炎の王編05
そして、三日後。
俺たちは、バラミッドへ到着していた。
と、同時に手荒い歓迎も受けていた。
ないはずの筋力で、降り下ろされる曲刀は当たればただではすまない。
ルーナの張る結界でも、四度もたないだろう。
おそらく、こいつがホルス一行を襲ったのだ。
図体の通りの足の遅さだったが、攻撃への反応が俊敏で、半端な速度の魔法なら避けてしまう。
当てるには、アベルの光線魔法くらいの速さでないと難しいかもしれない。
俺は、速度強化呪文で食らいついている。
アルフレッドは両手剣のリーチの長さを活かして、回避を潰している。
アズは、エリゴールとマルファスを召喚している。
技のエリゴールと速さのマルファスで、スケルトンを追い込む。
マルファスに注意が向いた隙を、アルフレッドが狙う。
スケルトンの足に食い込む刃、態勢を崩したところを俺が一閃。
炎をまとった剣で焼き切る。
よくアンデッドが持っている再生能力を発揮させないように、炎が骨を燃やす。
あっという間に、スケルトンは消し炭になった。
「よし、完了」
カインの声に、アルフレッドとアズは構えを解く。
「なかなか、強敵だったぜ」
「そのわりには不満そうだな、アルフレッド」
「タイマンならな。パーティーで戦えば楽勝」
「じゃあ、次はアルフレッド一人ね」
「アズも一人でやれよ?」
「え?いやです」
「だ、誰かたすけ、て」
俺たちのじゃれあいの最中に聞こえた微かな声。
俺たちは声の方を向き、その主を探した。
砂に埋もれていたが、声の主はすぐ見つかった。
ラーナイルの紋章入りの革鎧、たぶんホルスの護衛兵だろう。
しかし、衰弱が激しい。
上級の治癒魔法の使えるものがいない現状では、手の施しようがなかった。
できたのは、その乾いた口に水を注いだことくらいだ。
「カイン殿と、セトのアルフレッド、だな?ホルス様は、バラミッドの中へ連れていかれたーーゲホァ」
「無理をするな。あの中だな?」
「頼む、ホルス様を救出してくれーー蛇の目の男から」
その言葉を最期に護衛兵から力が失われる。
「約束する。ホルスは助ける」
物言わぬ亡骸を優しく寝かせ、俺は約束した。
護衛兵を埋め、三人は石造りの遺跡を見上げる。
いかなる方法によるものか、巨大な石を積み上げて造られたこの遺跡に、何かが群がっていた。
白く巨大な、スカスカの体躯。
さきほど倒したのと変わらないスケルトンが、二十体はいる。
「嘘だろ」
「楽しすぎんぞ、これは」
「うわぁ、疲れそう」
スケルトンたちは、一斉に遺跡から跳躍しカインたちに襲いかかる。
パーティーは分断され、一人で約七体のスケルトンを相手することになっていた。
アルフレッドは、いっそう笑みを濃くして亡骸の群れを見る。
「やっぱ、あいつらにも隠しておきたい技もあるし、全力で戦いたいし、たまには一人も悪くない」
そう嘯くアルフレッドの右手にはいつもの両手剣、そして左手には愛剣と全く同じ形状の剣。
両手剣片手持ち二刀流、これがアルフレッドの隠し玉である。
かつて、ラーナイル最強の騎士と呼ばれ、二十代にして騎士団の長となった男だ。
大きいだけのスケルトンなど的に過ぎなかった。
左手の剣は魔法で造られた剣だ。
右手の武器のコピーを造る“剣”の第五階位“ミラーエッジ”
その剣を大きく薙ぐように振るう。
無理矢理作り出した間合いに、右手の剣による突き。
標的となったスケルトンが物言わぬ叫びをもらしながら、串刺しにされる。
「一体目。さあ、次はどいつだ?」
正直、アズは困っていた。
スケルトンに囲まれた、からではなくて咄嗟に呼び出した魔族マステマが想像以上に強かったからだ。
アズが手に入れた4体の中で、圧倒的に強いのがマステマだった。
ルイラムでの同時4体召喚は、マステマの魔力頼りだったし。
今も、スケルトンを一体捕まえ、そのパーツをもぎ取り投げつけている。
当てられたスケルトンは、その一発で態勢を崩し二発目で倒れる。
「これじゃ、あたしが倒すことできないじゃない」
アズの慟哭を無視して、マステマは暴れ続けている。
カインは落ち着いていた。
ルイラムの灰色の迷宮城で、リィナが言っていた。
“魂の使い方”
カインはそれを覚えつつある、とも言っていた。
それが、魔王復活の際に戦力になるかどうかはわからないが、やってみる価値はあるかもしれないとカインは考えた。
意識を集中し、奥底の自分を感じる。
手掛かりはある。
アルフレッドのはおそらく、魔力の波長を感じ取れることだろう。
パルプアの周囲ダメージ投射も参考になる。
俺の力はなんだ?
欲しいのは力だった。
炎の王を倒す力。
意思を貫き通す力。
そうか、イクセリオンの鎧もクトゥガーの剣も、炎の魔剣もそうだ。
呪文によらず、意思に魔力をのせて吐き出す。
魔力は、魂からも力を引き出し増幅する。
それは、手に持つ剣に込められその形を変える。
俺の魂がこもった魔剣。
黒い刀身、長さはもとになったロングソードと同じ、魔力炉を経由していないからか炎の意匠はない。
「なかなか上出来じゃないか。一気にいかせてもらう」
スケルトンを見渡して、カインは一歩踏み出した。