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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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神聖皇国編06

グラールホールドをのぞむホワイトステップ平原に青年が一人立っていた。

闇の塔の最上層、アルザトルス神殿の爆発はそこからよく見えた。

炎上する神殿と、落ちていく夕陽が平原を赤く染めて、グラールホールド自体が燃え上がっているような景色を生み出している。

炎の景色の中、青年は呟く。


「見つけた。ようやく見つけたぞ。炎の王。待っていろ、すぐに行く」


その左目は炎のように紅い。

彼は駆け出す。

仇目掛けて、放たれた火矢のように。


彼の名は、カイン。

カイン・カウンターフレイム。

炎の王への復讐者。


市街では、負傷者の移動が行われていた。

死者こそでなかったものの、重傷を負ったものは多かった。

動けない怪我人は医者だけの手に終えず、近くのアルザトルス教会にまで運び入れられていく。

その人の群れの中を、炎が駆け抜けていった。

激しく飛び散る火の玉のような勢いを、人々は見ていることしかできない。

直接、戦った者などはそれを炎の王と見間違えることもあった。


その炎の勢いは、市街の闇の塔よりの広場に立っていた炎の王にもよく見えた。

すぐに、二つの炎は激突した。

カインの手には魔力を物質化した炎の剣、それを両手で持つ。

一撃目から全力の斬撃!!

炎の王も、深紅の大剣を両手で持ち受ける。

両者の邂逅は、炎の剣の衝突で始まった。

それぞれからあふれでる魔力は炎となり噴き出す。


二人の力は拮抗していた。

鍔迫り合いが続く。

歯を食い縛るように、カインが声をしぼりだす。


「やっと。やっと見つけた。炎の王、お前を殺す」


「あの時の少年か。強き力、成長が見てとれる。だが」


炎の王は、その凄まじい腕力で大剣を振りきる。

弾かれたカインは、3メルトは後退した。


「まだ余力があるか」


カインは、再び挑もうと足に力を込める。


「ーーだが、まだ我のほうがはるか上だ」


炎の王のセリフと共に、あたりが猛火に包まれた。

その全てが、炎の王の魔力の余波で火がついたのだ。

衝撃波で、カインの勢いも止まる。


「炎の王、その名の通りの炎だな。だが、負けない」


カインは、炎の剣を構える、が。


「そのような、火がついた棒のごとき武器では我に傷一つつけられぬ」


炎の王が腕を振る。

カインの手の炎の剣が震え、赤い光となって霧散した。

炎を制御下におく炎の王が、カインの魔力で作った炎に勝った結果だ。

使いなれたロングソードだけが残っている。

カインの顔色が青ざめる。

よぎるのは絶望か。


「まだ、まだ届かないのか?」


「俺は、退くのか?」


「逃げるのか?」


「それでどうする?」


「今まで、捨て身でやってきたはずだろ?」


「ここで奴を倒す」


「この身がどうなろうと、奴を倒す」


沸き起こるのは、己の不甲斐なさに対する怒りだった。

絶望を焼き尽くす怒り。

怒りの奔流は、左目を通して赤の魔力炉に流れ込み、誓約をかわした二柱の神に伝わった。

そこから、想像を絶する莫大な量の魔力が戻ってくる。

左目から噴き出す魔力に、カインの思考は焼かれていく。

残ったのは純粋な怒り。

ただひたすら、炎の王を滅する烈火の憤怒だった。

憤怒の炎は、カインの全身を包み鎧と化した。

烈火の怒りは、カインの剣を包み大剣と変えた。

その姿は、目の前の炎の王の似姿。

深紅の鎧と深紅の大剣。

その違いは背丈くらいだった。

炎の王も今までのカインとの変化に身構える。

そして二度目の激突、と同時に爆発。

双方の剣撃の威力が大きすぎたのだ。

同じ色、形、大きさの大剣がしのぎを削る。

何度も、何度も打ち付けあう。

互角の威力。

炎の王も、カインも踏みとどまり剣を繰り出す。

どちらも、退かずに受ける。

剣と剣が交わる時に、爆発が起こる。

そこから吹き出る炎が、建物に延焼した。

戦っていた広場は、炎の海のように燃える。

燃える炎の海で、二人の炎の戦士は戦い続ける。

言葉は無かった。

例え、なにか喋っていたとしても燃える市街のたてる轟音でどちらの耳にも届かないだろう。

ただ剣と剣が衝突する音だけ、炎の海を越えてくる。

戦いは、永遠に続くかと思われた。

同じ魔力炉から力を得ているのならば、その力は互角。

永遠に、互角。

戦いは、終わるわけもない。

グラールホールドを焼き滅ぼして、大陸を炎で包み、世界全てを燃やし尽くすとも。


しかし。

両者の剣は、阻まれた。

カインの剣を止めたのは白い鎧の男。

カインは、その男の名を知っている。


「なぜ止めるッ!カリバーン!!」


共に戦った仲間の名を叫ぶ。


「今はまだ、その時ではないのだそうだ」


「意味がわからないんだよッ! これは俺の復讐だ。誰にも止める権利などないッ!」


「たとえそうでも、私は仲間を止める義務がある。それが不毛な戦いを呼ぶならなおさらだ!」


「んだとッ!」


一方、炎の王を止めたのは黒騎士だった。


「落ち着け、ラグナ」


黒騎士は片手一本で、炎の王を止めていた。


「ーーお前か。首尾はどうだ?」


「逃げられた。予定通りに、な」


「予定通り、か」


「ああ」


炎の王は剣を引いた。

そして、カインを見る。


「俺はまだ戦える、まだ戦えるッ!」


「カインよ、今は剣を引け」


「なんだと!?」


「我は逃げぬ。いつか、必ずお前との戦いの場を設ける」


「俺は今、ここで、お前を、倒す」


「お前の、自身の力であれば不満はない。我に挑むなら、お前自身で来るがいい。その時は、我が全力で相手をしよう」


「きっとだな」


「ああ、我が剣にかけて」


納得したカインから、炎の鎧と剣が消えた。

怒りによって生み出された力は、怒りが薄れたことで消えたのだった。

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