。俺はこれでも何をされるか分からないような愚か者ではない。
「なんでそっちの俺も連れて行こうとするんだ?」
この時、向こうの俺以外の皆が思ったことは一つだろう。
((((((((((((……鈍感。))))))))))))
と。
「ま、俺も学校を休むわけには行かないから、そう安々と行けるようなもんじゃないしな。」
「いいんじゃない?たまにはそういう世界にいるのも。という訳で行ってらっしゃい。」
「さすが私。分かってるわね。」
「平行世界の、とはいえ自分の事だからね。」
「そうそう、学校はどうせしばらく休みになるって、あんたの両親が断ってたんだからさ。気兼ねなく行っちゃって。」
父さんと母さん!?もう断ったのか!?というか、この前父さんは女の状態でも気合で登校しろとか言ってただろ!なんで今に限って!?
とにかく、俺に味方はいないようだ。
「満場一致でこっちの守も連れて行くことが決定しました~。という訳で、腹くくって行ってらっしゃ~い。」
「行きたくなぁ~い…」
俺の悲痛な声は誰にも届かなかったようだ。向こうの俺はドンマイとでも言いたげな顔をしていたが、こちらの気持ちを知ってか知らずかそのまま転移した。
あの世界のあいつらの態度はどうしても慣れないから行きたくないんだが…
今からでもいい。誰か助けてくれ。




