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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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廃王国編04

単純な男だ。

と、ベスパーラは思っている。

教皇とこいつの口車に乗って、ガッジールくんだりまで来たが先行きは不安だ。

少しでも、現実的な物の見方があればこんな状況にはならなかっただろう。

まあ、のこのことついてきた私も愚かなのだろう。

税収もない。

産業もない。

兵士もない。

これで、どうやって国としてやっていくのか。

カリバーンのような者に騎士団団長の職をとられているのは虫酸がはしるが、こいつらに任せているよりはマシだったかもしれない。

いずれ、機を見て脱出するのも手だな。


「ベスパーラ?聞いているのか?」


「ハハッ。団長」


「そろそろ時間だ。住人に対しての説明がある」


「猊下の準備はよろしいのですか?」


「これからは陛下と呼べ、とのことだ。ロンダフの名を継承するとの仰せだ」


「陛下、ですね。以後気を付けます」


「うむ」


やはり、すぐにでも逃げよう。

ロンダフの名を名乗ってどうやって台頭する気なのか。

大陸中の反感を買って、叩き潰されるのがオチだ。


「行くことはないぜ」


響いてきた声に、二人は弾かれたようにそちらを向く。


「なんだ貴様は!?」


「名乗るほどの者ではない。最近は黒騎士と呼ばれているがな」


自分で名乗る通り、漆黒の鎧に身を包んだ騎士。

それと、ガッジールの住人らしき少女。

そして、床に転がるグラールホールドから連れてきた騎士たち。

このわずかな時間に、これだけの数の騎士を倒したというのか?

まずい。

これはまずい。

まずい状況にも関わらず我らが騎士団団長モルドレットは声をあらげる。


「ふさけるのは格好だけにしてもらおうか。ここはガッジール騎士団の詰所、無数の騎士が貴様の相手になるとわかっているのだろうな?」


まわりが見えていないことはわかった。


「ほほう?ならばここに転がる役立たずよりも強い騎士がいるのだな?」


「はあッ!?」


ようやく自分の配下があらかた倒れていることに気付いたようだ。

「おのれ、よくも。ならばガッジール騎士団副隊長のベスパーラが相手をしよう」


私か。

どう見たって、向こうのほうが強いだろうに。

こういう時に矢面に立つくらいすれば評価と忠誠を得られるものだが。

それができたら、ここにはいないか。

まあ、まだ逆らう時期ではないし、いいくらいにやられて逃げよう。


「ガッジール騎士団副隊長ベスパーラがお相手いたす」


「あんたとは一回戦ってみたかったんだ。悪いが五割でやらせてもらう」


妙な言いぐさだ。

まるで何度か会ったことがあるかのような。

それに五割?

半分の力か。

まあ、妥当だろうな。

そんなこんなでベスパーラの思惑とは関係なく。

黒騎士の踏み込みから戦いが始まった。


消えた、と思った瞬間には回避が間に合わない。

消えるかな?動くかな?と予想した時点で対応して、ギリギリなくらいだ。

速すぎる、とは思わなかった。

発せられる気から判断するに、このくらいは動くだろうと予想はしている。

あとは、どこまで食らいついていけるか、だ。


何度回避したかわからないが、とりあえず一撃も当たっていない。

自分の予想に称賛を贈りたい気分だが、パターンもある。

右からの袈裟斬り、左から水平に薙ぎ払い、正面に突き、突きから派生する切り上げ、そして右からの袈裟斬りに連携している。

防げば別の派生があるだろうが、回避し続ければこのパターンを繰り返していることがわかる。

まあ、一撃一撃が超高速で回避するので精一杯だ。

だが、薙ぎ払いから突きに移行する間にほんのわずかな隙がある。

そこを狙う。

それに、そろそろ足の方が限界に近い。

次のパターンで反撃を開始する。

右からの袈裟斬り、左に水平に薙ぎ払い。

ここだ。

体勢を戻す空隙に接近、突きの発生をわずかに左に体を反らして回避。

突きからの切り上げの前に剣を振るう。

完璧な動きだった。

これ以上の動きはもうできない。


黒騎士も反応できてーーできている!?


黒騎士の左手が、ベスパーラの剣を掴む。

咄嗟に剣を放し、後方に跳ねる。

受け身も取れずに背中から落ちるが、追撃はかわした。


「ほう?ファイザーンはまともに食らったぞ」


ファイザーンがやられたことが、いまさらながらわかった。


「読まれてましたか」


「読ませた」


「!?」


「隙があるパターンを繰返して、攻撃を誘った。まあ、あそこまで見事な一撃がくるとは思わなかったが」


「自分では、これ以上ない攻撃だったのですが」


「いや、あんたはまだまだ強くなる。今の才能に頼った戦いを修正すれば、な」


これは痛いところをつかれました。

何者なのかはわかりませんが、凄い奴もいるものですね。


「私の負けです」


なんだか、スッキリしました。

負けを認めるのも悪くはない。

モルドレットのもとを出よう、とベスパーラは決めた。

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