魔法王国編01
北の果てルイラム。
白き雪に覆われた冬の大地。
古代魔道帝国の遺産が眠る魔法の国。
その王都ルイラムを俺は目指していた。
グラールホールドから北上し、デヴァインを経由し、北国街道を進み、コレセントとルイラムの分岐点を西に曲がり更に北上。
そこまでで、一月ほどかかった。
季節はすでに、夏真っ盛りのはずだがこの北の大地は雪景色だった。
まだ、ルイラム国の入り口に過ぎない。
にも関わらず、ここは小雪がちらつく寒空だった。
「国境またいで向こうは、真夏なのになんでここは雪が降ってるんだ?」
国境の宿場町で、宿をとったカインは酒場で飲んでいた。
初老の主人は、蒸留した火酒をカインに出しながら笑う。
「ここに来た人はみんなそう言うね」
「だろ?」
「なんでなのか、ってのは国の偉いさんしかわからんだろうね」
「わからないのか?」
「わからんね。だいたい、中原の人たちだってどうして春夏秋冬が来るかわかるのかい?」
「それはまあ。わからんね」
「だろう?わしはそう言って旅人さんの質問をかわしてるのさ」
「ははあ、なるほど」
そこで火酒をクイッと飲む。
喉が焼ける。
まさに火の酒だ。
ほどほどにしとかないと、明日に響くかもしれない。
と思いながらもついつい飲んでしまうカインだった。
翌日。
宿の主人のすすめで防寒着を買うことになった。
この先、寒さはますます強まり防寒着がなければ命に関わる場合もある、のだそうだ。
なんでも、ユキオオカミの毛皮を使った外套が人気なんだそうだ。
オオカミと聞くと、春先の砂の王国が思い出される。
もう、オオカミと戦うのはこりごりだ。
まあ、それとこれとは別だ。
毛皮の外套を買うべく、町の雑貨屋を目指す。
やまぬ小雪の中を歩く。
革鎧の隙間から、冷気が忍び寄ってくる。
この鎧もそろそろ限界かな。
などなど思いながら歩いていると、大きな声が響いてきた。
「うおおおい、なんでこんなオオカミの毛皮が2000リグもするんじゃあああ!!」
なんだろう、この聞いたことのある声は。
なんで、ここでこの声を聞いているんだ俺は。
店の中から出てきた声の主は、大きな男だった。
暗緑色の鎧をまとったそいつは、カインの姿を見つけると嬉しそうに駆け寄る。
なぜか、両手剣を振りかぶってくる。
俺は剣を抜き、刀身を炎でまとい物質化。
瞬間的に炎の剣を精製できるようになった。
これは、グラールホールドでの炎の王と戦った時の経験が大きい。
あの極限の戦いで、魔力の炎の使い方がいろいろわかった気がする。
炎で一から剣を作るより、剣を炎でまとい、そこから物質化したほうが早く、魔力の消費も少ない。
できた炎の剣で両手剣を防ぐ。
グッと圧力がかかるが、充分防げている。
奴はニィッと笑う。
「久しぶりじゃないか、カイン」
「なんでここにいるのかは聞かん。なぜ、俺を襲うんだアルフレッド」
「んだよ、聞けよぉ。俺はよ、ある魔法使いのアジトを探しにここまで来たんだが、収穫がなくてなあ。もっと北へ行こうと思ったんだが、この毛皮がボッタクリでよぉ。腹立ち紛れにお前に切りかかってみた」
「切りかかってみた、じゃねえよ。だいたい、ラーナイルとここじゃ、毛皮の値段が違うのは当然じゃねえか」
「なんでだよ?」
「砂漠で毛皮使うか?使わないものは安いんだよ。その逆もまたしかりだ」
「お。おお。そうだな、たしかにその通りだ」
驚くのは、この会話の間ずっと俺とアルフレッドは剣を交えていたことだ。
もちろん、本気の戦いではないがひやひやする。
衛兵がやって来る前にやめたけどな。
毛皮を買い、俺とアルフレッドは宿の酒場に戻った。
暖炉には、火が燃えている。
その火に照らされながら、俺は再会にいまさら驚いていた。
「で、なんでここにいる?」
「さっきは聞かんといったじゃないか?」
「ある魔法使いのアジトを探しに来た、と言っていたな」
「スルーか」
「お前が探すということは、依頼主はホルスか。相手はーー」
「予想通りさ。フェルアリード・アメンティス。奴さ」
セトを唆し、内乱を起こした魔法使い。
最終的には、セトも裏切り、俺に殺された。
その魔法使いのアジトか。
「そこに何がある?」
「さあな。何があるかを探すのが目的かもしれんな」
ルイラムに行け、と言われたがいいが目的はなかった。
ここで、アルフレッドと出会ったのも何かの縁だ。
手伝ってもいいんじゃないか。
「俺が手伝ってやるよ」
「俺はその気だったが」
「事前に本人に確認しろよ」