魔法王国編21
王都ルイラムに戻った俺達は、衝撃を受けていた。
俺達を待っていたラオルから聞いたのだ。
「ジャンバラが死んだ!?」
「そうなのだよ。丁度、君らが城にいる間にね。こっちはてんやわんやだったよ」
「帝国が何かしたわけじゃないのか?」
「ん?いやね、十年前ならともかく、今のジャンバラに政治的な影響力は皆無だからね。こっちが何かするわけはないんだけど。私がいる時に死なれちゃあね、また変な影響がでちゃうよ」
ラオルは楽しそうに頭を抱えていた。
政治的に難しい状況になればなるほど楽しいらしい。
変なやつだとは、思っていた。
ラオルは、王宮にでかけていった。
いつまでもいていいし、勝手に出ていってもいい、とラオルは言っていたがそこまで甘える訳にはいかないだろう。
ラオルと入れ違いで、アベルがやってきた。
「話は聞いたらしいですね」
「ああ、大変だったな」
「いえ、こういっちゃなんですが、肩の荷が降りた気がします」
確かにいろいろと大変だったのだろう。
アベルはすぐに王宮に戻った。
そして、俺達は出発することにした。
ジャンバラ前王の葬儀は、しめやかに行われた。
いろいろあった人物だったから、大がかりにはできなかったのだろう。
女王イヴァは、凛と顔をあげ父親の、ジャンバラの祭壇を見ている。
その横にはアベル。
出席者のなかには衛兵長ジョルジュ、プロヴィデンス帝国執政ラオルの姿もあった。
逝ったかジャンバラ、とラオルは死者に語りかけた。
まだ、あの方が目覚めるのには早かったのだ。
だが、私を目覚めさせたことには感謝している。
お前のやったことが、どれほどあの方の目覚めを早めたかわかるまい。
少なくとも、百年は早まったのだ。
それでも、目覚めにはいたらない。
四大精霊王の呪いの強さをお前は知っていたか?
もしも、お前が我らの仲間であったらば。
もう少し、楽しい戦いになったかもしれぬ。
まあ、繰りごとは言ってもせんなきこと。
あるいは、幸せだったかもしれぬ。
あの方が目覚めたら、もう一度大陸は滅ぶ。
この私の帝国での地位も吹き飛ぶであろう。
それでも。
それでも、私はあの方に会いたい。
あの方を王と戴き、大陸を闊歩するのだ。
王都を下に見ながら、結界船は空を飛ぶ。
俺達が旅立っている間に結界は修復されたという。
もう一度、風の王がでてきたらどうするかなぁ。
今度は、アルフレッドも戦ってくれるだろうか。
「妙に疲れる国だったな」
「アルフレッドはそればっかり」
「そりゃあよ、年だからな」
出会ったときのぎこちない雰囲気は、変わった。
心の中にまで入られたら、隠し事もなにもないだろう。
「ねえねえ、カインってさ。ルーナさんとはどんな関係?」
吹いた。
「ど、どんな関係もなにもない」
「ふうん。カインの中の記憶の海で、結構大きめの明るい記憶だったんだけどなあ」
確実にいえることは、アズの本性が徐々に現れているということだろう。
いわゆる女王様という。
「あ、なんか悪口考えてるでしょう?」
読心術まで、覚えましたか?
「覚えてません」
なかなか怖いことになりそうな気がしてきた。
「お、結界の天頂だな。また、なんかでるかねえ」
バトルマニア、という言葉があるそうだ。
戦い大好きな、アルフレッドのような奴らを指す。
「お前も大概だと思うぞ」
「な、俺は戦い大好きじゃない」
「あの紫のやつと戦っているとき笑っていたぞ?」
「嘘だろ?」
あんな大怪我した状況で、笑いながら戦っていたとしたら確かにバトルマニアなんだろうが。
自分には、そんな記憶はない。
「あ~うん、確かに笑ってた。マルファスが見てたわ」
「よお、バトルマニア」
アルフレッドがニヤニヤしている。
俺、こいつと戦うのはもう嫌だ。
多分、どっちかが死ぬまでやり続けるだろう。
それは、ごめんこうむりたい。
不意に、世界が止まった。
丁度、結界の天頂だ。
今まで会話していたアルフレッドとアズも止まっている。
「なんだ、これは?」
また、何かの攻撃か?
「確かにカインのようだが、若いな」
いつの間にか、目の前にうっすらとした男が座っていた。
「だ、誰だ」
「そして、私のこともわからない。であれば、このあとなのだな」
男は笑う。
「だから」
「私はファイレム。君らが大地の王と呼ぶ存在だ」
「あんたが、ファイレム」
カインは、黄玉石の指輪ーー大地の王の指輪を見た。
「そう、その指輪に刻まれた影だ。ニグラスの羊からもらったのだろう?」
「あの黒い羊のことか?」
「そうそう。あれは贄として渡したものだから、どうしようが勝手なんだろうが、こういう渡し方をされると、何らかの意図があると思ってしまうよね」
「何の話を」
「いや、こちらの話だ。まあ、しばらくはその指輪の中にいるから頼ってくれたまえ」
「だから何を」
「で、アルフレッドとカインってどっちが強いの?」
「だから、それを言うと」
音が戻った。
会話は途切れなく続いていたように流れていく。
結界船も天頂を過ぎて、何事もなく航行している。
薄い男ーーファイレムもいない。
最初から最後まで、わけのわからないことばかりだったと、カインはルイラムの旅をまとめた。