砂の王国06
伝説の五人。
この時代における最強の魔法使いのことを、人々はこう呼ぶ。
彼らはみな魔法使いのランクにおける最高位である第13階位“死”に到達している。
努力と才能を極限まで酷使してはじめてたどり着ける境地である。
プロヴィデンス帝国最高顧問たる“大賢者”マーリン・ディラン。
デヴァイン皇国の摂政である“支配者”ゼルフィン・ラインストーン。
コレセント闘士ギルド序列一位“大戦士”アレス・ゾーン。
魔法王国ルイラムの“氷雪の女王”イヴァ・ルイラム。
放浪の“軽業師”スフィア・サンダーバード。
の五人だ。
このうちの二人、大賢者マーリンと軽業師スフィアは孤児だった俺を拾って育ててくれた。
プロヴィデンスにあるマーリンの家に住まわせてもらい魔法を習い、たまに来るスフィアに剣技を学んだ。
そのときの教育の結果、アベルやカリバーンに驚かれるような指揮能力が身に付いたのだろう。
とはいえ、そこまでの能力じゃないと自分では思っている。
仲間をよく見て、声をかける。
基本はそれだ。
戦闘中のせわしない状況で、それができる心構えを忘れるな、とよく言われた。
マーリンにも、スフィアにも、だ。
本当は、そんな気遣いをするのが面倒くさくて一人で旅をしていたけれど。
こいつらのような、戦いなれた奴らだったらもっと面白くなる気がする。
「なに、ニヤニヤしてるの?」
冷たいというよりは、不思議そうな口調でルーナが聞いてくる。
宿に併設された酒場で、四人で夕飯を食べていた。
大皿に盛られた肉料理からは、南方大陸産と思われる香辛料の匂いがする。
食べてみると、辛い。
だが、それはそれで病みつきになりそうだ。
「内海でとれた淡水魚を焼いたものもうまいぞ」
魚をまるごと頭からかじりながらカリバーン。
バリバリと骨まで噛み砕いている。
「あんまり、肉とか魚とか食べると魔法に影響でるんですよねえ」
とか言いながら 例の辛うま肉を葉野菜に包んで口に運ぶアベル。
説得力がない。
「いや、なんかさ。こういうパーティーはいいな、とか思ってさ」
「そうね。全員単独行動好きそうな顔してるもの」
あなたも含めてね、とルーナは言う。
「一人の方が、気楽でいいのは確かだよ。ただ」
「ただ、なに?」
「仲間といる方が楽しいのも、確かなことなんだよな」
「そうね」
ルーナが微笑んだ。
その顔をみて不意にルーナがかなりの美人だということに気付いてしまった。
ここにくるまでは、はりつめていたし、お洒落なんて楽しむ環境でもなかった。
だから、湯浴みしたあと銀の髪をアップにしたルーナを見てドキドキするのはしょうがないよな。
「僕は好きな人が国許にいるんでそういう気持ちにはなりませんねえ」
「色恋よりも己の剣技を高めることのほうが、今の私には重要なことだ」
などと、聞いてもいない二人の意見は無視してカインは食事と会話を楽しんでいたのだった。
「今回の件、かなりの金と人が動いているようだな」
夕飯もあらかた食べ終え、まったりしていたところでカリバーンが口に出した。
「どういうこと?」
果物を漬けた酒をストレートで飲みながら、ルーナが尋ねる。
「うむ。私が調べたところ発生したサバクオオカミは20匹以上。その全てに討伐依頼がでている」
「20匹以上ですか。ああ、なるほど討伐の適正人数は三人から四人でしたね。まあ、僕は一人で倒しましたけど」
「一匹につき1000リグの報酬だったな。かける20で20000リグか。かなりの額だな。ま、俺は一人で倒したから、そのままいただいたけどな」
「60~から80人の冒険者が動いているってことね?それってラーナイルの冒険者ギルドに所属する冒険者のほぼ全員ね。わたしもまあ、一人で倒しましたけど」
「だろう?ラーナイルの冒険者ほとんどを動かし、20000リグ以上の出資。バックにいるやつはなんなんだろうな。ま、私も一人で倒したがな」
妙な自慢が混じっていたような気がするが、この依頼の特異さを皆が理解した。
何かがおころうとしている、のかもしれない。
そんなもやもやを感じたまま解散した。
宿屋の硬い寝台に横になりながら、俺は眠れていない。
カリバーンとアベルはもう寝息をたてている。
砂漠地帯の夜は冷え込む。
毛布にくるまっても、冷気が忍び寄る。
あの、焼け焦げるような夢を見るのは嫌だけれど、絶対にごめんこうむるけども、暖かさだけは恋しくなる。
早く朝が来ればいい。
そう祈りつつ、俺は眠りに落ちていった。