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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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闘技場編03

次の日は、剣技の指導だった。

スフィアが変幻自在の剣術とすれば、アレスは縦横無尽の剣術だ。

剣の型をまずは覚える。

そこから、技を繰り出す。

その技から、さらに技を派生させる。

それは剣術の基本だが、アレスは既存の流派の技をほぼ記憶しているらしく、その全てを絡めて攻撃してくる。

狙ったのかどうかはわからないが、スフィアの連攻撃からの、アルフレッドの体術を利用した軌道修正攻撃、に続いてのカリバーンの両手持ち攻撃、の三連撃が繰り出された時は死を感じるほどだった。

全部知っている攻撃だったからようやくかわせたようなものだ。

スフィアにだって、十発に一発攻撃できればいいほうだが、アレスには今のところ一発も攻撃できていない。

防御と回避で精一杯だ。

ステータスがそのままでも、多分状況は変わらない。

技術を越えた能力の差が、はっきりと感じ取れた。

おそらく、あそこまで行かなければならない。

伝説の五人に匹敵する実力を身に付ける。

そこまで行かなければ、魔王のミニオンには勝てない。

黒騎士の力を基準にすれば、そう結論が出る。


結局、今日は一撃も入れられず終わった。


次の日は、ルイラム山脈踏破。


超絶技巧剣術。


ルイラム山脈踏破。


その繰り返しで、早一ヶ月がたった。


「明日は試合だ」


「明日はルイラム山脈踏破の日じゃ?」


「いつまでも、そればかりしとるわけにはいかんじゃろ?そろそろ、その蓄えた力を発揮してみたくないか?」


「それもそうだな」


そもそも、ここには修行に来ていた。

その意味では、今までは修行っぽかった。

まあ、コレセントまで来て闘技場で負けっぱなしというのも情けないものがある。


「相手は、序列二十五位モンス・モット。あだ名は“初心者潰し”」


「いいねえ」


いい名前だ。

逆に潰したくなる。


「今のお主ならば、二十五位程度ならば勝てる。そのくらいの鍛え方はした」


「まあ、やるだけやってやるよ」


試合当日。


大口をたたいたものの俺は苦戦していた。

ニヤニヤと笑うモンスの振るう鉄槌が厄介だったからだ。

奴の動き自体は大きな槌に振り回されるような、情けないものだ。

奴が鉄槌を振る、俺はかわす。

だが、その槌にはめ込まれた宝珠が煌めく。

そして、宝珠から衝撃波が放たれ俺に直撃。

それ自体にダメージはないものの、態勢を崩され槌の追撃が来る。

かわす。

衝撃波。

態勢が崩れる。

追撃。

かわす。

衝撃波ーーのループに何度か槌の直撃を食らう。


魔法がエンチャントされた武器だなんて聞いてないぞ。

例え事前に情報を持っていても、初心者なら対策を取れずに潰されるだろう。

修行の結果、数度の被弾でも動けるし、かわし続けられているが。

観客席にいるアレスを見ると、ーーそういえば、武器のこと教え忘れたーーという顔をしていた。

もちろん、魂の魔剣を出せば距離をとって衝撃波を放つことで倒せる。

しかし、それはアレスの望む勝ち方ではないだろう。

どうせ、ミニオンどもと戦う時は事前に情報なんて仕入れることなんてできないしな。

今ある手札でなんとかするしかない。

まずは、距離をとって態勢を整える。

モンスの技量は大したことないのだから、今出せる全速力で接近。

ロングソードを振るう。

そこでモンスは笑いを深くする。


「まあ、そう考えるよなあ。情けない、技量のない、武器に頼った、初心者潰し。衝撃波を避けられるだけの速さがあれば、こう来るよなあ」


ゾクッと背筋が凍る。

こいつ、猫を被ってやがった。

初心者潰し、わざわざ名乗って俺のようなバカを誘ってやがったんだ。

じゃなければ、数百人いる闘士の中で序列二十五位なんてなれやしない。

ずる賢いと評するのは、ひどい言い方だろう。

なるほど確かに全速力で接近した俺は、奴の鉄槌のいい獲物に見えるはずだ。


以前の俺なら。


ルイラム山脈を駆け抜けた俺の持久力は、更に全速力で動ける。

一度、振るいかけた剣を戻し、駆ける。

鉄槌の一撃をかわし、衝撃波を耐える。


「お前、なんつうスタミナ」


モンスの声を横に聞き、再度剣を振るう。

モンスの革鎧に当たった剣に力を込めて、吹き飛ばす。

そのまま、場外までぶっ飛べ!!


