炎の王編04
しばらく待ったが、アルフレッドは姿を現さなかった。
「遅いな」
「遅いね」
何度かこの会話を繰り返していた。
王宮に行って、話をしてくるだけでここまで時間がかかるもんなのか?
何かが起こっているとしか考えられない。
そこへ、ボロを着た男が転がり込んできた。
酔っているのか足元が覚束ない。
ふらふらした足取りで、カインたちのテーブルまでやってきた彼は卓上に突っ伏した。
そのまま、いびきをかく。
呆気にとられたカインはとりあえず、起こそうと手を伸ばす。
「カイン・カウンターフレイムだな?」
はっきりした声にカインは、何かを察した。
「声を出さずに聞け。アルフレッドは無事だ。だが、表に出ることはできなくなった。あのときの墓場で会おう、とのことだ」
男はまた、いびきをかきだした。
宿の主人が「すんませんね、旦那。たまにこういう酔っぱらいが紛れ込んでくるんです」と言いながら追い出す。
「飲み直します?」
という主人に笑顔で「いや、悪いが別のところにいこう」と答える。
「そうですなあ、いやあ旦那みたいな太っ腹がいれば売上になったんですがね。残念です」
本気で残念がる主人に別れを告げて、カインは夜道に出た。
そして、アズを抱えて走る。
「な、え?なに?」
「アルフレッドのバカが、なにかやらかしやがった」
「え?そうなの?」
「相当まずいぞ、これは」
夜道を駆ける。
焦りながら、駆ける。
綺麗な月に照らされて、アルフレッドは墓石に座っていた。
傍らの両手剣は、血で濡れている。
鎧もまた、血塗れだった。
「いよお、早かったな」
「お前が遅い」
「大丈夫なの?アルフレッド」
「あ?これ全部返り血だ。俺は無傷だぜ?」
「何があった?」
「教えてもいいが、こっちも聞きたい。どこまで知っている?」
ラーナイルの妙な雰囲気、バラミッドへの調査団、消えた兵士。
のことをカインは話した。
「さすがは冒険者ギルドだな。かなり正確だぜ」
「で、何がどうした?」
「順番に話そう。まず、数ヶ月前からバラミッドで魔力異常が起こっている」
「バラミッドで魔力異常?」
「魔力の濃度が高くなったり、付近の砂漠化が進んでいたらしい」
「なんでまた?」
カインのほうへ顔を向け、アルフレッドは意地悪く笑う。
「心当たりはないか?」
「あ?俺に?なぜだ?」
「俺は、あそこが赤の魔力炉だと思っている」
「なに!?」
バラミッドが赤の魔力炉?
「勘だ。理由はないし、証拠もない」
「だが、いくつか納得できる」
「ああ、おそらく魔力異常はお前の無限魔力とやらのせいで起きている」
「俺のーー」
「まあ、待てよ。まだ始まりだ。その魔力異常の調査のために、ホルス率いる魔法使いたちが向かった」
「ホルスが自分で行ったのか」
「そして、消息をたった」
それで、ホルスらしくない情報遮断が起きていたのか。
「んで?」
「そして、昨夜。王女ルーナが何者かに拐かされ行方不明になった」
「なんだと!?」
ルーナが行方不明?
仮にも冒険者として、何度も戦ったことがあるルーナが生なかの相手に不覚をとるとは思えないんだが。
「ルーナ誘拐、ホルスの行方不明、この混乱を利用してセト様がラーナイルを脱走した。三百人の砂石の谷の戦士を連れて、な」
「そういう繋がりだったのか。ん、てことは事情を知らずにのこのこと王宮に行ったお前は?」
「おう、いきなり取り囲まれて詰問された。危うく牢送りになるとこだったんで、衛兵ぶん殴って逃走。追手をバッタバッタと薙ぎ倒しーー」
「ほんとに薙ぎ倒しそうだからな、お前の場合」
「んで、連絡用に残っていたセト軍のやつらと合流し、事情を知ったわけだ」
ようやく、納得いった。
と、同時に新たな問題もできたわけだが。
ホルスが消えた件と、ルーナの誘拐は関連がある気がする。
セトは乗っかっただけみたいだが、タイミングが良すぎる。
仕組まれているのか?
「それで、だ。アルフレッド、お前はどうする?」
「お前らはどうする?」
「俺はバラミッドへ向かう。ホルスが心配だし、ルーナもそこにいる気がする」
「アズはどうする?」
「あたしも、カインについていく。なんか、まずい気がするのよね」
「なら、俺もカインについていこう」
意外だった。
アルフレッドはセトを追うものだ、と思っていたからだ。
「いいのか?」
「セト様を追いたいのはやまやまだが、この状況はまずい。なんとか、ホルス王をなだめすかしてセト様の脱出を正当化しておきたいところだ」
「それは、そうだな」
このままなら、ラーナイルからの脱走者として追われる立場のままだ。
セトの目的がなんであれ、足枷は少ない方がいいだろう。
「アズ、疲れているだろうが出発する」
「あたしは大丈夫。カインこそ焦らないでね」
「俺も大丈夫だ。ようやく、楽しくなってきやがった」
俺たちは再びパーティーを組み、古代の遺跡バラミッドへ向けて出発した。