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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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砂の王国22

神々からもらった力は、炎系魔法の制限解除ともいうべきものだった。

俺の階位よりも上の呪文も使えるようになっているし、呪文の効果もあがっているようにも思う。


“剣”の第4階位“ブーストダッシュ”で、リィナに接近。


ルーナを引き離す。

人質の安全を確保し、もう一度ダッシュ。

フェルアリードの前に立つ。


「何をした?お前はもう限界だったはずだ」


「俺にもわからんよ。ただ」


「ただ、なんだ?」


「炎の神々に選ばれた。それだけだッ」


手に持つ剣は炎をまとい、その炎が物質化する。

炎の意匠の赤い剣。

おそらくは、邪神クトゥガーの力の顕現。

だが、今を戦い生きるために正も邪もない。

この力を手に戦い続ける。


炎の剣を振る。

赤い火花を残して、剣の軌跡がフェルアリードに迫る。


「魔力炉め、まだこんな底を残していたとは。迂闊だった。次こそは!」


負け惜しみなのか、喚くフェルアリードを俺は斬る。


フェルアリードの左肩から右腰を、炎の刃が切り裂いていく。


その断面から灰色の魔法使いは燃え上がった。

炎の中、笑いながらフェルアリードは燃え続ける。


ほんの30セカンダリほどの間だったが、もっと長い時間に感じた。

そして、フェルアリードは燃え尽き、消滅した。


主を失った巨人は、震え出す。

やがて、足元から崩れだし、脛、膝、腰、胸、腕、頭の順に粉々になった。

それきり、復活することもなく沈黙だけが残った。

あれだけ苦労した相手が、呆気なく崩れ去ったことに俺は苦笑するしかない。

フェルアリードと巨人が消滅したあと、リィナはいつの間にか姿を消していた。


そして。

セトもアルフレッドも一命をとりとめた。

セトの戴冠式は、ホルスの戴冠式になり、彼がラーナイルの新たな王に即位した。


セト軍は全員が投降した。

頭が首の皮一枚で生き残り、治療をホルスの命令でラーナイルの国費で行ったことが、逆らうとセトの命はない、と誤解されたようだ。

本当に誤解なのか、あえてそうしたのか。

それはホルスに聞くしかない。

そうして、ラーナイルの内乱はよくわからないうちに終結した。



「僕は、フェルアリードを探しにきていたのです」


アベルがポツリともらした言葉に、意外ながらも俺は納得した。


「奴は、ルイラム出身だったのか」


「ええ。国を逐われた邪悪な魔法使いの一人です。僕はそいつらを追っていた」


その旅でフェルアリードを見つけたアベルは、たまたまラーナイルにいた俺たちとパーティーを組んだ。


「一時の間柄だったはずなんですが。ずいぶんとハマってしまいました」


「だな」


早々に傷も癒えたアベルは、フェルアリードの報告をしにルイラムに戻っていった。


「ラーナイルに潜む邪悪なモノ。それを調査するために私はやってきた」


まさか倒してしまうことになるとはな、とカリバーンは笑いながら言った。


「どこからきたのかは、言わないんだろ?」


俺の問いにカリバーンは笑うだけで、答えなかった。

ただ。


「もしも、お前が強さを求めるなら。また会うこともあるだろうな」とだけ言った。


なんだか、知らないうちに完治したカリバーンは船で外海に出ていった。

まあ、奴の言う通りまた会うこともあるだろう。


ラーナイルはなぜか連日のお祭り騒ぎだった。

前王オシリスの死を悼んでか、乱の終結を祝ってか、はたまた新王ホルスの戴冠を喜ぶためか、その全部か。


王宮から聞こえるどんちゃん騒ぎが遠い。


ここは、王宮の上層。

というか、ルーナの部屋だ。


さすがに酒を飲むのも飽きた俺は、ルーナの部屋に入り浸っていた。

変な意味はない。

帰ってきたお姫様という微妙な立場のルーナに、わざわざ関わろうとする者もいないから、この部屋はとても静かだ。


「何もないのも、女性的には寂しいんだけど」


「なんか言ったか?」


「いえ、別に」


本当に静かだ。

これまでの、騒がしさが嘘のように。


「もしかして、そろそろ出ていくのですか?」


ルーナは結構勘が鋭い。


「ん、まあな。戦っていた日数よりも、飲み食いしていたほうが多いし」


「どこにいかれてもいいのですが、いつかまた一緒に戦いましょう、ね?」


「一緒に戦いましょう、か。男性的には寂しいよな」


「何か言いました?」


「いや、別に」


砂漠を出て、中原に戻るつもりだった。

北に、奴が現れたという情報もあった。

なんだかわからないが、神様からもいろいろ言われたし。


魔王がどうとか。


結局、パーティーは解散したし。


また、単独行だ。


でも今までと違うのは、また俺と共に戦いたいというもの、また会おうと言ってくれる者たちがいることだ。


「じゃあ、俺、行くわ」


「そうですか。気を付けていってらっしゃい」


「また、来る」


「待ってます」


その会話を最後に、俺はルーナの部屋を飛び出し夜の砂漠を歩み始めた。


月が俺の行く道を照らす。

静かな砂漠を俺は行く。

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