魔法王国編20
「はい、そこまでよ」
リィナの声があたりに響いた。
と、ともにディラレフ、ロンダフ老人、パルプアの姿が消えた。
「もう、めちゃくちゃやってくれたわね」
「めちゃくちゃなのは、お前らの方だ」
カインの言葉に、アルフレッドとアズは頷く。
ディラレフの攻撃予測、パルプアの周囲ダメージ投射、ロンダフ老人の魔族二体召喚もその範疇だろう。
魔法とは違う、妙な能力を奴らは持っていた。
リィナ自体にも謎は多い。
今の、三人がどこかに消えたこともそうだし、以前見せた影から現れることもそうだ。
「まあ、お察しの通り彼らはフェルアリードの魔法使いとしての弟子ではないわ」
「まあ、そうだろうな」
パルプアにいたっては、魔剣を出しただけで驚いていたし。
「詳しい方法は話せないけど、あなたが焼いたゾフォンも含めて十五人の弟子がいたわ。そのうちフェルアリードが魔法を教えたのは0人。けれど彼らは“魂の使い方”を教わったの、そしてその習熟中に十人が死んだ」
“魂の使い方”か。
確かにフェルアリードの研究テーマは、魂と死者だとジャンバラが言っていた。
そして、それが謎の能力の源だろう。
「五人、か」
「そして、残った五人のうち二人がフェルアリードに反抗した。まあ、彼らは研究の糧になったようだけど」
そして、ゾフォン、パルプア、ディラレフが残った、ということか。
「なら、お前はなんだ?ロンダフ老人は?」
「そうなのよ、ロンダフ老人はね、自分で覚えたの。まあ、三人も見本がいればできるわよね。あ、あたし?あたしのは秘密よ」
口元に指を当てるリィナだったが、俺は苛立った。
結局、こいつらは何をしようとしている?
魔王を復活させるというが、そんな夢物語みたいなことを本当にしようというのか?
「不満そうねカイン。でもね、あなたもそうよ。自分で覚えている、いえ覚えつつあるのよ。“魂の使い方”を」
「なに?」
「アルフレッドはできてるわね。そこのお嬢ちゃんは、もう少しね」
リィナは本当に楽しそうに笑う。
だが、こっちはわけのわからないことを言われて困惑している。
俺が何を覚えつつあるだって?
「早く覚えた方がいいわよ。もう、時間はないわよ?」
「時間?」
「決まってるじゃない。魔王レイドック・ダスガンの復活の時よ」
「なんだと!?」
リィナの言葉は嘘やハッタリではなさそうだった。
本気だった。
「うふふ、驚いたわね。その顔が見れて満足よ」
リィナはソファーから立ち上がり、三人の顔を見た。
「では、また会いましょう」
笑い声を残して、リィナは影の中に消えた。
「ああ、なんだ。とりあえず、座るか」
呆然と立っていたカインは、アルフレッドの声に気を持ち直した。
「あ、そうだな。座るか」
リィナとともに、ソファーも消えていた。
それだけでも残っていれば、少しはくつろげたかもしれない。
だが、よくよく考えればリィナが寝そべっていたソファーに、座る気にはならないかもしれない。
うん、消えて良かった。
「で、何がなんだかわからないんだけど?」
アズの言葉に、アルフレッドも頷く。
「まあ、無理矢理まとめるとフェルアリード一味は古代の魔王レイドックを復活させようとしている。そして、“魂の使い方”という技術を開発し、利用している、かな」
「ラーナイルでの活動もその一環だったのかもしれんな」
「あるいは、魂の使い方の研究か」
フェルアリードが何をしたかったのかはわかったが、さらなる謎が増えた。
「とりあえず、わかったことを報告するか。もう、ここでわかることもないだろうしな」
アルフレッドの結論に、カインも頷く。
こうして、三人の調査は一応の終了を迎えた。
ま、アルフレッドのラーナイル行きにカインも同行することにしたし、アズも行く当てがないのでついていくことになった。
しばらく、このパーティーで活動することになりそうだ。
同時刻。
ルイラム王宮、牢獄。
ジャンバラ・ダ・ルイラムの前に男が一人立っていた。
青、あるいは、紫。
いや、灰色。
「ずいぶん、久しぶりだね。会いたかったよ。ん?ああ、太ったんだよ、これでも。やれることは少ないからね。君は変わらないね。まあ、何をしに来たかは分かってる。だから、少し昔話でもしようか、と思ってね。時間稼ぎではないよ?君なら時間くらい操りそうだしね。時間は無理?そうなんだ。大変だったらしいね、色々。娘がお転婆?そうそう、うちもそうなんだ。娘は父親に似るって本当だよ。目的は?うんうん、もう少しだね、僕も会いたかったよ。それからーー」
少年のような顔で、ジャンバラは話続けていた。




