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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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闘技場編02

気が付くと砂が口に入ったのか、ジャリジャリと嫌な感触を覚える。

体が動かないから、倒れているのだろう。

遠く声が聞こえる。


「勝者、狐面のロンクス」


さらに遠くで、歓声と悲鳴が響く。

観客のたてる声が闘技場を満たしていく。

今度は近くで声がする。


「大戦士様の推薦だから相手をしてやったが、お前ごとき本来ならば三年修行しても相手にならん。とっとと荷物をまとめて帰ったほうが身のためだ」


そういい放って、声の主ーーロンクスは去っていった。

これで、俺は闘技場に来て三戦し、全敗したことになる。

ようやく体の自由が戻り、歩いて闘技場の外へ出る頃には観客もあらかた帰ったあとだった。


「ロンクスあたりなら、いい勝負になるかと思ったがな」


闘技場の外で俺を待っていた老人が、ニヤリと笑いながら俺に言う。


「縛りがなきゃな」


「ふむ、それもそうだな」


老人の名はアレス・ゾーン。

伝説の五人の一人である“大戦士”だ。

俺の剣の師であるスフィアが紹介状を書いた相手が誰あろうアレスだった。

紹介状を見たあと、アレスはくくくと笑った。


「あの小娘、まだ生きておったか」


などと笑みを深くしながら言い放つ。

正直、師匠を小娘扱いする人物は初めて見る。


「カイン・カウンターフレイム、か。いいだろう、わしが修行をつけてやろう」


「よろしくお願いいたします」


「まずは、そうだな。“符”の第11階位“ステータスダウン”を永続化」


何気に詠唱破棄で、第11階位呪文を放ってきた。

さすがに伝説の五人の名ははだてではない。

魔法がかかる同時に、俺の体から力が抜ける。


「弱体化の魔法だとはわかったが、どんだけ下がったんだ、これ?」


「約七割減じゃ。気軽にかけるにはこの程度が限度。わし呪文唱えるの苦手じゃしな」


気軽にかけて、ステータス七割ダウンとかホントに化け物だ。

カリバーンがどんだけ苦労して、妨害呪文かけまくったか知っているだけに、だ。


「それと、お主。妙な剣を使うな?非物質を無理矢理顕在化させるような」


魂の魔剣のことだろうか。

確かにあれは、物質じゃないものを無理矢理、出現させている。


「その剣の使用は、わしが許可するまで封印せい」


それに異論はない。

使ってて思ったが、あの剣は強すぎる。

全力だったとはいえ、炎の精霊王を一撃とか。


「その強さについては、わしはよく知らん。だが、その剣には決定的な弱点があるはずじゃ」


「弱点?」


「おそらく、お前の生命と同期しておる。つまり、剣が折れればお前も死ぬ」


「ーー!」


マジか。

あ~でも、なんとなく納得した。

俺の意思の強さが、そのまま剣の強さだとしたら、俺の弱さも、俺の生死もそのまま剣に反映される。

諸刃の剣、という言葉が頭に浮かんだ。


「それでは、お主はこれから一日一試合戦ってもらう」


「いきなり?」


修行をしてもらいたいとは言ったが、闘技場の試合をしたいとは言ってないはずだ。

ただ、ここに来た時点でそういう展開になるかも、と予想はしていた。


「怖いか?」


「いや、楽しみだ」


「その笑いはどこまで保てるか、見物だな」


なんて言ってたのが、三日前である。

そのあと、闘技場の序列二位の“王者”バランに挑み、秒殺。

翌日、序列五位の“列剣”ラウズには瞬殺。

そして今日、序列八位の“狐面”ロンクスに敗北。

コレセントに来て、まったくいいところがない。


「ふうむ。こんなところかの」


「なにが、こんなところなんだ?」


そういえば、早い段階で言葉遣いに気を使わなくていい、と言われていたからタメ口である。

あれから、アレスのいきつけの飯屋に向かい、飯を食っている。

大食らいの闘士たちが多いからか、市街は飲食店が多い。

味もひどい店はほとんどなく、平均的に旨い。

アレスの選んだ店も、肉料理をメインに旨いものばかり揃っている。

火酒を片手に、旨い肉を食っている状態だ。


