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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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快楽の都編15

スズメビーの登場に息をのまれた者もいたが、動くべき者は動いていた。

ベスパーラである。

ウォータースリップを無詠唱で放っている。

本来の意味で足止め以上にはならないが、全員が退避するには充分だ。


「私はあなたを倒します」


それは、ただの宣言だった。

気負いはない、とベスパーラは信じたい。

スズメビーの答えは行動で示された。

彼の構え、魔力の流れは見えないけれど流れているのはわかる。

ベスパーラ自身が何百回、あるいは何千回と繰り返してきた動き。

突き技に、電撃による麻痺効果を乗せた“ホーネットストライク”。

発生の速さから、ベスパーラも初手でよく使い、スズメビーも得意技としていた。

それが、クスリによって付加された筋力強化によって威力、速度が増した状態で放たれる。

対抗するように無詠唱の魔法がベスパーラから放たれた。


「“ウォーターコート”」


水の膜を張り、攻撃の命中率を落とす魔法だ。

副次的効果として、火炎属性を減衰する。

だが、攻撃を防ぐわけでもなければ、麻痺効果を無くすわけでもない。

レルランも、サラマンドも、ドゥンも、ベスパーラの真意がわからない。

そうする間にも、ホーネットストライクの剣がベスパーラに届く。


「“アカンパニーウォーター”」


続けて放たれたベスパーラの魔法。

この二つが組合わさった時、低位の魔法とは思えない効果が発動する。


ウォーターコートによって、絡み取られたスズメビーの剣はアカンパニーウォーターの拘束効果で連続的に拘束される。

一回ごとの拘束時間は少なくとも、水分が無くなるまでの間、剣は動かない。

電撃の効果はどうか、というとこちらも全く効果を発揮していない。


「……!?」


「限りなく不純物を含まない水は、電気を通さない。故にホーネットストライクを食らった際は事前に水系の防御魔法を展開しておくのが良手、と習いましたよね、兄上」


「ベ、スパ、ーラ?」


「貴方が何を思っていようが関係なく、貴方はここで死にます。天恵を重ねしベリオラスに乞う。この地は我が決めし、汝の引きし符によって定められし土地なり、我が霊性の主にして粛水の女神レフィアラターよ、この地を満たす汝の雫を我が手に与えたまえ、“符”の第6階位“ウォーターゾーン”」


ベスパーラの魔法で生み出された大量の水は、たちまち廊下から溢れ、ついにはマンティコア商会の建物まで破壊した。

広くなった一帯をベスパーラは縦横無尽に駆け巡る。


「飛燕流青滝閃・水無月」


水無月の指し示すのは六。

同時に六本の青滝閃の斬撃が発生し、スズメビーを襲う。

かろうじてスズメビーはかわす。

だが、その動きは遅い。


「まだです。飛燕流蒼流脚・不動二段」


蒼流脚は移動用の技だが、ベスパーラはオリジナルの効果をもたせた。

それが不動。

動かない蒼流脚は、その移動のための力を全て攻撃に転換する。

人間の限界を超えた速さと威力の蹴りが、スズメビーの両足を削る。

一段目が左足を、二段目が右足を、それぞれ蹴り飛ばし、スズメビーは回避できない。


安全な場所で見ているサラマンド達は、ベスパーラの動きを追うので精一杯だった。


「なんだよ、ありゃ?」


「もともと、代行が習得していたであろうグラールホールド系の剣術と、フェイオンから受け継いだ飛燕流、そして俺が扉を開いた魔法。その全てを組み合わせ、応用し、繰り出す」


