魔法王国編19
ディラレフのからくりをアルフレッドはこう予測する。
単純に奴には攻撃が来るのが見えているのだ。
おそらく、ある程度の殺気に反応してその映像なり、軌道なりがみえるのだろう。
その証拠は、さきほどのアルフレッドの攻撃だ。
当てるつもりのない攻撃を、ディラレフは避けなかった。
見えてもいない、だから驚いたのだ。
つまり、殺気を押さえて相手に切りかかればいいのだ。
だが「そいつはつまんねえなぁ」とアルフレッドは思ってしまう。
もっと、剣と剣がぶつかり合う血塗れの戦いのほうがアルフレッドの好みなのだ。
だから、引き込んでやれと企むのだ。
縦切り、唸りをあげて降り下ろされる剣をディラレフは右に避ける、そこへ剣を軸に蹴り、今度は後ろへ下がる。
今のは、目で見て反応していたな。
ならば、奴は剣の軌道しか見えていない。
殺す気を全開で、突き。
後方へ逃げたディラレフは、防御出来ずにくらった。
ほんのわずか、あたりどころが良かったようでディラレフは左肩を貫かれただけですんだ。
「運がいいなぁ。俺は殺す気だったんだぜ?」
「な、なぜだ?なぜ見えたのに」
「さあなあ?俺はお前が見えていたのは知っていた。まあ、それには拘らなかったがな」
喋れるようだから、命は無くさないだろう。
まあ、肩の傷が痛すぎて戦意は無いみたいだ。
カインなら、この状態からまだまだこれからだ、と目をギラギラさせて立ち上がってきただろう。
ああ、あいつと戦うのは楽しかったなあ。
結局、アルフレッドはそういう男なのだ。
戦いに、忠誠と知識がくっついている、と本人は思っている。
立っていたのはアズだった。
エリゴールは消えたが、アズの横にはバラムが疲れたように寝そべっている。
座り込んでいるロンダフ老人は一人だ。
二匹の豹、オセとフラロウスはロンダフ老人の制御を離れ消えた。
「また、またか。わしはまた負けるのか?」
「いえ。あなたは魔族たちを信じてやれなかっただけ」
「魔族を、信じるだと?」
「そうよ。この子たちは意思のない力じゃない。一体一体知性のある存在よ。だからこそ、その力を借りたいのならば彼らを信じるしかない」
言葉を紡ぎながら、アズは過去のクード村を思い返していた。
魔族を契約によらず召喚しようとしていたルイラムの魔法使いのことだ。
ロンダフ老人が、彼にダブって見えた。
彼も力だけを求めていたように見える。
「ぐ、だが、余の求めるのはそのような生ぬるいものではない」
ロンダフ老人は立ち上がり、叫ぶ。
「全てを滅ぼす力だ。そう、そうだ滅びの力だ。余は必ず手に入れて見せる、たとえ魔王の力を借りてでも!!」
カインとパルプアの戦いは転換点を迎えていた。
カインは、左肩からだらだらと血を流し、疲れたような顔でようやく立っていた。
少し離れて、パルプアがニヤニヤしながら立っている。
「いやあ、思ったより軽傷だったな。みんな頑張ったかな?」
「な、んだ、これは?」
いきなり、だった。
体力がごっそり減り、左肩に痛みが走ったかと思うと、出血した。
パルプアが何かした様子はない。
「どうだい?俺の攻撃。いや、お前の仲間たちの攻撃は」
俺の仲間たちの攻撃だと?
ふと、周りの様子が目に映る。
ディラレフが、アルフレッドに“左肩”を貫かれていた。
ロンダフ老人が、“疲れきった”顔で座り込んでいる。
「まさか」
「そう、そのまさかさ。俺の攻撃は周囲のダメージをコピーして敵に与える。どうだい?自分の手を汚さない、素晴らしい攻撃だろう?」
虫酸が走った。
散々、人のことを恥知らずや、卑怯者と罵った癖に自分はこういうことをするのか、と。
だが、奴も自分のもてる手段を全て使っているのだ、それは変わらないとも思った。
なら、俺に出来るのは全てを尽くすことだけだ。
カインは笑う。
パルプアの顔に理解不能の感情が浮かんだ。
なぜ、こいつは向かってくるのだ?というような。
カインは、血塗れの左手を突き出しパルプアの剣を掴む。
「“杖”の第1階位“ファイアハンド”」
それは、初級の魔法だった。
魔法を覚え始めたものが、容易く使える魔法。
それは、逆に低コストで発生が早いということでもある。
そのぶん威力は低い。
暖炉の火のほうがまだ暖かいくらいだ。
しかし、カインはそれを百発同時発動した。
もちろん、カインの左目は赤く燃えている。
たちまち、パルプアの剣は砕けた。
「な?」
続けて、パルプアの肩、脚を爆破。
そして、顔面を掴む。
「どうした?自分の傷は与えることはできないのか?」
「無限魔力なのか?」
「ファイアハンド、を百発同時発動だからハンドレットファイアハンドとでも言うのかな?なんか言いにくいな」
「やめろ、止めてくれ」
パルプアの懇願にカインは笑みをかえした。




