炎の王編 終幕
ラーナイル王の帰還は喜びと呆れをもって迎えられた。
表向きは、調査完了として問題などなかったかのように振る舞う。
中級の魔法使いがごっそり死んだことで魔法関連の防備が落ち、セト軍の離脱によって混乱もしていた。
「これから建て直すのは大変だろうな」
どう考えても他人事だからな。
俺ができることはないだろう。
死ぬほど苦労するのはホルスだろうし、ルーナも巻き込まれるだろう。
アルフレッドはラーナイルに帰る道で消えた。
セトに合流するのだろう。
ホルスはわかっていて見過ごしたようだ。
実は消える直前、アルフレッドは俺に挨拶に来た。
「じゃあな、元気でやれよ」
「ああ、お前もな」
名残惜しそうにみえるが、アルフレッドの場合本心が見えづらい。
「なんだよ?」
「全部終わったらさ、本当の冒険者のように大冒険しようぜ。俺とお前とアズとさ」
「ーーそうだな。楽しい大冒険になればいいな」
「なればいい、じゃねえだろ?楽しい大冒険にするんだよ」
「だな」
俺とアルフレッドは拳を打ち付けあって別れた。
そんな日が来るのは難しいだろうが、そうなればいい。
そうなればいいな。
カリバーンは、ラーナイル港から出る船で出ていった。
強くなったとは思うが、まだ足りない。
とのことだ。
今回、炎の王と黒騎士とともに行動したことで強さの基準が上方修正されたらしく、もともとストイック気味だった性格とあいまってさらに自分を追い込んでいるようだ。
まあ、頑張ってくれと言っておいた。
アズは南に向けて旅立つことになった。
一週間ほど、ラーナイルの王宮の書庫にこもりきりで何かを調べていたようだったが、そこで何かを見つけたのだろう。
「まあ、たぶん一年会わないと思うよ」
「そうか」
「寂しい?」
「まあな」
「なら、いい」
「ん?どういう意味だ」
「なんでもないよ」
ルーナには負けない、と呟いた声はカインには聞こえなかったようだった。
遥か北の大地でアベルは、泣いていた。
記憶はほとんどなかったけれど、炎の王であるラグナ・ディアスが自分に深い関わりのある人物だとは気付いていた。
理由はわからないけれど、魂の奥底から溢れた感情が頬を濡らしていた。
「わかってます。きっと彼は止めますから」
涙も凍るほどの寒さの吹雪が大地を駆け抜ける。
その言葉は、風にまぎれ飛んでいった。
「ホーネットストライク」
叫びながら、レイピアを突き出すのはベスパーラだ。
グラールホールドからも、ガッジールからも遠く離れた場所で修行を続けていた。
黒騎士に負けたことで、自分を見つめなおすことにしたのだ。
まだまだあの領域には届かない。
歯噛みしながら、剣を振るう。
今まで感じたことのない、その感情をもてあましながら、ベスパーラは前を向く。
今は本当の廃墟となった“灰色の迷宮”城の最上階。
瓦礫まみれのホールで、二人の男が向き合って座っている。
「どちらが器に相応しいか。どう決める?」
「どちらでも変わりはないさ」
「それはそうだが」
「我らが師によって選ばれた時、我らの運命は決まっていたのだ」
「それもそうだ」
「ゆえに、最後まで立っていた方でどうだ?」
「妥当だな」
「たとえ、同じ魂を持つ兄弟よりも深い絆の相手とて、容赦はしない」
「望むところだ」
二人は立ち上がり、剣を抜く。
果てしない、青と紫の戦いが始まった。
闘技場の街コレセントで。
廃都ガッジールで。
帝都プロヴィデンスで。
騎士の都レインダフで。
甦り始めたクード村で。
神殿都市デヴァインで。
一年後に迫った終わりの時を知らず、人々は笑い、泣き、怒り、喜び、生きている。
仲間たちが去ったあとのラーナイルで、俺も旅立ちの準備を終えていた。
ホルスの好意で、王宮に部屋を用意してもらっていた。
なかなかいい部屋で、三食昼寝付き家賃無しという天国ともいうべき環境だ。
そこに別れをつげるのは惜しいものがあるが、そろそろ出なければ、時間がなくなる。
昼間に出立すると、ホルスが盛大に見送ろうとか言いかねない。
ので、前回と同じように夜中に出発することにした。
そのタイミングで、部屋の戸がノックされた。
「どうぞ」
別に見られても、明日の準備とか言えばいい、と判断して客を招き入れる。
入ってきたのは「やっぱり、今夜出ていく気だったのですね?」
ルーナだった。
「まあ、そうだな」
もちろん、ルーナのところへは挨拶に行くつもりだった。
目にうっすらと涙を浮かべたルーナの前では言わなかったが。
「私にだって、これからおこることがどんなに大事かはわかります。だから、行かないでとはいいません」
「……」
ルーナは深呼吸する。
「好きです。あなたが好きです。カインが好きです。だから、待ってます。百年でも千年でも待ってます」
「俺を好きになってくれる人がいるとは思わなかった」
本当にそう思う。
ルーナは目を丸くして、そしてころころと笑った。
「あなたは、もっと幸せになるべきです」
「そうかな」
「そうです」
いたずらっぽく笑うルーナ。
「今までの分、もっともっと幸せにしてあげます」
なんだか、話が進んでいる気がする。
いろいろとまずいような。
たぶん。
こうして、俺の長い長い戦いは終わった。
俺たち二人のことは夜空に浮かぶ月だけが見ていた。
第一章である“炎の王”の章はこれにて終幕です。このあと、伝説の魔王が復活するまでを書いた“魔王”の章へ突入します。
主人公カインをはじめ、仲間たちがまた活躍する、はず。
新メンバーも出ます、たぶん。
これからもよろしくお願いします。




