魔法王国編06
反撃の狼煙は、アズの召喚の言葉からだ。
「お願い。マステマ!!」
厳めしい巨体の戦士。
アズの手持ちの中で最強の魔物だ。
その魔力をアズが受け取り、他の三体も召喚。
同時四体召喚という離れ技を繰り出す。
四体は、緑の戦士を取り囲むように四方に散らばる。
俺はその間、緑の戦士を押さえることに専念する。
何とか動こうとするが、緑の戦士は俺の抑えで動けない。
散らばった魔物は、アズの号令で同時に同じ魔法を唱える。
“魔”の第六階位“ダークゾーン”
甲板を範囲として、闇の魔法が展開した。
呼び出されたのは闇。
暗黒が、船上に満ちる。
それ自体に攻撃力はない。
精々、視界が悪くなる程度だ。
だが、そこに住まう精霊にとってはどうだろう?
精霊の力の源である元素がなくなり、充分な力を得られないとしたら?
だめ押しで、風の低位魔法をいくつか唱える。
ほとんど効果は得られないが、この場の風の元素は薄くなっているはずだ。
俺は、全ての魔力を剣に回しクトゥガーの剣を再び呼び出す。
「これで終わりだ!」
勢いよく振りおろされた深紅の剣は緑の戦士を袈裟斬りにする。
それでも、倒れない。
倒れないが、緑の戦士はよろめいている。
さっきのように槍を突き刺し、風になろうとするが吹いてくるのはそよ風だ。
「バラム、食べなさい」
闇の中から聞こえたアズの声に、獅子のバラムが飛び出し、最後に残った緑の戦士の欠片を食べた。
これで、緑の戦士が復活することはない、はず。
それを確認して、闇状態を解除する。
眩しい日差しが、甲板を照らした。
いつのまにか、雲が晴れ太陽が覗いている。
アズの額には玉のように汗が浮かんでいる。
俺だって限界近い。
二人とも座り込んでしまった。
そして、握りこぶしをぶつける。
いろいろ不安はあったけど、力を合わせることはできた。
これなら、仲間、パーティーとしてやっていけそうだ。
頬にあたる風が気持ちいい。
というか、痛い。
徐々に、風が強くなっていく。
まさか、奴が復活する前兆か?
「カイン!これ、墜ちてる」
「は?」
見ると、結界船が凄い速さで地面に向かっていた。
墜ちているともいう。
結界に穴が開き、コントロールが出来なくなって、墜ちている。
どうする?
どうする?
どうする!?
結果的には、船の乗組員が対処した。
船と結界を接続し、急激に圧力をかけることで反発を高めブレーキにしたのだ。
その決断と行動力は見事だった。
結界船は、王都からわずかの位置で停止に成功。
乗組員と乗客全員、助かったのだった。
その時点で俺たちはアルフレッドと合流した。
聞けば、乗組員たちと船の安全確保に動いていたらしい。
「もし、おまえらがやられたら俺がでるつもりだったぜ」
とは、言っていた。
「やっぱり、お前といると退屈しないぜ」
王都ルイラムへの上陸を待ちながら、俺とアズとアルフレッドは話していた。
「やっぱりってなんだよ?」
「何かしら事件が起きるってことでしょ?」
「そうそう。あんな化け物がでるなんてなあ、うらやましいよ、ほんと」
「羨ましがるなよ」
「てか、カインって強いよね。アルフレッドとどっちが強いの?」
「俺だな」
「俺だって」
互いに自分が上だと思っていたらしい。
俺とアルフレッドはお互いを睨む。
「俺はお前に勝ったと思うがな」
「あんな全身傷だらけで勝ったと思っているのか?生き残ったほうが勝ちだぜ?」
「互いに決めたルールの中での勝ち負けの話をしている」
「なら、俺だ。最初の戦いでは俺が優位に立っていたはずだ」
「いや、結果的にお前は地に倒れ、俺は立っていた。それが勝ち負けだろ?」
「素の力なら俺だ」
「魔法込みで実力だ」
「あ~もう。そんなごちゃごちゃいうなら、やればいいじゃん」
投げやりなアズの言葉に、俺たちは立ち上がる。
「その通りだ、ここらでどちらが強いか確かめとかないとな」
「言ってろ。もう一度、倒してやるよ」
俺は剣を構え、アルフレッドも大剣を手に取る。
距離をとり、隙を伺う。
アズは安全な場所に避難し、応援を始めていた。
バラムの腹によっかかっている。
なんだか、ふかふかであったかそうだ。
なんか、ズルいな。
「じゃあ、いくぜ」
「さっさと決めるぜ」
俺とアルフレッドが動こうとした、その時。
結界船が、音をたてて止まった。
それは、故障ではない。
目的地についたからだ。
魔法王国の王都。
ルイラムに。
勝負はお預けになった。