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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
33/410

廃王国編03

「なかなか楽しい鬼ごっこだったぜ、お嬢ちゃん」


騎士が次々に追い付いてくる。

いや、はじめから本気なんてだしていなかったのだ。

アズの力が尽きるのを待っていただけ。

そして、彼らの目論見通りにアズは立てなくなった。

体力の限界と、腰が抜けたことで、だ。

それでも、手だけで後ろに下がる。

騎士たちのニヤニヤはさらに深くなり、嫌悪感を生じさせる。

おぞましい。

嫌だ。

触られたくない。

来るな。

思考が、そのまま言葉になる。

でも、言葉で騎士の歩みを止めることはできない。

ゴツンと、背中に硬い感触。

壁、だ。

もう逃げるところはなかった。


「俺が一番だな」


「隊長ずるいっすよ」


一人立派な装飾の鎧の男が前に出てくる。

鎧と顔が見あっていない。

下卑た表情が浮いている。

こんなときでも、そんなことを思った。


「楽しもうぜ、お嬢ちゃん。俺たち皆とよ?」


隊長が手を伸ばす。

捕まったら終わりだ。

いや、もう状況は終わっている。

何か、奇跡でも起きない限りは。


伸ばされた手は、アズに届かなかった。

その手首をがっちりと掴まれていたからだ。

アズから見えたのは、黒い籠手。

そして、隊長は吹き飛んだ。

アズの後ろから生えた黒い鎧の足が隊長を蹴り飛ばした、ということがようやくわかったに過ぎない。

耳元で声がする。

くすぐったい。


「体格は、中の下。鎧は立派だが踏み込みが弱い。ファイザーンだったかな、お前」


瓦礫から生えるように、アズの後ろから黒い騎士が現れる。

彼が助けてくれたのだ。

腹を押さえて呻いている隊長ーーファイザーンは部下に喚く。

奴を倒せ、と。

闖入者に驚いていた騎士たちも、我を取り戻し襲いかかる。

黒い騎士ーー黒騎士は笑う。


「相手の実力も、自分たちとの差もわからないか?カリバーンが知ったら泣くぞ?」


黒騎士は迎え撃つべく動く。

一人目を殴り飛ばし、二人目を蹴っ飛ばし、あっという間に十数人の騎士をぶっ飛ばしてしまった。

転がっている騎士たちを見もせずに、黒騎士はいい放つ。


「ウォーミングアップにもなりゃしない。これが栄えあるグラールホールドのアルザトルス教会騎士団の精鋭か?」


ファイザーンの顔に驚きがはしる。


「お、お前、知って?」


「知ってるに決まってるだろ?じゃなければ誰もここまで来ないだろうが」


「に、逃げ」


「逃げられると思うなよ?」


刹那の間に黒騎士は、ファイザーンの前に移動する。


「ひ、ひぃ」


「お前は寝てろ」


黒騎士の手刀が、鎧の上からファイザーンの意識を落とした。


「無事だったか?アズ」


急に優しい声に変わってアズは戸惑いながら返事をする。


「あ、うん」


「教皇を追ってきたら、まさかアズに会うとはなあ。偶然とは怖いな」


名前を教えてはいなかったとアズは思ったが、助けてもらった礼のほうが先だろうと「ありがとう」と言った。


「いや、礼はいらない」


「へ?」


「礼を言う気もなくなるほど、楽しいことを思い付いた」


兜と面頬で見えなかったが、黒騎士は確かに笑っているようだった。


大聖堂の騎士詰所、と言えば聞こえはいいが比較的綺麗だった部屋に騎士たちを集めただけだ。

そこで、モルドレットはベスパーラと雑談をしていた。


「ファイザーンがいない?」


「ええ。住人で遊んでいたようですが小隊ごと消えた、と」


「ええい、何を遊んでいるのだ?」


苛立ちながらモルドレットは声をはく。

彼らは、炎の王襲撃時にグラールホールドを脱出していた。

グラールホールドに見切りをつけ、教皇とともにここまで来た。


「探してまいりますか?」


「いや、いい。責任感がない者に重職は任せられん。奴は降格だ。一般騎士からやってもらおう」


「さすがの判断でございます。確かに奴は分隊長には相応しくないと常々、感じておりました」


「お前が副隊長だ、ベスパーラ」


「ありがたき幸せ」


「このガッジールで我らは栄光を掴む。その道筋に一つの小石さえ許されない。カリバーンごときにひれ伏した時代はおわったのだ。ガッジール騎士団団長モルドレット・バニジュについてくるがいい」


「ハハッ」


赤みがかった金髪に、浅黒い肌、筋肉質の体。

それがモルドレットだった。

グラールホールドのアルザトルス教会騎士団の白い鎧に赤いラインを入れ、ガッジールの紋章を入れている。


外様のカリバーンに従うことへの不満があった。

しかし、結局教皇猊下は私を選んだ。

私のほうが強いからだ。

この国を再興し、私の力で最強の騎士団を造ってみせる。

私の力で、だ。

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