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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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快楽の都編14

マンティコア商会の本部へ突入したレルラン一行は、犠牲を出しながらも鎮圧に成功していた。


「会頭の部屋を探しなさい。身柄を押さえるのです」


レルランは旧オルトロス会の構成員に指示を出す。

すぐに何組かに別れ、動き出す。

だが、構成員全員がバタバタと倒れる。

レルランも急にダルさを覚え、膝をつく。


「なんだ、これは」


遠くから、声がする。


「吾が輩の作り出した、エンチャント内蔵薬だが粗製の薬品をベースにしたためか、効果が不安定だ。長期にわたる投与で、スズメビーは安定したがフェイオンは駄目だ。精神耐性の低下が収まる前に送り出したが首尾はどうだろう?それにしても、量産型とはいえ人造バーサーカーの群れをよく撃退したものだ」


声の主の姿は見えないが、レルランは倦怠感を無視して声を出す。


「出てきたらいかがです?」


「言われずともでるつもりだった。吾が輩は隠れるのは苦手だ」


「こんな妙な魔法を使えるくせに今まで隠れていた男がよく言う」


「広範囲制圧呪文“スタンプスワンプ”、吾が輩のオリジナル魔法である。それに隠れていた訳ではない。吾が輩の出番ではない、と思っていただけのこと」


唐草模様のローブは焦げ茶色に染められている。

唐草の一本一本に金糸が使われており、光を反射して煌めく。

首に巻いた青いスカーフが、妙に様になっていた。


「出番も何も、ここまで桁外れた魔法使いがいるなんて聞いてませんよ」


「そうであろう。対外的には吾が輩は魔法薬学者としてここに所属しているのである」


「魔法薬学者?あなたが、ブルネックですね」


ブルネックはふふふ、と笑った。


「ブルネックなどと水くさい。吾が輩とお主との仲ではないか。昔のように呼んでくれたまえ、ニーラカンタ、と」


ブルネックの発した名前を聞いた瞬間、レルランの脳髄の奥で何かが身じろぎした。


「僕は、あなたなど知らない」


やっとの思いで絞り出した声はかすれている。


「ああ、そうであろう。そうであろうとも。あれから、千年もの時を経ているのだから。吾が輩はお主の師である。お主のことはよく知っておる」


「だから、あなたなど知らないと言っているッ!」


「今は、それでもよい。だが、忘れるな。吾が輩だけではなく、既に同朋は目覚めつつある。あの方の復活の時は間近なのだ。いつまでも、眠っておるわけにはいかぬぞ?」


ブルネック、いやニーラカンタは笑いながらレルランを指差す。


「あの方?」


「ではさらばだ。わが弟子よ」


困惑するレルランを置いて、ニーラカンタは腕を振った。

青く光る球体がそこに出現し、彼は足を踏み入れる。

全身が入ると、青い光は消えニーラカンタもまた消え去った。


魔法の効力はそこで消え、意識を失っていた部下たちもうめき声をあげながらも起き出してくる。

しかし、レルランは言い知れぬ不安に襲われながら立ち尽くしていた。


ロデオの厚くなった胸板が陥没するほどの威力の拳だった。

サラマンドは止めていた息を吐きながら拳を抜く。

ロデオ、だったものはどろりと濁った血をたらしながら絶命した。


「無茶苦茶じゃねえかよ」


サラマンドは思わず呟く。

こんなのは、戦いじゃない。

血沸き肉踊るような戦いじゃなければ、戦う意味がない。

こんな、嫌悪感しか残らない戦いでは死んだオヤジーー組長の仇討ちにはならないな、とサラマンドは自嘲した。


サラマンド、と呼ぶ声がした。


「代表代行。無事か」


「無論。そちらはどうです?」


「ロデオが足止めに来たので倒した。レルラン達は先にいかせた」


簡潔なまとめだったが、ベスパーラには充分伝わったようだ。


「では、まだスズメビーがいます。急いでパレスフロントへ向かいましょう」


先に歩き出したベスパーラにサラマンドは着いていく。


そして、しばらく後。

パレスフロントのマンティコア商会の本部にて、ベスパーラ達は合流を果たした。

各自の情報を集積する。


ベスパーラは、フェイオンによるお屋敷襲撃と、その結果フェイオンと首領の死亡、お屋敷の全焼を伝えた。

サラマンドは、ロデオの妨害と彼にも使われていた人造バーサーカー薬、その交戦について。

レルランは、マンティコア商会の本部の鎮圧とブルネックの逃走を報告した。


「つまり、いまだマンティコア商会の会頭は見つかってない、ということですね」


「ああ、僕も含め部下たちも魔法の影響があって満足に動けなかったから、捜索は進んでいない」


合流した一行は、捜索を再開した。


小一時間もすると、めぼしい場所は調べ終わってしまう。

そして、その中には会頭もスズメビーもいなかった。


「隠し部屋かなんかがあるのかもな」


「それでは、捜索の時間がかかりすぎる。敵に反撃の機会を与えるのは避けたいですね」


サラマンドと調子を取り戻したように見えるレルランの会話を聞いていたベスパーラは、舌打ちをした。


「私としたことが、間が抜けてました」


「代行?」


怪訝そうな目を向けるサラマンド、の隣にいた旧ワイバーン連盟の構成員へ、ベスパーラは命令した。


「ジャンタ鍛治店の方を呼んできてください。道案内をさせます」


離反者は出ていた。

彼らが持つ情報を、利用せずにいたことをベスパーラは間が抜けていると評したのだった。


ジャンタ鍛治店の案内人が来たあとは、捜索はかなりペースアップした。

幹部しか知らない隠し部屋も次々に発見され、その暗部も明かされていった。

ブルネックが行っていたと思われる人体実験の後や、赤く血痕がついた実験器具を見てサラマンドですら吐きそうな顔をしていた。

裏帳簿や、賄賂の資料が出てきてホッとしたほどだ。

ベスパーラ一人が平気な顔をしていた。


「これで、マンティコア商会も終わりですね」


冷静に放たれた言葉は、全員を落ち着かせた。

レルランだけが、まだ青い顔だったが。


「だな。組織としてのマンティコア商会は潰れたも同然」


サラマンドがしみじみと言った。

長い対立、その果てにはオヤジと慕う組長を殺された彼にとってマンティコア商会の消滅というのは感慨深いものがあるのだろう。

和む雰囲気をぶち壊す爆発音がマンティコア商会の本部に轟いた。


隠し部屋の一つから、ジャンタ鍛治店の案内人が吹き飛ばされてくる。

廊下の壁に叩きつけられ、案内人は動かなくなった。

ゆっくりと、中から巨漢が進み出てくる。


「スズメビー」


と、誰かが漏らした名前がベスパーラの耳に届いた。

ここで、感情を昂らせてはいけない。

いつものように、兄の前では感情を鎮めるのだ。

青い湖のように。

ベスパーラは戦闘態勢を取る。


話し合い。

元に戻す。

治療する。

そんな段階はもう過ぎてしまっていた。

後は戦うのみだ。

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