炎の王編07
「くっ、口惜しいがここは引かせてもらう。魔王様の復活まで命を落とすわけにはいかん」
逃走を図るムンダマーラだが、短い間に全力を使いきったカインたちにはそれを阻む手段がなかった。
しかし。
「逃さぬ」
低い声とともに、ムンダマーラの胸元から深紅の剣先が生えた。
「ら、ラグナ、いや炎の王」
「千年ぶりだな、今はムンダマーラか」
「ぐ、ぐわあ焼ける。体の中から焼ける」
「貴様らは誰一人として逃すわけにはいかん」
「お、おのれ。今はまだ死ぬわけにはいかぬ」
最後の魔力をふりしぼり、ムンダマーラは影に溶けた。
影が消えるとムンダマーラもまた消えた。
「逃がしたか。だが、大きく力を削った。しばらくは悪さできまい」
炎の王は、剣を納めた。
カインは呟く。
「炎の王」
炎の王は、カインのほうを見る。
「久方ぶりだな、カイン」
「ここで、決着をつける。それでいいな」
「もとより、そのつもりだ」
魂の魔剣の力は強力だが、消耗が激しい。
今、撃ってしまったばかりだ。
これから戦うとなると、厳しいかもしれん。
だが、ここで奴を逃がすわけにはいかない。
「なら、やるか」
「待て。まだ介添人が来ていない。しばらく待つがいい。案ずるな、決して逃げん」
出鼻を挫かれた形だが、休息がとれるなら有り難かった。
ラーナイルから急行し、休む間もなくスケルトンなどと戦っていた。
疲労はたまっていたようだ。
とりあえず、ホルスとルーナの介抱をする。
「また、お前に助けられたなカイン」
「俺はお前とお前の国の守護者じゃないからな」
「感謝している」
「助かったのはお前だけだ」
「そうか。やはりな」
「やはり?」
「言い伝えにすぎないが、テリエンラッド王家は皇帝バアル・ゼブルの庶子の生まれという、話を聞いたことがある。その血が何かに使えるのかもしれん」
「なるほどな」
フェルアリードの執着も、そこから来ているのかもしれない。
「またこれも口伝だが、魔王は四大精霊王と魔道皇帝によって封印されていると聞く。封印をとくのに、我らの血が欲しかったのもしれん」
そのような話をしているうちにホルスは元気になってきたようだ。
あとはルーナか。
ルーナもほどなくして目を覚ました。
「あ。カイン?」
「おう、大丈夫か?」
「たぶん。ええと私ーー蛇の目の」
「そいつは、追っ払った」
「さすがリーダー」
「よせやい。本当はお前が捕まる前に助けられれば良かったんだがな」
「ううん、カインに助けられて本当に嬉しかった」
「そうか」
「ねえねえ、あの二人いちゃらぶじゃない?」
「まあ、いちゃらぶだな」
「むう、なんか悔しい」
アズとアルフレッドはカインとルーナの様子を見ながら呟く。
「なぁんか、あたしの知らないカインって感じ」
「全部、見たくせに何言ってやがる」
「はえ?あ、ああ、そうだった。あたしのほうがアドバンテージ大きかったのに。くやしい」
「何やってるんだ、あの二人?」
「さあ」
アルフレッドはホルスに報告した。
「まあ、こんな形で聞くとは思わなかったな」
「そうですね。それにーー」
「セト殿の件は仕方ない。飼い殺しにしていたも同然だからな。お前も行くのだろう」
「行きますよ」
「だろうなあ。それに、フェルアリードの目的か。なんだか、ややこしい。それに、ルーナだ。もっと自分に自由でいてほしいな」
「直接おっしゃればいいでしょうに」
「私が言うと反発するだろ?」
「まあ、そうでしょうね」
「悩みどころだな」
「お兄様ったら、なに話しているのかしら」
「まあまあ、いいじゃない。そんなことは」
「そうね」
「では、カインとの出会いについてお願いします」
「え、本当に聞きたいの?」
「子供の好奇心です」
「子供っていうには、ませている気がするけど」
「気にせずどうぞ~」
「ええとね、あれはサバクオオカミがーー」
「なに話してんだろうな、女性二人」
「さあな、男には聞かせられないやつだろうさ」
アルフレッドは上を見上げた。
「どうした?」
「強いのが来る。ルイラムで出会ったやつだ」
「黒騎士か」
「もう一人、こっちも強めだな」
炎の王も上を見る。
間違いないようだ。
そして、すぐに黒騎士とカリバーンが現れた。
なるほど、奴らが介添人というわけか。
「両者準備はいいか?」
俺も、炎の王も準備は万端だった。
長きに渡る探索の果てに俺はついに仇と剣を交える。
どういう結果になろうとも、悔いは残さない。
それを心に刻んだ。
魂の魔剣を構える
俺の戦いが始まる。