砂の王国07
「カリバーン、奴らの突進ガード後、壁解除。攻撃に回れ」
「アベル、攻撃呪文は控えて連射できる妨害呪文を放て」
「ルーナ、カリバーンの壁解除にあわせて回復呪文。あとは後ろにぬけた奴を倒せ」
矢継ぎ早の指示に仲間たちは素早く応える。
カリバーンは、敵の突進に耐えきり目の前に集めた奴らを両手剣でぶったぎる。
切り際に敵の敏捷力を低下させる“符”の“アースバインド”を全体化して放ったのは流石だが、全体化の呪文は第6階位にならないと修得できないはず。
必然的に、カリバーンは第6階位以上の魔法使いランクを持っている、ということになる。
だから今どうだ、ということでははないが。
アベルはアベルで、カリバーンの剣の間合いの外に数秒間行動不能を付加する“杖”の “ライトニングサークル”を放つ。
即座に相手の視界を曇らす“杖”の“フォールクラウド”をカリバーンの目の前、敵の集中している場所に着弾させる。
あのやろう、低位の呪文を連射しろって意味だったのに第6階位のと第3階位の呪文をわずかな差で連射しやがった。
それも抜群のコントロールで、だ。
震えがきた、いい意味で。
魔法の師であるマーリン・ディランの戦いを見ているようだった。
とんでもない奴もいたもんだ。
そして、ルーナだ。
治療メインの後衛、いわゆる神官だと話していたが、実際は治療もできる僧兵のような戦い方だった。
“杯”の防御結界呪文を駆使して、カリバーンの壁を突破してきた敵を見えない通路に挟み込み、手にした杖で殴り潰す。
あれ、杖じゃなくてメイスじゃね?
おそらくは魔力を込めることで威力を増した魔力武器なのだろう、面白いように敵が潰れていく。
俺はといえば、壁から攻撃役にスイッチしたカリバーンのさらに前。
最前線で剣を振るっていた。
ルーナの回復呪文の着弾限界である。
敵の侵攻を撹乱し、ある程度数を減らし後方の仲間に余裕をもたせるのが役目だ。
派手な魔法は使わないが、強化呪文を少しずつ己にかけて戦闘能力を底上げしている。
最小限のステップで敵をかわしながら、攻撃を加えていく。
余裕があるように見えるが、かなりの修羅場だった。
洞窟に入った俺たちを待っていたのは、無数のサバクオオカミの群れだった。
ゆうに50匹、外に出ていたサバクオオカミの二倍以上の群れが襲いかかってきた。
カリバーンの壁は固かったが、それでも限界はある。
一度に対応できる数には限りがあるのだ。
そこでアベルに足止めさせ、俺が前で敵の撹乱をする。
カリバーンにも攻撃させ、ルーナが討ち洩らしを処理する。
カリバーンに余裕ができたら、俺が下がって奴を前にだす。
変則的な前衛のスイッチだ。
ルーナが結界呪文の応用を駆使して、前衛もできることが判明してからは三人でのスイッチを廻す。
やがて、前衛二人。
二人から三人。
全員が息つく間もなく戦い、そして。
最後の、サバクオオカミが動かなくなったのを確認して俺たちは息を吐いた。
「単純な数の暴力だったな。だがそれだけにキツかった」
カリバーンの言葉がすべてだろう。
一対一なら、ある程度余裕をもって対処できる相手でも50体もいれば、全力で立ち向かわねばならない。
「正直、アベルの連射魔法がなきゃ無理筋だった」
「いえいえ、僕の魔法なんて小手先の技。壁の皆さんがいなきゃ何もできませんでしたよ」
「私は、敵に身をさらし剣を振るった。ただそれだけしかできん。ここまで耐えることができたのも、優秀な回復役がいたからだ」
「わたしなんて、そんなたいしたことしてません。最前線で敵を撹乱し続けてくれた人のおかげです」
「まあ、俺たち全員の勝利ってとこだな」
仲間たちは頷いた。
最初はアレだったけれど、なんだかいいパーティーになっていた、そんな気がする。
体力と魔力の回復を待って、俺たちは洞窟の奥へと進んだ。
生き残りのサバクオオカミが散発的に襲ってきたが、今の俺たちにかかれば瞬殺だった。
鎧袖一触とでも言おうか。
洞窟の最奥へたどりついたのは、昼時を過ぎたあたりだ。
そこには祭壇が置かれていた。
何を奉っているのかはわからない。
古いものだ。
祭壇の上には、黒い球体があった。
鈍く脈動するそれは、中に蓄えられているであろう魔力を今にも吐き出しそうな嫌な雰囲気を出している。
自然に、カリバーンを前にした戦闘態勢を取る。
やがて、球体に赤い亀裂が走り、巨大な影がほとばしった。