魔法王国編02
「で、あてはあるのか?」
「早速、俺に頼るなよ」
宿場町を出て、連れだって歩く。
どちらも毛皮を着込んでいた。
意外に暖かいな。
アルフレッドは自称、脳ミソまで筋肉だというので考えるのをやめたらしい。
これでよく、ここまでこれたな。
まあ、あてというか。
考えていることはある。
「とりあえず王都ルイラムまで行こう」
「よし、前衛は任せろ」
考えるのは任せた、ということか。
雪道を歩く。
宿場町の宿屋の主人によると、王都ルイラムまでは徒歩ではかなりかかるが、峠を越えて次の町に行けば王都までの定期便があるらしい。
定期便ってなんだ?
行けばわかる、という主人の言葉を信じて俺達は旅立ったのだった。
道は徐々に坂にかわり、峠に入ったことがわかる。
割合、ゆるい勾配で俺達には平地と変わらない程度だ。
街道の両脇には針葉樹の森が広がっている。
というか、針葉樹の森に街道が開かれたのか。
寒々しい緑を進んでいく。
「俺はな、あのあと捕縛されたのよ」
アルフレッドが喋り出す。
「そこは聞いていた」
「んでよ。条件付きで恩赦を受けた」
恩赦か、よほどキツイ条件だったんだな。
「どんな条件だ?」
「それがこのフェルアリードのアジト調査よ」
それだけか?
条件を満たす前に逃げられても仕方ないぞ?
ん?でも、そういえばこいつ?
「セトはどうなったんだ?」
「セト様はまだろくに動けん。聞きたいことはわかるぜ?俺にとっては人質だ」
ホルスらしい。
といったら、奴が腹黒いように思えるが、間違っていない気もする。
裏切るリスクも少ないし、実力もある。
けど、俺と出会わなかったらあの宿場町から進んでいない気もする。
そこのところ、もう少し考えなかったのか。
腹黒の詰めが甘いってあんまし、よくないよなあ。
腹黒がいいかはともかく。
雑談をしながら峠道を進み、昼過ぎには開けた場所に出た。
そこで、俺達は異常を感じた。
始めに気づいたのはアルフレッドだ。
「ん?」
という呟きに、俺も気付く。
前方の開けた場所にとてつもない魔力を感じる。
「警戒しながら行く」
「魔力の波長からすると人間だが、なんか違う」
「魔力の波長なんてわかるのか?」
魔力の波長なんて、はじめて聞いた。
「ん、ああ。こうな、魔力の届き方がうにゃうにゃしてるっつうか」
「わからん」
「俺にもよくわからんのよ」
脳筋め。
それはそうと、その魔力のもとだ。
人間か。
これほどの魔力を持っている人間。
そこにいたのは、黒い甲冑に身を包んだ男。
黒騎士だった。
もっとも、俺はグラールホールドでも見かけた程度でその呼び名を聞いたのもカリバーンからだった。
奴についてほとんど知らない
そしてもう一人、灰色の髪の少女がユキオオカミの毛皮をまとって立っている。
「カインとアルフレッド、だな?」
「俺はともかく、アルフレッドのことまで知っているだと?」
つい最近まで、砂漠の奥地である砂石の谷にいて表にはでなかったはずのアルフレッドだ。
諸国でも、情報は入っていないはず。
「ふ。セト軍最強の騎士殿のことくらい、知っているさ」
「俺も有名になったものだな」
とか言いつつアルフレッドは切りかかる。
なんで、こんなに好戦的なのこいつ。
しかし、黒騎士もたいしたものでアルフレッドの剣を片手でいなし、握った拳を顔面に突きつける。
「思った通り、強え」
「思ったんならやめとけよ」
「知らない奴に切りかかるのはやめた方がいい」
兜の中で黒騎士は笑っているようだった。
よく、わからん。
「さて、カイン。お前に新たな仲間を紹介しよう。アズだ」
紹介された少女がペコリと頭を下げる。
「アズ・リーンです。どうぞよろしく」
「よろしく頼むぞ」
などと、アルフレッドが勝手に快諾する。
「ちょっと待て。唐突過ぎてついていけん」
「なんだ?アズが嫌いか?」
「好きとか嫌いとか、そういう問題じゃねえ!」
「何が問題だ?」
あ、こいつ兜の中で笑ってやがる。
わかってて楽しんでやがるな。
性格悪いなぁ。
この少女にも何か事情あがあるのだろうが、よく知らない男に預けようと思うな。
「お前らのことは信用している」
考えてたことを読まれた?
「お前の考えてることくらい、わかるさ」
俺は黒騎士が何を考えているかなんてわからない。
しかし、アルフレッドが承諾していたし、断る理由もなかったから、熟考のすえ俺はアズを仲間として受け入れることにした。
黒騎士は満足そうに頷き、去っていった。