魔法王国編13
「あ、無事だったんだ」
「おお、アズこそ無事か?」
しばらく、迷路をさまよったアズとアルフレッドは合流を果たした。
「なんで、怒ってんだ?」
「ひどい幻影を見せられたのよ。ほんと、やんなっちゃうわ」
「そいつは大変だったな」
「ん~?なんかスッキリした?」
「まあな。懐かしい人にも会えたしな」
「なんかズルい」
「何がズルいんだよ?」
「あたしだっていい幻影見たかったわよ」
「そいつは大変だったな……」
そこで、アルフレッドはあたりを見回す。
「ところで、奴はどうした?」
「それが、まだ会えてないんだ」
「あいつ、業が深そうだからな。まだ幻影に囚われているかもなぁ」
「そうなんだぁ」
アルフレッドは、ラーナイルでの戦いのことを話す。
歴史の知識や一般常識を教えたりしてきたが、砂が水を吸うようにアズは覚えていく。
それが楽しくて、アルフレッドはいろいろ教えてきたが、アズはそれによく応えてくれる。
それは彼女の才能であろう。
彼女はこのまま成長していってほしい。
と、アルフレッドは思うのだ。
アルフレッドの特殊な才能、いわゆる勘の一種である魔力の波長を感じる能力がそれを捉えたのは、その会話のすぐあとだった。
と同時に、アズに仕える魔族もまた、その魔力に反応する。
それは、強大な炎の魔力の爆発だった。
二人は知らなかったが、もし知っていたらそれが炎の王の一撃だと錯覚したかもしれない。
それほどまでに、それは強烈だった。
「おいおい、ここまでかよ」
「いくらなんでも怒りすぎでしょ、これ?」
「いくぞ」
「うん」
二人は、魔力のもとへ向かって走り出した。
しばらく迷路を迷うが、壁を壊すという方法を発見してからはそれほど時間もかからずにカインのもとへたどり着いた。
そこには、黒焦げの炭の塊にも見える魔法使いの亡骸と、立ち尽くすカインの姿があった。
焼け焦げた魔法使いは、幻影を作り出していた人物だろう。
あまりにも、激しい怒りが彼を焼き尽くしてしまったのだろう。
「おい、カイン。大丈夫か?」
「……」
「聞こえる?カイン?起きろー!」
「……」
反応がない。
「どうやら、魔力の使いすぎで落ちてしまったみたいだな」
「そんなことあるんだ?」
「ああ、たまにな。ただ、そうなるとかなり致死率が高い」
「カイン、死ぬの?」
「さてな、本人次第なんだが」
「しばらく待ってみる?」
「だな」
二人は座って、カインの覚醒を待つことにした。
カインは目を覚まさない。
そのうち飽きたアズは、使役する魔族を呼び出しカインを攻撃し始めた。
「いけ!エリゴール」
呼び出された鎧騎士の魔族がカインに体当たりを食らわす。
カインは、3メルトほど飛んだ。
「バラム、取れ」
獅子の魔族は、飛んだカインを空中でキャッチ。
無事確保する。
「なあ、アズ。何してるんだ?」
「人間キャッチボール魔族バージョン」
前言撤回。
このまま成長すると大変なことになるきがする。
まず、間違いない。
ため息をつきながら、アルフレッドは待っている。
「やれやれ。これじゃ、体がもたんぞ」
突然、カインが喋りだす。
だが、何か違う。
「誰だ、あんた?」
すでにアルフレッドは、剣を抜き構えている。
「私は、ファイレム。正確にはその影だがな」
カインの口を借りて、喋りだした人物は大地の王の名を名乗った。
「カインはどうした?」
「彼は眠っているよ。仕方がない、心の奥底の傷を抉られたのだから」
それは、おそらくあの左目と無限魔力に関わることなのだろう。
あの年で、あそこまでの捨て身の覚悟で生きているからにはそれなりの事情があるはずだ。
「見たいかい?」
大地の王ファイレムはアルフレッドに囁く。
見れるかどうかはともかく、それがカインを目覚めさせることに繋がるなら見るべきだ。
しかし、個人の記憶に干渉するのは、される側からすれば嫌なものだろうな、とも思う。
あのラーナイルでの日々を誰かに見られていたらと思うとげんなりする。
「私は見たい」
強い覚悟を持った声だった。
アズのその顔を見て、もし子供じみた好奇心だったら全力で止めようと思っていたアルフレッドは、それをやめた。
アズは子供だ。
だが、俺たちの仲間だ。
仲間だからこそ全てをさらけだす、そういうのも有りかもしれない。
「いいぜ、俺もこいつのことをもっと知ってやる。だいたい、仲間なのに秘密や隠し事があるのがおかしい」
「へぇ~。じゃあ、アルフレッドのこともあたし知りたいなぁ」
「なんだよ、何でも聞けよ」
「じゃあじゃあ、アルフレッドって彼女いるの?いないの?いない歴何年?」
「いないこと前提かよ?まあ、彼女つうか妻がいる」
「へ?」
「ミランダ、ていうんだが」
「結婚してるのぉ!?」
「あんだよ、悪いか」
「悪かないけど、びっくりしたわ」
「そろそろ、いいか?」
ファイレムが笑いながら二人に声をかけるまで、話は続いた。




