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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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砂の王国20

私は手を伸ばす。

隠れていた物陰から出て、対象を目視。

その美しい銀の髪を眺める。

私には手に入らなかったものだ。

灰色が苦戦をしているのが見える。

それはつまり、私の出番が近いということだ。


私はリィナ。


セトの仲間?


いいえ、違う。


私はフェルアリードの娘。

だから、フェルアリードのために働く。



私はリィナ。

リィナ・テリエンラッド。

父はオシリス。


けれどその人のことは父とは思っていない。

あそこには、兄と姉がいる。

初めて出会う家族。


うふふ、笑わせる。


私には兄弟姉妹はいない。

でも、姉と呼ぶべきその人は私と同じ顔をしている。

髪、以外は。


私にとって、父と呼べるのはフェルアリードだけ。

それ以外に今生きている人間は、私にとって無関係だ。

今回私は、フェルアリードの命令でセトに接触し、内乱の種をまく役目だ。

砂石の谷に潜り込み、内乱に対して否定的な人物を暗殺し、肯定的な人物をまとめあげ、それをセトに差し出した。

そうして、父であるフェルアリードの望む通りに内乱を誘導し、私を捨てたオシリスを殺させる。

オシリスの件はついでだったけれど、長年の胸のつかえがおりた感じだった。


ラーナイルの今回の件は私とフェルアリードにとって、始まりに過ぎない。


もっと大きな計画のための、始まりだ。


だから、こんなところでつまずくわけにはいかない。

フェルアリードの結界が粉々に割れる。

この事態になるのは想定していたけれど、確率は低いだろうと、フェルアリードは言っていた。


まあ、どんな策でも失敗はある。


それをフォローするのも私の役目だ。


そして、私は手を伸ばす。




巨人との戦いは続いている。

巨人の拳が前衛の二人、アルフレッドとカリバーンを狙う。

結界を信じ、二人は攻撃動作に移る。


だが、その時。


二人の目の前に展開された結界が割れ砕けた。

突然の結界の消滅で、パーティーは一気に危機を迎える。

二枚の壁が、巨人の一撃で半壊。

続く突進に崩される。


指揮をしながら、隙をみて攻撃していたホルスは突進の直撃は回避した。

だが、かすっただけで吹き飛ばされる。

紙装甲のアベルも巻き込まれた。


「いかにギリギリだったか、よくわかるわよね?」


ルーナに後ろからダガーを突き付けているのはリィナだ。

パーティーの回復と防御力上昇を担っていたルーナの行動を束縛することで、パーティーを崩した。

もちろん、それはフェルアリードと戦うカインにも見えていた。


もう一人、いたことを忘れていた。

俺のミスだ。

最初、リィナはいなかった。

だが、警戒はしていたのだ。

戦いの中で忘れてしまっていた。


フェルアリードの無限魔力は限界だろうが、俺もギリギリだ。

リィナの登場とルーナの束縛で、そっちを見てしまう。

そこで、集中力が切れた。

隙を見つけたフェルアリードが呪文を紡ぐ。


“杖”の第1階位“ダークボール”


奴の手から放たれた低位の攻撃魔法はゆっくりと俺に向かってくる。

渾身の攻撃の直後で防御もできず、魔力も枯渇して呪文を唱えることもできない。


直撃。


闇色に視界が染まり、俺の意識は暗黒に落ちた。


低位魔法で呆気なく吹き飛ばされるカイン。

壁まで飛ばされ、受け身をとることなく激突。

崩れ落ちるようにずるずると床に座りこみ、動かなくなった。


「苦戦した。本当にギリギリだった。だが、敵の最強の戦士は倒れた」


フェルアリードの宣言にあちこちから、うめき声が漏れる。


「馬鹿な」


「僕が突撃をすすめたから、か」


「嘘だろ。俺を倒したんだぞ、奴は」


「私では、あやつの代わりにはなれんぞ」


束縛されたまま、ルーナは叫ぶ。

その人は、ルーナを信じてくれたから。

決して態度には出さなかったけれど、父のオシリスは私を嫌っていたかもしれない。


私と母はそっくりだったから。

兄であるホルスとは母が違う。

兄は気にしていないだろう。


だが、父は。

父と母の間にどんな確執があったのかは知らない。

母とともに行方をくらました妹が今何をしているかも知らない。


ルーナにとって家族とはその程度のものだ。

だから、結局のところルーナにとって生きる意味、戦う意味というのは存在しなかった。


だけど、彼は違った。

ルーナを一人の人間としてみていた。

ともに戦う仲間だと、信じてくれていた。

ルーナの張る結界に全てを委ねて戦うこと。


ルーナにとって戦う意味を与えてくれた人だから。


その名を叫ぶ。


「カイン」という名を。

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