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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
31/410

廃王国編01

見捨てられた街。

ガッジールに住む大人は、ガッジールのことをそう言う。

まあ、屋根もない家も多いし。

家や建物だった瓦礫の山もたくさんある。

道も半分以上は、よくわからない歪みで通れない。

けれど、アズにとってガッジールはそういう街だったし、ガッジール以外の世界は知らなかった。


アズ・リーンはガッジール生まれ、ガッジール育ちの12歳の少女だ。

けれど、名前も年齢もこの街では何の意味もなかった。

区別するのは大人か子供かだけ。

いつも灰色に曇った空のように、この街は灰色だった。

19年前のガッジールの起こした戦争で、この街は大陸全てから見捨てられたのだという。

かけたのか、かけられたのかはわからないが、太陽の光も結界呪文に阻まれ届かない。

明るいか暗いか、それだけの区別しかつかない。

視界と同じように、思考も雲がかかったように働かない。

それが、廃王国ガッジールとその住民の今だった。


身にまとうのはぼろぼろの汚い布で作られた服、その辺に捨てられていた誰かの服の残骸だった。

それは、大人も子供もそうだった。

男も女も。

それが普通だ。


不意にアズは空腹を覚える。

そういえば、朝から何も食べていない。

食べ物を求めて、商店街跡に向かう。

アズにはわからないが、そこで昔は食べ物や衣服を売っていたのだという。

売る、とはなんのことかはわからないが。

そこには、まだ食べ物が残されている。

乾燥肉や、乾いたパンやらだ。

別に誰かが管理しているわけではないから、好きに持ってこれる。

けれど、そこにいくまでがアズたち子供にとってーーときには大人にとってもーー危険だった。

商店街跡に行くまでに必ず通らなければならないロンダフ三番通り、そこが問題だった。


その道は、歪んでいる。


いつもではない。

ある一定の周期で歪む。

その周期について知っている者はいない。

歩いても歩いても先に進まなくなったり、進んでももとの場所に戻ったりする。

酷いときは、いつの間にか空中に移動して落下死する者もいた。

それがいつ来るのか、いつまで続くのか、誰にもわからなかった。

しかし、食料を手に入れるにはその道を通るしかなかった。

覚悟を決めて、アズは歩き出す。

覚悟とはいったものの、たいしたものではない。

飢えて死ぬのも、空から落ちて死ぬのも、死ぬという点から見れば一緒だ、ならばどうにでもなれ。

という後ろ向きの覚悟でしかない。


結論から言えば、何事もなく通過できた。

道の難易度からか商店街跡は静かだ。

今日は、特に。

いつもなら、何人か食べ物を探す人がいるのだけれどアズ一人だった。

まあ、こんな日もある、とアズは目についた建物に入った。

ドンガ干物店、という名の建物の中はひんやりしていて気持ちいい。

曇り空だからか、外はジメジメしている気がする。

屋内のほうが過ごしやすい。

そんなことを考えながら、食料を探す。

カラカラに乾いた干物は固すぎて食べられない。

奥のほうの倉庫が狙い目だ。

倉庫の入り口は、壊されていた。

誰か先に来たのだろう。

あまり、いいのはないかもしれない、とアズは考える。

だが、中にも埃が積もっているのを発見。

誰かがきたのは、かなり前のことだったろう。

倉庫の中には、干し肉やら乾パン、そして漬けた野菜があった。

なかなかの収穫だった。

これで、何日か持つだろう。


持たせてどうなる?


アズの奥の方の冷静な自分が囁く。

寝て起きて食べて探して、そして寝る。

永遠にも思える循環。

このまま生きていても、何にもならない。


生きている意味はあるの?


でも生きているのだから、生きていかなければいけない。

と、食べ物を持ってロンダフ三番通りを歩くアズが頭の中で答える。

埒もあかない思考だ。

一人で自問自答している。

何かを変えることはできないだろう。

どう変えるのか、何を変えるのか、アズにはわからない。


何かのきっかけがあれば。


ドドドと、何かが通っていく音がする。

聞いたこともない音だ。

それもかなり大勢の。

こんな危ない道を、誰が?

アズは瓦礫の中に隠れる。

見つかってもいいことはない、と冷静な自分が囁く。

それには、同意する。

たまには意見が合うのだ。

瓦礫の隙間から見えるものは、白く輝く何かだ。

キラキラ光るのはそれが金属だからだ。

アズは知らなかったが、それは鎧の足部分。

それが数百人分、ロンダフ三番通りを歩いていく。


はじまった。


と、アズと冷静なアズが考える。

この曇り空を晴らす何かがはじまったのだ。

それが、話に聞く青い空なのか、暗闇に包まれた終わりなのかはわからないけれど。

もし彼女が外の世界で生きていたならば、かなり鋭い勘を持っていると言われただろう。

この閉じられた街では、切り離して生きてきたけれど。

その勘が囁く何かに、アズは突き動かされていた。

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