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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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快楽の都編12

ゲートタウンのお屋敷は厳戒体制が敷かれていたが、彼にとって何の意味もなかった。

顔見知りのはずの、元オルトロス会構成員が何も聞かずに入れてしまった。

同じく門番をしていたワイバーン連盟出身の若者は、それを咎めたがそれこそ何の意味もなかった。


「飛燕流旋空刻」


彼の発した真空の刃が、二人の門番を切り殺していたからだ。

まるで急ぐ素振りもなく、彼は屋敷内に足を踏み入れる。


「全てを殺し、全てを壊す、灰塵こそ我が使命」


ただ、その言葉を呟きながら。


ある種の麻薬か何かに近いものだろう、とベスパーラは予想していた。

スズメビーの変化のことだ。

表情の無い顔からダウナー系のクスリがベースになっているだろう、とも予測できる。

筋力増強、魔力増強、反応速度上昇などの効果があるようだが、経口摂取の薬品にそこまで効果がのせれるものだろうか。

これに答えを示唆したのはドゥンだった。


「薬品で精神耐性を削って、“剣”の強化魔法をエンチャントしているんじゃないか?」


「精神耐性を削る?」


「精神耐性っつうのは、その名の通り精神の耐久力のことだが素の魔法防御にも関連している。それが低ければ様々な魔法効果が掛かりやすい」


「それをすれば、人体にエンチャントできるのですか?」


「おいおい。俺を誰だと思っているんだ?エンチャント研究一筋のドゥンだぞ」


そういえば、そうだった。

その研究が成功しているかどうかは別にしても、だ。


「強化魔法と人体エンチャントの違いは?」


「効果としては違いはない。手法の違いだな。それと、人体エンチャントは頭部から胸部にかけての成功率が異常に低い、ゼロと言ってもいい」


「そこに魂が宿るから、ですか?」


「……!?」


「とすれば、アンデッドとしての蘇生も拡大解釈すれば人体エンチャントの一種ということか」


「魂……剥離する、異常に低い成功率。複合することの難易度」


初めてあったときのように、ブツブツと呟き始めたドゥンだったが、ベスパーラは気にしなかった。

彼はそういう人だ、と認識しているから。


「ということは、薬品の持続時間が切れて精神耐性がもとに戻れば、元に戻る……いや、常用による中毒、慢性化が起きていれば可能性は低い」


結論は出た。

兄は、スズメビーはこのままにしてはおけない。

殺す。

兄を殺す。

感情は、抑えていたつもりだ。

それでも、体が震えるのを止めることは出来なかった。

それは恐怖か、兄殺しという罪の意識か、ベスパーラには区別はつかない。


乱入者の報告が届いたのは、その時だった。


実のところ、その時点でお屋敷にいたのはベスパーラ、ドゥンを含め十人足らず。

残りはというと、パレスフロントのマンティコア商会の本部へと向かっていた。

まさか敵が一人で来るとまでは予測しなかったが、襲撃はあるとベスパーラは踏んでいた。

軍書にある「敵が思わない時に、思わない方法で攻めるべし(意訳)」という言葉の通り、奇襲というのは有効な戦術なのだ。

問題は、マンティコア商会は一度それを使っていること。

そして、それを思い付くのが相手だけではないことだ。

サラマンドとレルランが率いる急襲隊は、商会からの離反者のつてをたどり、この作戦に臨んでいる。

迎え撃つのはベスパーラしかいない。


「飛燕流列空閃」


フェイオンの放つ単発系の真空の刃は、毎度お馴染みウォーターコートでいなす。

いなされた攻撃が、お屋敷の内装を破壊するがベスパーラは見もしなかった。

どうせ、ここは廃棄する。

という決定事項があったからだ。

良くも悪くも、思い入れがない。


「飛燕流蒼流脚」


と掛け声を発し、ベスパーラは一気にフェイオンに接近する。

技を放つ暇を与えず、剣を交わす。

剣の向こうのフェイオンの目に、意思の光はない。

確かに、フェイオンは生きていた。

しかし、彼の精神は、魂はクスリによって削られてしまった。

スズメビーと同じだ。

そして、元々強かったフェイオンは更に強力になっている。


「飛燕流列空閃、二段」


一段目の列空閃で、鍔迫り合いを強引に抜け出し、二段目でベスパーラを襲う。


「なるほど、こういう派生もあるのですね」


感心したベスパーラが楽しそうに言う。

心底楽しんでいるから始末に終えない。

命の危険があることなど、想定の外に置いているのか。

いや、自分に命の危険があることなどない、と信じきっている、のかもしれない。

その精神構造もまた天賦の才だと、端から見ているドゥンは思うのだ。

その才が、見たものを自分のものにするまでわずか一挙動だった。


「実戦に勝る指導はない、とよく言いますが今ようやく納得しました。見てください、フェイオン。これが、あなたの指導の結果です。飛燕流青滝蒼流青滝閃」


間違ったわけではなかった。

一段目の青滝閃がフェイオンに当たる瞬間に、蒼流脚でキャンセルし、高速で回り込み背後から二段目の青滝閃。

二段目が直撃。

前へのけぞるフェイオンだったが、大したダメージではなさそうだった。

やはり、ぶっつけ本番の無理矢理攻撃だけあって確実性に乏しい。

しかし、居残り組の驚愕は半端ないものだった。

オルトロス会最強のフェイオン、モーレリアントでも五本の指に数えられる実力者に直撃を与えたのだから。


「……」


「しかし、この流派を考案した人は天才ですよ。習熟が必須ながら、技名を口にすることでトリガーが引かれる。忙しい戦闘中にほぼ全自動で技を放てるのですから」


「飛燕流旋空刻」


「今の、情けなくも精神をクスリごときに侵された貴方でも使えるほどですからね」


フェイオンの小範囲強攻撃の、効果範囲をすぐに見切って危なげなくベスパーラは回避。

そこから、またなにか閃いたように笑う。


「飛燕流……」


「精神耐性が低くなっているから、私がちょっと早く動くだけでついてこれない。先にいかせてもらいますよ。飛燕流蒼流脚、からの天恵の符を重ねるベリオラスに乞う。我は汝の重ねたる符を引き、並べ、その知見を求むる者なり。その天恵の符を賜らん。我が霊性の主にして、粛水の女神たるレフィアラターに願う。その静寂の湖畔より、力を引き出させたもうことを。“符”の第四階位“アカンパニーウォーター”を展開し、飛燕流斬流剣集合」


言葉がトリガーになり、技名のあとに言葉を追加することで、効果が増すというのはさきほどのフェイオンの二段攻撃で確認していた。

それを踏まえて、ベスパーラが放った蒼流アカンパニーウォーター斬流剣集合。

蒼流脚で距離を取って放った魔法、アカンパニーウォーター、その効果は攻撃に付随して極短時間の拘束効果のある追加攻撃を加えるというものだ。

通常ならその効果は限定的で、魔法によって発生した水分の蒸発するまで、おおよそ三発程度しか持続しない。

だが、逆に言えば水分の有る限り、拘束効果は持続する。

斬流剣によって、生み出された水の刃はそれぞれがアカンパニーウォーターの拘束効果を持つ。

それが、一斉にフェイオンに襲いかかる。


フェイオンの腕なら何発かの刃を防ぐことはできる。

しかし、無数の水の刃が次々に向かってくるならば、いつかは一撃をもらう。

そして、一撃当たれば拘束効果が発動し、次の刃を無防備で食らう。

あとは、全く身動きできず全ての刃が直撃する。

フェイオンはずぶ濡れで、全てを食らいなお立っていた。

そして、急に糸が切れたように倒れた。

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