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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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闘技場編04

モーレリア王国。

大河モーレルのほとりに優雅な姿の城を構える首都モーレリアント。

周辺諸国から快楽の都と評されるその地から、一台の馬車が走り出した。

車体に王家の紋章が記され、一目で王族専用車だとわかる。

コレセントまで約半日の道のりだ。

乗っているのは、モーレリア王国女王補佐レリア王女とその従者レルランの二名だ。

レリア王女は十七歳ながら、姉たちと国政に携わる。

モーレリア王国は特殊な国だ。

先代の王モーレル八世が若くして世を去ったあと、モーレリア王家には男性の王位継承者がまったくいなくなってしまった。

その数代前の王の在位時に、血みどろの王位継承争いが起こり、王位継承者じたいが激減した。

また、その争いを悔いた王たちが継承争いを避けようと側室をおかず、結果的に王族の人数も減った。

そのツケが今、モーレリア王家にきていた。

幼いモーレル八世の三人の娘は、力ある貴族に王家を奪われまいと三人で即位した。

以来、三人の王女の合議で国政がすすめられてきた。

今のところ、問題はない。

ただ、三人の王女の忙しさが彼女らの不満の種だということは、三人しか知らない。


レリア王女は三女だ。

姉たちのことは尊敬しているが、若い女性である以上色恋沙汰には興味津々なのだが、立場が邪魔をしている。

なにしろ、快楽の都である。

いろいろと不道徳な、背徳的な、あれやこれがあるのだが、レリアは巧妙にガードされていた。

そのガード役が、従者のレルランである。

同じ十七歳とは思えないほど大人びた青年である。


「三日しか休みがないってどういうこと?」


「三日もあれば充分だと思いますが」


「本気で言ってるの?」


「ええ」


「本気だわ、こいつ」


「このあとの予定ですが、試合観戦がご希望とのことでしたが、本日の試合は全て終わっておりますので宿で休息ということになります」


「え~、つまんなあいぃ」


「その代わり、明日は大戦士推薦試合を含む三試合が予定されております」


「へえ~、あのおじさんまだ生きてたんだ」


「仮にも伝説の五人でございますので、公の場ではそのような口の聞き方はお控えなさいますよう」


「わかってるわよ」


「また、その試合の前座ではございますが、ジョーンの試合がございます」


レリアの顔がキラリと輝く。


「ホント?はやくそれを言ってよ」


ジョーンはレリアが贔屓にしている闘士だ。

顔はいいのだが、腕はよくない。

応援する価値もない弱さだ、とレルランは判断している。

そして、レリアはまさに顔だけで選んだ。

為政者としてどうなんだ、と思っているが口には出さない。

もしなにか、問題が起これば“処理”すればいいだけだ。

それはともかく、急にウキウキしだしたレリアを見てレルランは頭が痛くなってきたのは間違いのない事実だった。


試合開始を前にして、カインは困ったことに直面していた。

簡単に言うと武器がない。

難しく言っても武器がない、ということにかわりはない。

ラーナイル以前から使っている鋼鉄のロングソードだ。

決して、高いものではないが値段の割りにいい出来の剣だ。

魔法剣にするは、魂の魔剣の依り代にするは、と酷使してきたが逃げ出されるような扱いをした覚えはない。

つまり、盗難にあったということだ。

そして、そこにも問題がある。

ここは、闘士の宿舎。

俺の部屋というものはなく、アレスの部屋に居候している。

ということは、賊は大戦士の部屋に忍び込み武器を盗んだということだ。

実は、大戦士の部屋は余計な他者が入らないように認証式の結界が張ってある。

その認証を受けている人物はそう多くない。


「一体、誰がアニキの剣を盗みやがったんですかねえ」


と言っているモンスが一番怪しい。

むしろ、こいつが犯人だろうな。


「仕方がない、カインにはわしの武器を貸してやろう」


といってアレスは立派な鞘に入った剣を俺に投げて寄越した。


