炎の王編06
それぞれが目の前のスケルトンを全て倒し、集まるまでそれほど時間はかからなかった。
「行くぞ」
三人は頷き、バラミッドへ突入した。
内部は赤く透き通る石が積まれており、その石の中を炎が流れていく。
それが、赤の魔力炉に満ちる魔力だと、カインは気付く。
奥に行けば行くほど、熱気が押し寄せるようだ。
「本当にここが、赤の魔力炉なんだな」
「なんだよ、信じてなかったのか?」
「自分の目で見なければ信じられんだろ?」
「うむ、それもそうだ」
通路はどうやら、玄室へ向かっているようだ。
魔道帝国皇帝バアル・ゼブルの墓所へ。
ホルスとルーナの兄妹は、墓所がわりの石碑の前に転がされていた。
命はあるようだが、予断を許さない。
二人の前には、男が立っていた。
その目を見て、カインは死んだ護衛兵の言ったことを理解した。
蛇のような目。
金色の瞳孔が瞳の中に縦におさまっている。
「そろそろ邪魔が入るとは思っていたが、まさかお前が来るとはな、カイン」
蛇の目の男に名前を呼ばれ、カインは驚く。
「なぜ、俺の名を知っている?」
こんな目の奴とははじめて出会った。
「私のことなど、忘れた、と。いいだろう、お前がその気なら私も手加減はしない。魔王様の配下ムンダマーラとしてお前を殺す」
魔王の配下だと?
目覚めつつあるのだ、と理解させられた。
リィナの言っていた時間がない、というのは本当のことなのだ、と。
ムンダマーラは、手にした杖を振った。
「ムンダマーラとは髑髏を首にかけるもの、という意味の名だ。その名の通り、私は死者を操ることを得意とする。その力、技を食らうがいい。“杯”の第15階位“ムンダマーラ”」
呪文とともに、空中に結界が張られる。
そこを突き破るように、白い骨の手が現れる。
外で戦ったスケルトンに比べると、二倍近い巨躯だ。
二十体のスケルトンを産み出した他に、これほどのものを操るなど魔王の配下は伊達ではないということか。
それに、第15階位魔法だと?
こいつ、第13階位を越えているのか!?
そして、ついに巨人スケルトンがその全貌を見せる。
窮屈そうに、玄室に身を屈めこちらを上から見下ろしている。
しかし。
どうも、威圧感がなかった。
鈍感になっているわけではないが、怖くない。
「ずいぶん、落ち着いてるな」
不思議そうに、アルフレッドが聞いてくる。
「なんだろうな。やれそうな気がするんだ」
「お前がそう言うなら、できるんだろうさ。俺たちは何をすればいい?」
「アルフレッドは時間を稼いでくれ」
「何分くらいだ?」
「十数えるくらいで充分だ」
「自信満々だな。いいぜ、お前らしくてよ」
アルフレッドは、両手剣を構えてムンダマーラの前に立つ。
「あたしは?」
「アズは、アルフレッドが時間を稼いでいる間に、二人を助けてくれ」
「ふうん。いいわよ」
アズは、まずマステマを召喚する。
二人の様子を見て、カインは再度黒い魔剣を形成する。
これで準備は整った。
邪魔者をぶっ倒す。
カインの号令のもと、アルフレッドは前に出る。
反応した巨人スケルトンが、巨大な手を振り下ろす。
それをがっちりとアルフレッドは防ぐ。
「9」
残り時間をカウント。
アズが動く。
集中から、マステマの魔力を開放。
バラム、エリゴール、マルファスを召喚。
アズ自身も、バラムの背に乗りムンダマーラへ向かう。
「8」
アルフレッドはスケルトンの手を地面に叩きつける。
「7」
エリゴールが、ムンダマーラの前に出て襲いかかる。
「6」
ムンダマーラは、片手でエリゴールを吹き飛ばす。
が、アズはすでにホルスとルーナのもとへたどりついている。
「5」
アルフレッドは、骨の腕を蹴飛ばす。
「4」
バラムにホルス、マルファスにルーナを乗せ、マステマが壁となって二人を逃す。
「3」
カインは構える。
「2」
アズとマステマは脱出。
「1」
アルフレッドも退避。
「行くぞ!!」
カインは、魔剣を全力で振る。
魂から、魔力が力を吸出し剣がそれを放出する。
放たれた剣閃は、スケルトンに直撃。
両断する。
静かに、スケルトンは崩れ去り消えた。
外で、七体のスケルトンを一蹴した衝撃剣だ。
「やはり、お前だ。お前がいなければ魔王様とて」
喚くムンダマーラは、青ざめている。
巨大なりの魔力を使っていたと見える。
そして、その消滅のショックは大きかったようだ。