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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
81/410

闘技場編08

「乾杯!!」


と、アレスのいきつけの酒場で俺たちは酒杯を掲げた。

俺と、アレスの勝利祝いだった。

まあ、俺とアレスとモンスしかいないが。

そうそう、あのあとバランは一命をとりとめた。


「剣を持った期間の短さが幸いしたようじゃな」


といつものように飄々とアレスは語った。

しかし、バランはもう闘士としては戦えないだろう、とは彼を見た神官の言葉だ。

たった一日で、コレセントの勢力図はぐるりと変わった。

序列二位のバランは引退。

序列三位のハドラーは四位に敗北。

序列四位のシュラは“大物食らい”の俺に敗北。

大戦士アレスが序列一位なのは変わらないが、その下が実力未知数の俺を含めて団子状態。

ひしめきあっているとも言える。

一度戦った序列五位の“列剣”ラウズや、序列八位の“狐面”ロンクスも侮りがたい。

そして、話題はいつしか昼の試合の内容に移っていた。


「瞬間的な強化魔法はなんとか理解した。けど、あの常時展開していた回復魔法はなんだ?」


山羊肉を焼いて、岩塩で味をつけた肉串を頬張りながら俺は尋ねた。

挽き肉を小麦粉の皮で包み、焼いた鍋貼という料理をもぐもぐと噛みながらアレスが答える。


「あれはの、筋肉の断裂を即時回復するためじゃよ」


「筋肉の断裂?」


「そうじゃ。例えば、無理をして戦った次の日に全身が筋肉痛に襲われる経験はないかの?それは、筋肉が断裂してしまったからじゃ」


「ああ、なるほどな」


「そうなると振るえる力が減少してしまうし、集中力にも影響がでる。それを防ぐため、じゃな」


「理屈はわかったような気がする」


「ま、もうひとつ理由があるがな」


「もうひとつ?」


「うむ、実は筋肉が断裂したとき、肉体は二度とそのような事態に陥らないように強化して再生する。一日酷使し、一日休息というサイクルが条件じゃがな。常時展開の回復魔法は、そのサイクルを促進し強化に繋げるため、という理由もある」


はじめて聞いた話だ。

筋肉を酷使すればするほど、肉体はそれより強くなろうとする。

人体の神秘というやつか。

話ついでに、気になっていたことをアレスに尋ねる。


「最近、あんたの魔法がとけてきた気がするんだが」


「は?わしのお主への弱体化魔法が、か?」


「ああ、どうやら以前の水準まで戻ったようだし」


「わしの魔法が、自然にとける?」


「そうそう。シュラと戦っていたときなんて、さらにキレがよくなってた気もするし」


「わしの魔法が?」


アレスが自分の世界に入ってしまったので、この話は終わりになった。

それからいろんなことを話し合いながら、飲み食いしていた俺達の前に来訪者があった。


モンスの顔が青ざめる。

うめくような声で、相手の名を呼ぶ。


「“槍士”シュラ・アンティラ」


今日俺が戦い、なんとか勝利をおさめた相手。

モンスからすれば、散々痛め付けられたので青ざめるのも無理はない。

そう、ヤクシ族の戦士シュラ・アンティラがやってきたのだ。


何の用だ?と聞こうと思ったが不意にその気が失せた。


「お前も飲むか?」


と思わず口に出す。


「あ、アニキ。なに考えてんスか?こいつは俺達を痛め付けた相手ですよ?」


「お前とハドラー、な。俺は別に痛め付けられた覚えはない」


「旨い酒だ」


酒を口に含み、ゆっくりと飲む。

至高の霊酒でも飲んでいるかのような、仕草に皆見いってしまう。

そして、感想をポツリと漏らすシュラにただならぬ雰囲気を感じる。

続いた言葉に俺は絶句した。


「私をあなたの槍としていただきたい」


な、なんだ?意味がわからないぞ?私をあなたの槍としていただきたい?