天才だよあの人は、とドゥンはため息をつく。

魔法を教えはじめて、一月と立っていない。

しかし、ベスパーラは第6階位の広範囲魔法を使えるようになっていた。

普通、魔法協会傘下の魔法学校で五年勉強し、卒業してようやく第3階位程度なのだ。

それを考えるとベスパーラの天才ぶりがわかる。


「だが、それだけじゃないだろ?代行、いったいどのくらいの魔法を並行発動してやがるんだ?」


サラマンドの疑問も最もだ。

ウォーターコート、アカンパニーウォーター、ウォーターゾーン、を連続で発動している。

おそらく、スズメビーの動きの遅さからウォータースリップも使っていると思う。

その他にも、飛燕流の技のための魔力もかなり使用しているはずだ。

噂にしか聞かない、無限魔力でもなければこんな芸当できない、とサラマンドは思うのだ。

ドゥンは可能性でしかありませんが、と説明を始めた。


「おそらく、あの水を魔力に変換しているのだと思うんだが」


「水、を?」


「魔力を意思と神の加護で事象とするのが魔法だ。それを逆に、事象を魔力に還元する」


「そんなこと、できるのか?」


「今の技術では無理だ。その理論も呪文の構築も糸口すら見つからない。古代魔道帝国時代なら、あるいは何かしら出来ていたかもしれん、がそのような遺物は残ってないからな」


ドゥンの苦そうな声と表情で、難易度はわかったがベスパーラのやっていることは、おそらくそれなのだ。

ならば、出来るのだろう。

論理的では全くない思考だが、サラマンドはそれで構わない、と思った。

必要なのは、勝つことなのだから。


足を止められてなお、スズメビーは強敵だった。

反射速度の上昇が、ベスパーラの攻撃を止めている大きな要因だった。

攻撃を加えるためには、接近することが必要だが、接近戦こそスズメビーの得意分野。

迂闊に近づけば、ただではすまない。

足下の水は徐々に減っていくが、魔法を放つとその分の水分がこの水に補給される。

魔法を打ち続けることで、半永久的に魔力を供給できる。

魔法を打ち続けることができれば。

このまま、長引けばそれはさせてもらえなかっただろう。


「ですから、まだ私が有利な内に勝利を決める」


ベスパーラは手にした剣を魔法の水上に突き刺した。

このモーレリアントに来たあたりから、使っていた鋼の剣だ。

飛燕流の習得に便利だから、とフェイオンに見繕ってもらった剣だった。

フェイオンを倒した剣でもある。

その剣を置き、最も慣れたレイピアを取り出す。

針のような刀身。

突き刺すことに特化した武器。


「私達の学んだ剣術は、電撃属性が得意な人が興したのでしょうね。それが、電撃属性が得意な貴方には有利に運び、騎士団長への道を開いた。しかし、電撃属性が苦手な私には不利に働いた。けれど、私はそれを不満には思わなかった。生まれ持った才能の差が大きすぎて、貴方と軋轢なく過ごすにはその方が都合が良かった」


「……」


「誤算が生じたのは、アーサー・カリバーンという稀代の英雄がグラールホールドへやって来たことでした。騎士団長の職をおわれた貴方は失踪し、私が代わりに騎士団に入った。まあ、そこでも私は己を律して目立たぬように過ごしていました。だが、それも終わった」


「……」


「炎の王や黒騎士といった規格外の戦士を前に、今の私のままでいいのか、と疑問を抱いてしまった。強くなりたいと思った。そうしてやってきたここに、貴方がいた」


「……」


「貴方には悪いですが、私の壁の象徴だった貴方を倒して、私は己を解き放つ」


「やるがいい、ベスパーラ」


スズメビーが喋ったと思った時には、ベスパーラは行動を開始していた。

レフィアラターの力を借りて、魔法の湖を全て魔力に還元、ベスパーラの存在を飲み尽くすほどの量を維持する。

その魔力を、飛燕流の技のように全身に注ぐ。

魔法で水を生み全身を包む。


「魔法でもなく、飛燕流でもなく、私達の教わった剣術でもなく、ただ私が私だけのために生み出した技。行きます、これこそが湖の騎士の剣“アロンダイト”」


残りの魔力を全て、背後で噴射し推進力とする。

射出され、水の剣そのものとなったベスパーラは一気にスズメビーに突進しーー。


ーー突き抜けた。


凄まじい衝撃によって、スズメビーは跡形もなく消えた。

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