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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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神聖皇国編04

黒騎士は一歩前に出た。

鎧の重さを感じさせない、軽やかな歩みだ。

いつのまにか、手には鎧と同じ色の両手剣が握られている。

私と同じタイプのようだ。

防御力を維持しつつ、攻撃力も高い。

目にも止まらぬ高速移動をしていることから、魔法は“剣”だろう。

そこで、砂の王国で出会った“剣”魔法の使い手の青年を思いだす。

あの無鉄砲な青年なら、この局面をどう動くだろうな、と心配になった。

本当に心配されるべきは、この危機的状況の私のほうなのだろうが、な。


「アーサー・カリバーン卿だな?」


「そうだ」


「悪いがここを通らせてもらう」


「できるものなら、やってみるがいい」


ここで、抑えていた殺気を解き放つ。

後ろに控える、兵士や騎士らがうめく。

ここまで出すのは久しぶりだ。

砂の王国ですら、ここまで出さなかった。

しかし、黒騎士は意に介した様子もなく話を続ける。


「やらせてもらおう。なぁに、ただでとは言わんさ」


「ほう?何をくれるというんだ?」


「あんたが勝ったら、炎の王を引かせる」


信じられない言葉だったが、納得はした。

そして、わずかな希望も見える。

ことの真偽はともかく、勝てば終わるのだ。


「そうか。ならば全力でやらせてもらう」


「そうしてくれ。だが、俺が勝ったらここを通らせてもらう。あんたも一緒にな」


「私も?命は取らないのか?」


「そんなもんはいらん」


やはり、目的はそこではないのだ。

黒騎士の言う通り、闇の塔に入ることが目的なのだ。


やがて、どちらからともなく剣を構える。


そして、動き出す。


初撃はカリバーン、両手持ちの剣を降り下ろす。

その渾身の一撃を、黒騎士は左手で受ける。

ガシッと剣を掴んだまま、片手で両手剣を振る。

風切り音を鳴らせながら、黒い刀身が迫り来る。

万力で挟まれたような剣から手を離し、カリバーンは跳ねる。

曲げた足のすぐ下を黒い死の風が吹き抜けていく。

詠唱破棄で、黒騎士の手に“符”の弱体化呪文をかける。

一瞬でキャンセルされるが、その間隙に剣を取り戻し空中から攻撃。

その攻撃をわずかに体を動かしただけで黒騎士は回避。

その動きを起点に、黒騎士の切り上げ。

空中で動きが取れないところだが、体を丸めて防御。

とてつもない威力の攻撃をくらう。

ボキボキとアバラが折れる感触が凄い。

痛みも凄い。

その勢いを利用し、距離を取る。

残った魔力を総動員して、“杯”の回復呪文を展開。

折れた骨、肉、皮膚が痒みと痛みを伴いながら治っていく。

そして、地面に着地。

姿勢は保っている。

黒騎士からの追撃はない。

待っててくれるようだ。

体勢を整える。


しかし、強い。

炎の王とはまた違った強さだ。

力と速さを兼ね備えた狼のような。

全力で相対しても、黒騎士は底が知れない。


勝てるか?


心の隅に弱気が浮かぶ。

だが、私の背にグラールホールドがのしかかっている。

ここで、負けるわけにはいかない。


その決意を胸にカリバーンは駆け出す。

黒騎士も動きだし、剣を合わせる。

ガヅン、ガヅンと剣が衝突し、音と火花が弾ける。

闇の塔の前で、黒騎士とカリバーンは戦い続ける。

力の差は大きい。

しかし、カリバーンは食らいついていた。

白い鎧はまたぼろぼろになり、剣も削れてくる。


「やはり、ウルファは魔境だな。貴殿のような強者が隠れていたとはな」


「カリバーン卿は、北方大陸の出身だったか」


「よく、知っているッ!」


セリフ終わりに突きだした剣は、黒騎士にいなされる。


「いまの時代では、最強クラスということは保証しよう。カリバーン卿」


「何?」


黒騎士の言葉にカリバーンは意表をつかれた。

なぜ、ここまで褒めた?

ここまで考えたところで、意識は途切れた。

おそらくは突き。

傷痕が、一ヶ所だけだったからだ。

確証はない。

神速の一撃過ぎて、何もわからなかった。


目が覚めると、状況は変わっていなかった。

炎の王は市街で止まっている。

三人の騎士は行方不明。

黒騎士は闇の塔の前で待っている。

カリバーンの鎧がぼろぼろになっていただけだ。

傷は無かった。

どうやら、黒騎士は回復してくれたようだ。

変なやつだ。

私にとどめをささずに待っていて、炎の王を止めてくれていたようだ。

兵らにも被害がないことを確認して、カリバーンは言った。


「俺の敗けだ」


全てを守るという意思が敗北したのだ。


「そうだな。俺の勝ちだ。だが、俺が強すぎただけで、あんたの誓いが破れたわけじゃない。それだけは覚えておいてくれ」


その言葉で、肩のおもしが無くなった気がした。

そして、本当に負けたことを納得した。



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