90キログラムはあるモンスは宙を舞った。

そして、場外に落ちた。


「いてて、思い切り吹っ飛ばしやがって」


審判が大声で叫ぶ。


「勝者、カイン・カウンターフレイム」


闘技場が怒号に包まれた。

そのほとんどが、モンスに賭けていたのだろう。

三戦連敗の初心者が、初心者潰しと戦ったらどうなるか。

普通に考えれば、どちらに賭ければいいかわかるだろう。

満面の笑みのアレス。

俺に賭けた奴らは大穴を当てて、さぞかし笑いが止まらないだろうな。


「いやあ、笑いが止まらんわい」


出迎えたアレスはまさに喜色満面という顔だった。


「そいつはよかったな」


「なかなか良い相手だったじゃろう?」


「ああいう相手だと知っていやがったな?」


「まあの。ああいう相手と戦えば、自然と戦闘中の判断力というものが養われていくからの」


これも修行。

体力、精神力、耐久力、判断力ーー。

鍛える事項はいくつもあり、鍛えることの手段もいくつもある。

総合的に強化をはかり、成功させるアレスはーーその手段の是非はともかくーーやはり、化け物だ。


「それでの。次の試合なんじゃが」


「もう、決まったのか?」


「わしの権限でねじ込んでおいたわ。年間十回だけ使える大戦士推薦試合というやつじゃ」


「もしかして、今までのもか?」


「次の試合で五回目じゃな」


「なんか、すまないな」


「気にするな、今まで十回使いきったことなどないのじゃよ。こんな時でもなきゃ、無駄になる権利じゃ」


「じゃあ、気にしない」


「ちなみに三日後、相手はーー」


アレスの言葉を遮って、ドタドタと何かが走ってくる。

アレスのいきつけのこの酒場に用がある人物に、心当たりはないのだが。


「アニキ!!“槍士”と戦うって本気ですかい?」


つい先ほど、戦ったばかりの“初心者潰し”モンス・モットだった。


「俺は、あんたにアニキと呼ばれる筋合いはないんだが?」


なぜか、いい笑顔のモンスも加わり夕食から晩酌に移行した俺たちは当然の疑問をぶつけていた。


「俺にとって、アニキはアニキですから」


「答えになってねえし」


「まあいいじゃないか、舎弟ができるのは悪くないぞ」


「さすがは、大戦士さま」


「火に油を注ぐな」


「よいではないか、よいではないか」


頭を打ったのではないか、と思うほどモンスは俺に馴れ馴れしかった。

アレスもそそのかすし。


「で、アニキ。“槍士”と戦うって本気ですか?」


「そもそも“槍士”ってなんだ?」


「次の対戦相手だ」


「序列四位“槍士”シュラ・アンティラ」


「序列四位?“狐面”や“列剣”より強い奴ってことか」


「シュラ・アンティラ。四十三戦四十勝三敗、ちなみに三敗は、戦う価値のない相手だったから不戦敗だったんだとよ」


「つまり、実質無敗」


「何者なんだよ?」


「ヤクシ族じゃ」


「ヤクシ族?」


「ルイラム山脈の奥地に住まうとされる戦闘民族のことですよ」


「民族全体が戦うことに特化している。まあ、人里に降りてくるのは稀じゃがな」


なんだその怖い民族。

そんな奴らがいるなんて、まだまだ俺も知らないことばかりだ。

しかし、その戦闘民族で序列四位か。

三位の奴や、二位の“王者”、そして目の前の序列一位“大戦士”の力量ってどんだけなんだよ。


その次の日から、さらにキツイ修行になったのは言うまでもない。


試合前日夜半。

薄暗い路地裏で、男が二人話し込んでいる。


「うまく取り入ったようだな?」


「へえ。大戦士はともかく、あの若僧は脇が甘い。なんの苦労もありやせんでしたぜ」


「私のことも、そう思ってるんじゃないのかね?モンス・モット」


「滅相もない。序列三位の“戦帝”ハドラー様には敬意しかもっておりません」


「ならばよい。では引き続き奴等に取り入り、弱点を探すのだ。この私が、序列一位ーー闘技場の覇者となるために、な」


低く笑うハドラーとモンス。

コレセントの夜は深い。

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