砂の王国02
俺のことも少し話そう。
俺の名はカイン。
カイン・カウンターフレイム。
年は19。
髪の色は黒、瞳も黒だ。
背はやや高い。
職業は冒険者だ。
ウルファ大陸冒険者ギルドに登録している。
冒険者歴は四年。
受ける依頼は選り好みしないが、戦闘系の依頼を受けることが多い。
一応、魔道士の修行も積んでいてランクは第4階位「皇帝」だ。
といっても中原の士官学校を卒業すれば第3階位「女帝」のランクにはなれるからたいした魔道士じゃないが。
日が暮れる前に王都に着くことができた。
砂漠は砂漠だが、王都周辺には簡素ながらも街道が敷かれている。
セト王の治世に敷かれた道らしい。
市街に入り冒険者ギルドに向かう。
今回の仕事の報告と、報酬を手に入れるためだ。
石造りの家屋や土製の建物がほとんどのラーナイルの中でも珍しい木造の建物。
それが冒険者ギルドの支部だ。
屋内は薄暗い。
依頼の張られたボードだけが、ランプの灯りに照らされている。
「マスター、いるかい?」
俺の呼び掛けに「おう、ちょっと待ってろ」と答えがある。
冒険者ギルドラーナイル支部のマスターだ。
恰幅のいい四十前半の男で、冒険者ギルド本部から派遣された人間だ。
もともと彼も冒険者だったらしい。
プロヴィデンスにある本部で知り合った。
そのせいか、こっちでも便宜をはかってくれている。
「おう、待たせたな。で、何の用だ?」
「何の用だ、って依頼の報告だよ。例のサバクオオカミの件」
俺の答えにマスターはほんのわずか固まる。
「お前、あの依頼今朝だしたやつだぞ?」
「確か、そうだったな」
「3、4人のパーティーが依頼達成の目安だったんだが」
「そうか?動きをよく見て、足元に気を付ければ五分の勝負だったが」
「そうか・・・。ま、まあいい。とりあえずは依頼達成おめでとう。今、報酬を用意する」
「ん、助かる」
しばらく待つと、マスターは1000リグを手渡してくれた。
5000リグもあれば、1ヶ月は暮らしていけるのを考えると良い、いやむしろ高めだ。
そのことをマスターに言うと。
「3、4人向けの依頼だと言ったろ?人数でわったらそれなりさ。まあ、今回は気前のいい出資者がいたからな」
「そうなのか?」
「それはそうとしてだ。お前まだしばらくラーナイルにいるんだろ?大きめの依頼があるんだが、受けて見る気はないか?」
ここに来た目的はまだ果たしていない。
まだ、滞在はするつもりだ。
もう少し稼いでもいいかもしれない。
「いいぜ。詳細を聞かせてくれ」
するとマスターは申し訳なさそうに言った。
「悪いな。この依頼は四人パーティー指定なんだ。こっちでバランスいいパーティーを組んでおくから、全員揃ってから詳細を言わせてほしい」
「ずいぶん、念入りだな。まあ、ギルド通しての依頼だから心配はしてないけどな」
「すまないな。用意ができたら使いをよこす。それまでラーナイルを満喫してくれ」
マスターから1000リグを受け取り、俺はギルドの建物をでた。
外は薄暗くなりはじめ、遠くに夕焼けの残した赤い光が見える。
市街を歩けば、仕事帰りの人々が通りすぎていく。
その流れに逆行しながら城壁の外に出る。
昼間の商人街は、夜になると繁華街に姿を変える。
ここにもまた多くの人が集まり、はじまったばかりの夜を楽しんでいる。
今度は流れにのりながら、俺は泊まっている宿屋を目指す。
砂の眠り亭、という名の宿屋は一階が酒場になっている。
客のほとんどは冒険者だ。
市街に居住できるのはラーナイル国民だけ。
流れの冒険者は城壁の外で宿をとるのだ。
その一人である俺は、空いている席に座り飲み物と夕飯を頼む。
愛想のいい女性店員の笑顔に癒されつつ、出てきた麦酒を一気に喉に流し込む。
酒精が喉を焼く感覚を楽しみながら、出てきた料理をつまむ。
焼いたカワキブタの脂のうまさといったらないね。
しかし、こんなに楽しいのになんか知らんが戦場のようにピリピリした気を放ってる奴等がいる。
まわりの冒険者のやつらも、雰囲気に戸惑っている。
金髪で、渋い顔の30近い男。
やや汚れているが白い鎧を着け、そのうえからマントを羽織っている。
もう一人は、魔法使いに見える若い男だ。
銀の刺繍が入った青いローブ。
フードを目深にかぶり、その顔は見えない。
最後の一人は女性だ。
彼女もフードで顔が見えない。
だが、銀にも見えるブロンドの髪が出てる。
白いローブに灰色のマントだ。
そして俺はそいつらを完全に無視して、ラーナイルの夜を楽しんだのだった。