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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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砂の王国09

これはできれば使いたくなかった。

駆けながら、そう思う。


青ざめた顔のアベルを背に。


杖を手にいまだ倒れずに前を見るルーナを追い越す。


踏ん張る気概はのこっているが、結界呪文も破れ、鎧も所々へこんでいるカリバーンの肩を借り、跳躍。


「異端第3階位“赤の誓約”」


遥か昔、炎の王によって左目に刻まれた古代の魔法を俺は詠唱する。

この短い呪文がどれほどの効果を発するか、俺は知っている。

焼けるように真っ赤に染まった左目からは、溢れる魔力が炎のようにこぼれ出る。


“無限魔力”


古代魔道帝国の遺産である炎の魔力炉から、俺の左目へ魔力が流れ込んでくる。

古代の魔法使いは、皆この恩恵を受けていたのだろう

その隆盛も納得である。


詠唱破棄で“剣”の第4階位“魔力武器”を発動、注げる限りの魔力を手に持つロングソードに込める。


刀身は、注がれた魔力の影響で真っ赤になり、炎そのものを刃にしているかのようだ。


刀身からはみ出した魔力は炎の刃の形のまま長く伸びる。

その炎の、切っ先はすでに2メルトを超えている。

俺は炎の剣を上段に構え、落下する速度も加え巨大ワーウルフを。


斬る!


ルーナの持つ魔力武器のように、抵抗を受けずに炎の刃が巨大ワーウルフの肉を断つ。

頭から尾まで、真っ二つになった巨大ワーウルフは叫ぶが、そのふるわせるはずの喉は切り裂かれ、シュウシュウという音をもらすだけだ。

やがて、そしてゆっくりと巨大ワーウルフは倒れた。


その亡骸が動かないことを確認する。


「やった、か」


憔悴した声でカリバーンが呟く。


「ああ」


「では、とりあえずカインさんのあの異端魔法について詳しく聞きたいですね」


「いや、俺よりもアベルの複合魔法とやらの詳細が知りたいな」


「お前らちょっと休んだらどうだ」


「いえ、僕の知らない魔法を使われたんじゃ、魔法使いとしてのプライドが許しません」


「プライドは後からにして今は休みませんか?」


「だな。よくみれば全員魔力も、体力も空っぽだろ?」


「それに」


続くルーナの言葉に俺たちは大事なことを、思いだした。


「この依頼は、パーティーの連携をはかるための腕試しでしたよね?」


「あ」


「あ」


「あ」


「まさか皆さん、お忘れでした?」


「私としたことが戦いに夢中で忘れていた」


「そういえば、本番はまだでしたね」


「腕試しにしては結構キツめだったけどな」


確かに、腕試しにしてはあの巨大ワーウルフは強すぎた。


カリバーンを防御に専念させ、ルーナの結界呪文を最大限に使わせ、アベルのとっておきらしき複合魔法を引き出させ、俺の無限魔力を使わざるを得なかった。


冒険者ギルドの要求するレベルはここまで高いのか?


そういえば、とルーナが呟く。


「あの黒い球体、まだありますね」


祭壇に安置された黒い球体は、ときおり赤いラインを脈動させながら、そこにあった。

ハッとした顔で、アベルが球体に近づく。

杖をかざし、魔力を調べている。


「まさかとは思いましたが、これは……」


「どうしたんだアベル?」


「転移水晶です。かなり高位の魔法使いの作ですね。ことによると古代魔道帝国の」


「転移水晶?どこに繋がってるんだ?」


「転移に条件があるみたいです。無制限の移動はできませんがいくつか要件を満たせば、ここは!?」


「どこに繋がってる!?」


アベルは焦ったような顔をしている。

そして言った。


「王都ラーナイル、です」


サバクオオカミの巣で、ラーナイルへの移動手段が見つかる。

ということは、この依頼自体が誰かに仕組まれた、ということだ。


「冒険者ギルド、か?」


信じてもいないような口調でカリバーンが言う。


「冒険者ギルドは考えづらい、あれは本来は冒険者の互助組織だ。サバクオオカミを20匹以上も用意して、それをわざわざ倒させる意味がない。とすれば冒険者ギルドを通じて、この依頼を出した人物が」


「それですね」


「サバクオオカミの群れ、少なくとも70匹以上を集め、あの巨大ワーウルフを使役し、20000リグを出資した人物あるいは組織ですね」


嫌な予感しかしません、とルーナが言う。

俺も同感だ。


「これを起動させるのは危険ですね」


調べるのは止めたらしくアベルが球体から離れた。


「だな、下手に動かしてさっきのワーウルフに襲われなんでもしたら笑い話しにもならん」


カリバーンの言葉にみな頷く。


「よし、とりあえずラーナイルに戻って冒険者ギルドにこの件について確認する。そのうえで相手の、真意をただそう」


「それには及ばんよ」


五人目の声に全員が球体の方を向く。

そして、球体から闇が溢れた。

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