炎の王編02
バラミッド。
古代魔道帝国の皇帝バアル・ゼブルの墓所。
巨大な石を積み重ねて造られた四角錐の建造物は、ラーナイルの象徴であり、重要な観光資源でもあった。
頻発する魔力異常の調査に向かったラーナイルの調査団は壊滅寸前だった。
バラミッドの付近のオアシスは枯れていた。
草木は、茶色に乾いて砂の上に転がっている。
池は干上がって、濁った泥のような残滓だけだ。
そして、その上に砂がうっすらと積もっている。
砂の上を乱暴に駆ける者がいた。
焼けた肌、金に近い髪色、冷静な目。
ホルスだ。
ラーナイルの新国王。
ホルス・テリエンラッド。
それを追うのは、骨。
いわゆるスケルトンという奴だが、その大きさが非常識だ。
一般男性の二倍はある背丈、そしてその背丈と同じくらいの長さの刀身を持つ曲刀。
それが、動きは遅いもののそのリーチでホルスを追い詰めていた。
到着してから、三日。
ずっと追いかけ回され、調査も何もなかった。
連れてきた魔法使いは、みな奴にやられ砂に沈んでいる。
ホルスの護衛も、手傷を負って倒れている。
このままならば、遠からず命を落とすだろう。
まあ、その前にホルスが殺られる可能性のほうが高い。
どうにか、笑みを浮かべて逃げ回っているがそれもいつまで続けられるか。
今回は、助けが来るとは限らない。
だが、死ぬつもりはない。
私はラーナイルの王なのだから。
結局、戻ってきた。
と、カインは思う。
四ヶ月前、決意を持って中原に向かったはずが、なんの解決もできずに砂の王国に戻ってきてしまった。
まあ、魔法使いランクも若干あがったし、戦闘経験も積んだことで戦力はあがっているとは思う。
だが、それはそれだ。
炎の王を倒す、という大目標も以前とは意味合いが変わってきている。
気が抜けた。
というのが、近い表現だと思う。
戦う意味、というのが薄れている。
アルフレッドのように、戦うのが大好きになればそんなことも気にならなくなるだろうか。
ラーナイルの市街を遠目にカインはそんなことを考えている。
まぁた何か考え込んでやがる。
と、カインの様子を見てアルフレッドは呆れる。
ああでもない、こうでもない、と頭のなかで迷っているのだろう。
戦う意味だとか、気が抜けたとか、そういうことを考えている暇があったら血をたぎらせて剣を振るほうがずっとマシだろうと思うのだ。
最初に会って戦って、そのギラギラした殺気がたまらなかった。
そこから見ると、今のカインは腑抜けていると見えてしまう。
何か、気合いを入れ直すことが起きればいいんだがなぁ。
あれは、何か悪いことを企んでいる。
アルフレッドの顔を見て、アズは考える。
おそらく、カインの腑抜け具合に腹がたって気合いを入れようというつもりなんだろうが。
けれど、カインにはカインの考えがあるだろうし、腑抜けているように見えて実はしっかりしてる、だろう。
前に聞いた、捨て身で戦い続けるカインの激情は今の姿からは想像できない。
うん、やっぱりあの二人、もう一回戦ったほうがいいかもしんない。
つうか、なんかアズとアルフレッドの顔がどうみても何か企んでいる。
いったい何が起こってるのか、さっぱりわからん。
ルイラムの冒険を経て、アルフレッドとアズとはずいぶん仲良くなったと思う。
まあ、心の奥底まで見られればそうならざるをえない、ともいうけど。
ラーナイルの一件以来、単独行動をすることが少なくなった。
それはどういう心境の変化なのか、自分でもよくわからない。
楽しい、というのはある。
戦闘も楽だし。
今までの俺は一人で居たがっていた。
そうすることで、何かを正当化できると思っていたのかもしれない。
炎の王を倒すこと、それを掲げて命すらかえりみないことを正当化していたのだと、思う。
だったら、炎の王を倒したあとーー俺は何をすればいい?
もやもやする。
その俺の迷いを吹き飛ばすように、熱砂から風が吹き抜けた。
「うおっ!」
「きゃっ!」
仲間たちがあげる変な悲鳴に思わず笑みがこぼれた。
これだな。
これをしよう。
気のあう仲間たちと冒険をしよう。
洞窟で。
廃墟で。
森で。
山で。
何かを探して。
何かを倒して。
歩いて、走って、戦って。
そういう冒険をしよう。
なんだか、おかしくなってカインは走り出した。
「おい、待てよ。おのれ、俺の企みに気付くとはやるな」
「ちょっと待ってよ。こんなに暑いのに走るとかバカでしょ!?」
仲間たちが追ってくる。
砂の上を駆ける。
ラーナイルを走る。