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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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廃王国編02

ガッジールの中心。

かつての、ロンダフの支配の中心。

それが、ガッジール大聖堂だ。

後期エルフラ様式の建物で、今は剥げているが外壁は金と銀で彩られていた。

ステンドグラスには、ロンダフの事跡が写し出され内部を照らす。

普段、ここには誰も入らない。

旧主への畏敬か、恐怖か。

大人が入らなければ、子供も入らない。

そこが、今日は埋まっていた。

おそらく、ガッジール市内のほとんどの住人が集まっている。

その数少ない例外であるアズは、状況を把握しようと歩き回っていた。

大聖堂へ向かう人々から聞いた話だと、まず旧ガッジールでそこそこ名が知られていた人が集められたのだという。

その人々が、まわりの人たちに話を聞かせ、それが伝播していったようだ。

その話の内容に、アズは理不尽さを感じた。


曰く、ロンダフ王が帰ってきた。


「ロンダフ王が?」


「ああ、そうだ。我らの栄光の日々が戻ってきた。お前も早く向かうといい」


と、話を聞いた大人は目をキラキラさせながら言った。

あいまいに返事を返しておく。


「いまさら」


まず思ったのはそれだった。

今の今まで放っておいた癖に、いまさら戻ってきて何をしようというのだ。

生まれてからずっと、アズは顔も見たこともないロンダフの呪いに縛られていた。

ロンダフ三番通り。

誰も入らない大聖堂。

荒れ果てた商店街跡。

その全てが灰色に曇っている、けれど。

いまさら干渉されたくないのだ。


だから、アズは大聖堂へ向かった。

知らない王様にひれ伏すためではなく、その王様に文句を言い、機会があれば一発殴ってやるためだ。

そもそも、死んでもいいという覚悟は決めていた。

ならば、今日でも明日でもそれは変わらないだろう。

妙にスッキリした気分だった。


悲鳴らしき声を聞いたのは、大聖堂が近くなってからだ。

高い声が一瞬鳴って、押し殺されるように途切れた。

大聖堂の中からは聞こえないだろう。

慎重にその悲鳴の元へ向かう。

王様を殴るのも大事だが、異変を放っておくともっと大事になる気がする。

こういう勘は当たるのだ。

大聖堂裏手の馬場が現場だった。

そこに、鎧を着た人々がいた。

あの白い鎧の人たちだ。

後に聞いたところ、それは騎士という職種の人々だということだそうだ。

彼らは十数人いたが、皆同じ方向を向いている。

そこには、ボロを着たガッジールの住人が追い詰められていた。

ガッジールの少年は、 恐怖に顔を歪ませて震えながら壁を背に立っている。

騎士の一人が剣を持ってゆっくりと彼の方へ歩いていく。

後ろの騎士たちから野次がとんでいる。


「おい、さっさと決めるなよ?もっと怖がらせてやれ」


「俺は、腰を抜かすまであと30セカンダリと見た」


「いや、50だ。もっと根性あるだろ?」


「賭けるか?」


「いいだろう」


醜悪だった。


全員がニヤニヤと顔を歪ませている。

こいつらは、ガッジールの住人をなぶって遊んでいる。

よく見ると、すでに事切れた亡骸がいくつも転がっていた。

こいつらは違う。

て、アズは理解した。

かつて、この地を支配したロンダフは確かに恐怖の魔王だったかもしれないが、今帰ってきた、と言っている奴は違う。

少なくとも、19年たっても慕われる何かをロンダフは持っていたはずだ。

それは、住人を無益に殺しては得られないだろう。


思わず、アズは叫んだ。


生きてきて一番大きな声で「逃げて!!」と。


騎士たちの視線が、こちらに向く。

少年は弾かれたように動いた。

壁を乗り越え、市街へ逃げる。

しかし、アズにはそれを見届ける余裕はなかった。


「なんだ。女もいるじゃないか」


一人の騎士の声に、全員が下卑た視線を向ける。


「バカか?まだ子供じゃないか?」


「女は女だ」


ゴクリ、と唾を飲み込む音が、なぜかよく聞こえた。


「それもそうだな」


最初の一人が動く前に、アズは走り出した。


ガチャガチャと、後ろで音がする。


「向こうだ」


「追え!」


「逃がすなよ」


怒号がとびかい、アズを追う。

捕まったらどんな目にあうか、具体的なことはわからないが、なんとなくひどいことになりそうだ、とは思った。

だから、アズは必死に逃げる。


追いつかれるよ。


と冷静なアズが囁くが、聞いちゃいられない。

諦めたってひどい目にあうのだ。

いつの間にか、足はロンダフ三番通りへ向かっていた。


そうね、可能性があるならそこね。


ほら、意見も合うこともあるのだ。

自分が助かるだけでなく、あいつらもどうにかしなきゃいかないとしたら、取れる手段はそれしかない。

歪んだロンダフ三番通りに相手を誘い込むこと。

それだけだ。


しかし。

足を踏み入れたロンダフ三番通りは、平常だった。

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