「お前のしもべとなるので、どうぞよろしくね、という意味だ」


面白そうにアレスが説明する。

やっと、考え事をやめたらしい。

シュラが、その言葉に頷く。

その噛み砕いた説明のおかげでますます意味がわからなくなる。


「なんであんたが俺のしもべにならなきゃならん?」


「ヤクシの戦士は、己より強く、かつ己の認めた相手に仕えまする。全ては、夜叉たるヤクシを薬師の王へと導くため」


新しい単語と文が入ってきたため、俺は理解を諦めた。


「で、俺に仕えるわけだな?」


「左様」


なんだか、何を言っても意志が翻ることはなさそうだ。

俺は、舎弟に続いてしもべを手に入れた。


新たな闖入者がやってきたのは、それから二時間あまり過ぎたころだった。


「やあやあ、これはこれは皆様お揃いですね、お揃いだ」


小太りだが、妙に強そうな雰囲気の小男である。


「そろそろ場をしめようかと思っていたんだが、何用だ?マクグレー」


マクグレーと呼ばれた小男は、満面の笑みをその顔に浮かべた。


「用、そうです用なんです。よろしいですか大戦士様、よろしいですか?」


「構わんよ」


「ではでは、来年初春、モーレリアにて行われる“大武術会”にコレセント代表として序列七位“大物食らい”カイン殿、序列三位“槍士”シュラ殿、序列十位“初心者潰し”モンス殿の三名に出場していただきたく、お願いしに参りました」


なんだか、序列が入れ替わっている気がするんだが。

モンスもあっしが十位でスか?とか騒いでいる。

それよりも聞きたいことがあった。


「大武術会とはなんだ?」


「モーレリアとコレセントの代表が、国の威信をかけて闘うんスよ。全三試合をして勝敗の合計で優劣を決めるッス」


「ちなみに、勝った方がその年の税率を決められる。つまり、莫大な金が動くってことだな」


アレスの言葉に、俺はげんなりした。

国の威信とか、そういう面倒くさいことに巻き込まないでほしい。


「だいたい、なんで俺達なんだ?」


計ったようなタイミングで現れたマクグレーに、詰め寄る。

視線を逸らしながらマクグレーは釈明を始めた。


「今までは、そう今までは序列二位、三位、四位の順で出ていたんです、出ていたんです。ですが今年は……」


途中で消えた言葉に俺は納得した。

俺達のせいってことか?


「それで、関係者の序列をいじってまで出場者を決めた、と」


「もちろん、実力は加味してますよ、もちろん」


序列をいじったことは否定しないわけだ。

こいつも、こんななりをしてラオルと同類だな。


「なぜ、主君より私のほうが序列が上なのだ?」


今の今まで沈黙していたシュラが口を開いた。

それは気にしてはいたが、聞かなくてもいいだろうと思って触れなかった点だった。


「それはですね、それはカイン殿のキャリアですね、キャリア」


「要するに、入って1ヶ月あまりの奴を代表のリーダーにできないだろってことじゃ」


一人余裕のアレスが手酌で酒をつぎ、飲む。


「そうです、そうです。それとですね、カイン殿の呼び名が問題でして」


「俺の呼び名?」


それは確か“大物食らい”。


「ええ、本来は序列の低いものが高いものを倒すという意味でおつけしましたが、おつけしたんですがねえ」


「俺が強すぎたのと、上がやられ過ぎた、わけだ」


「ええ、ええ、そうなんですよ、そうなんです。この大武術会のあとにでも新たな呼び名を考えますので、ひらにご容赦を、お願いします、お願いしますね」


序列の低いものが高いものを倒す。

ということは、俺はその呼び名に従う限り、高位の序列にはつけない、ということだ。

それで、七位なんて微妙な序列にしたわけだ。


「ということだそうだ、納得したか、シュラ?」


「主君の真なる力を大武術会で示せばよい、ということですね」


なんか微妙に違う。

が、スルーした。


「ところで、アレスは出ないのか?」


「うむ」


「なんでだ?強すぎるからか?」


「その通り、わしがでると出た方が勝つ」


凄い自信だが、事実だからたちが悪い。


「アレス様は審判ですね、審判。面倒くさくてもやってもらいますよ?やってもらいます」


「審判?一番面倒な仕事じゃないか」


断固拒否するといい始めたアレスを横目に、俺たちは大武術会に出ることを了承した。

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