「お前の素の強さよ。ステータスが七割ダウン、ということは約三分の一ということだ。三倍して丁度よさそうな狐面あたりがお前の強さの基準だな」


「なるほど」


「では、しばらくは試合をせず基礎能力をあげることに専念しようかのう」


「わかった」


その返事を安易にしたことを、俺は死ぬほど後悔した。


翌日、まだ日も昇りきらないうちに俺は叩き起こされた。


「行くぞ」


アレスの短い一言で、本格的な修行が始まった。

コレセントの奥地は、ルイラム山脈という。

その名の通り、ルイラム全土を北の岩壁まで覆う大山脈だ。

非常に険しく、住む獣もほとんどいないために獣道もない。

ルイラムは結界に覆われて、山側からは入れないため、誰も通らない。

そんな人跡未踏の地へ、俺とアレスは踏み込んでいった。

駆け足の速さで、アレスは道なき道を踏破していく。

老人とは思えないほどの健脚ぶりに、俺はついていくのがやっとだ。

それから、半日。

俺の足が限界を迎える頃、ようやくアレスは足を止めた。

息ひとつきらしてないのが、ますます化け物じみている。


「では、ここからコレセントまで走れ」


「は?」


半日かけてきた山道を帰れとか。

そういう展開は、少しは予想していたけども。


「わしは先に帰っておるからな」


と言うなり、アレスは先程までの倍ほどの速さで走り出した。

あれで、まだ倍の速さでいけるのかよ。

人間じゃねえ。

今まで、伝説の五人といわれる人物と何人か会ったが、大戦士は別格すぎないか?

大賢者マーリンは、教養豊かな好好爺だし。

軽業師スフィアはやや怪しいが、充分人間の範疇だ。

氷雪の女王イヴァとは、会話しかしてないが常識外れというところまでいかない気がする。

しかし、いくら人間離れしていたところで、魔王と呼ばれる相手と戦う力を得るためには手段も相手も選んでられないだろう。

それに、おそらく黒騎士は炎の王より強い。

なんとなく、だが。

まだ、始まったばかりの修行にあれこれ文句を言っても仕方ない。

今はただ、この道なき道を駆け抜けるのみ。


闘技場の序列二位の“王者”バランは、いつもの店で火酒を飲んでいるアレスを発見して声をかけた。


「アレス翁、今夜は一人で飲んでるのですか?」


最近、新弟子をとって闘技場に出しているはずだ。

バランも、その青年と戦ったが。

期待はずれは否めなかった。

アレスの直弟子となれば、それだけで一流の闘士の証だ。

バランもいまさら誰かの弟子に成る気もなかったが、アレスの弟子なら考える。

そう思っているのはバランだけではない。

闘士を目指して、ここに来る人物はたいていそうだろう。

それだけに、あの青年のことが気にかかる。


「バランの小僧か。先日はすまなんだな」


「あの青年ですな。彼は何者なのですか?」


「ーーそうだの。お前は知っておいたほうがいいな。あやつはな、軽業師の弟子よ」


「スフィア・サンダーバードの、ですか?」


「わしの魔法で、能力を三分の一程度に抑えている。それを聞いてどう思う?」


バランは、考え込む。


「あの三倍ならば、狐面といい勝負になるかと」


「わしも同感じゃ」


「つまり、先の試合は我らで彼の力を計っていた、と?」


「まあな。お前じゃから話した。その意味わかるな?」


並みの闘士たちなら、屈辱に感じるかもしれない。

自分たちの力量を単なる物差しに使われる、というのなら

力で押さえつけている闘士たちがなんらかの行動を起こすかもしれない。

やはり、これは言わないでおこう、とバランは思った。


「で、彼はどうしたんです?」


「ルイラム山脈に置いてきた」


「ーー何かの比喩ではなくて、ですか?」


「そのままの意味じゃ」


「死にますよ」


「その時はその時。そこまでの器だということだ」


やはり、厳しい。

序列一位“大戦士”だけある。

コレセントのカリスマ。

しかし、あの青年は大丈夫だろうか?


ガサリ、と音がしてアレスとバランの前に人影が現れた。


「半日と少し、遅いぞ」


「どうも、すいませんね」


青年ーーカインが現れたとき、アレスの顔に笑みが浮かんだことにバランは気付いた。

ひょっとすると、ひょっとするかもしれん。

バランはそう感じたが、言葉にはしなかった。

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