「やったじゃないですか、アニキ。大戦士様の武器ですぜ」


その剣を鞘からわずかに抜き、刀身を見て俺は絶句する。


喜ぶモンスに、ニヤリと笑うアレス。

俺の顔色が変わったことにモンスは気づかなかった。


それじゃ、会場でアニキの活躍を見てますから、とモンスが走り去ったあとアレスは大笑いした。


「なに笑ってんすか?性格悪いなあ」


「あれで、バレてないと思ってやがるんだからな」


「まあ、そうですよね」


「奴の後ろには、おそらく序列三位“戦帝”ハドラーがいる。奴は身の程を知らずに序列一位を狙っておるからな」


「序列三位か、強いんだな?」


「まあ、強い。天賦の肉体に、戦闘に限って言えば天才的な頭の回転を見せる。もし、わしがいなければ間違いなく序列一位を勝ち取れる闘士だ」


「べた褒めじゃないか」


「ただな。戦闘以外には頭が悪い」


「いるよな、そういう奴」


「今回のこともそうだ。モンスを使ってお前の武器を盗ませ、わしの武器を与えさせ、おそらくわしを夜討ちでもする気じゃろうーーそこらの子供でももっとマシなことを考えるわい」


「それで、俺に“鋼鉄のロングソード”を貸すとか、あんたも相当だな」


「突発的なアクシデントはいい修行になるが、先の読める幼稚な罠はただの踏み石にもならん」


「ちゃちな罠なら、踏み潰していけってことだな?」


「うむ、思う存分踏み潰せ」


そのころ、モンスはハドラーと落ち会っていた。


「確かに、アレスは武器をカインに貸したのだな」


「へい。見るからに立派な鞘の剣でした」


「よしよし、ではカインの試合中に、声をかけた連中と大戦士を襲う。そして、そのあとは大戦士推薦試合をアレスの名で催し、私とバランが戦う。バランを倒し、私が序列一位となるのだ」


「さすがは“戦帝”冴え渡っておりますなあ」


しかし、モンスは太鼓持ちをしながらも既にハドラーを見限っていた。

カインの剣を盗み、アレスの戦力を削り、襲う。

そんな確実性のない稚拙な策に、これ以上付き合っていたらこちらまで大損害だ。

早めに手を引こう、と思った時点で手遅れだった。


突如、飛来した影にハドラーとモンスは意識を刈り取られ、昏倒した。


闘技場内の控え室に入ると、外の音が遮断される。

静穏な部屋で、集中力を高める。

いろいろあったが、戦いの準備はできている。

明らかに強さが上の相手。

モンスにさえ、てこずった今の俺が序列四位の“槍士”相手にどこまでいけるのか。

そういや、炎の王もかなり格上の相手だった。

フェルアリードもそうだったし、緑の戦士もそうだ。

知恵と根性で、差は覆せる。

と、己に言い聞かせる。


やがて、時がきて戦いの開始の時間がやってきた。

前座の序列百十二位“剣道士”ケルンと百二十八位“麗闘士”ジョーンの試合は順当に進み、順当にケルンが勝った。

レリアはジョーンに賭けて小遣いを減らし、レルランはケルンに賭けて小遣いを増やした。

その金で果実水を買わされることになるのは別の話である。


闘技場に入った俺を待っていたのは、場内の困惑した空気と沈黙だった。

闘技場の上には対戦相手らしき槍をもった青年、そして黒い戦斧をもった鎧姿の男とモンスだった。

なんだ?

なにが起こっている?

そんな場内の空気を感じたか、審判が声を張り上げる。


「本来ならば、これより大戦士推薦試合シュラ対カインの試合となるところですが、シュラ様の遺恨を晴らすため、急遽遺恨試合を開催いたします」


場内がどよめく。


「では、序列四位“槍士”シュラ対序列二十五位“初心者潰し”モンス及び、序列三位“戦帝”ハドラーの変則試合を始めます」


そこからは、瞬きすらできないほどの戦いだった。


駆け抜けたシュラの槍は、戦帝ハドラーの斧を潜り抜け攻撃を繰り返す。

対応できないまま、ハドラーは鎧を粉々にされ闘技場に倒れた。

モンスは自慢の鉄槌を構えるが、シュラは意に介さず攻撃を続ける。

一撃で倒れないように、なぶり続けられモンスは絶望に顔を染める。

そこに、シュラの声が響く。


「神聖なる闘争を汚す不逞の輩よ。我が夜叉の槍にてワルハールへ行くがいい」


その槍の穂先がモンスを狙う。

思わず俺は走り出していた。

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