表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カインサーガ  作者: サトウロン
黒の王の章
199/410

振動編08

魔道士官学院は今、盛り上がっていた。

夏の風物詩ともいえる“学院戦闘祭”が始まろうとしていたからだ。

大庭園に設置された闘技場は、ルイラム山脈の硬い石を切り出して造られている。

凍えるような白さが特徴のこの石は、戦いの時を待ち受けている。


俺たち、αクラスチームは出場受付を終え、渡されたルールブックをながめていた。

まだ早朝にも関わらず、昇る朝日はガンガンと照りつけ、闘技場の周りもそれに負けず劣らず熱い。

確かに、これは祭りなのだ。


「で、カイン聞いてる?」


レイドックの声に、我にかえる。


「あ、ああ」


「ルール的には、ラグナ君が教えてくれたこととほぼ同じ」


「だが、いくつか注意点があるな」


ファイレムが、該当のページを開いた。


「なに?第13階位を超える魔法の使用は禁止?」


「うん、あまりに強力な魔法は制限されちゃうね」


「まあ、当然だろうな」


「それから、組み合わせも出てるね」


レイドックは別の用紙を取り出した。

いわゆるトーナメント表だ。

参加チームは42組と意外に多い。


「俺たちはどこだ?」


「ん、ちょっと待ってて」


レイドックの長い指がツツーっと用紙を滑る。

そして、俺たちの“αクラスチーム”を指した。


「Aブロック第一試合」


24チームごとにA、Bとブロックが別れていて、俺たちはそのAブロックだ。

そして、第一試合。

つまり、開会すぐの試合になる。


「組み合わせは意図的なものかな?」


ファイレムが、俺も思っていた疑問を口にした。


「たぶんね」


レイドックがあっさり首肯した。


「“ホープ”クラス、だからかな?」


俺は多少のムカつきとともにそう言った。

なぜか、レイドックは笑って答える。


「当たり前さ。皆、ぼくらの試合を見たがってる。そうじゃない?」


「考え方を変えるとそうなるな。どうだ、カイン。その線で行くか?」


まあ、皆に潰れてしまえと思われて試合するよりは、試合を見たがってると思って戦うほうがよほど精神的に優れている。

俺も考え方を切り替えて、戦いに望まねば。


「カイン、笑ってる」


「ああ、戦闘大好き人間だからな」


ぼそぼそと話している、ファイレムとレイドックの会話は俺には聞こえなかった。


そうこうしている内に、開会の鐘が鳴り響いた。


開会式では、久しぶりにアンシューラム魔道相が挨拶をした。

まあ、長いだけで中身のない話ではあったが。

七回のつまり、五回のであるからして、八回のすなわち、三回のこのように、そして実に十二回に及ぶかくしてを経て、アンシューラムの話は終わった。


「それでは、第一試合“ホープ”クラス所属“αクラスチーム”対“チャンス”クラス所属“マークウインド”、両チームは闘技場に残ってください」


司会の上級生が、音声拡大魔法を使いながら、声を張り上げる。


俺は、レイドック、ファイレムの顔を見て頷く。

二人も頷く。


「やるか」


「やろう」


「うむ」


さあっと波が引くように、選手たちは闘技場から去っていく。

残ったのは、俺たちと司会と、相手チーム。

チーム“マークウインド”。

ラグナ先生の事前調査では、オーソドックスなチーム構成の普通のチームだ。

魔法の属性が“風”に偏っているものの、“タンク”、“ヒール”、魔法“アタッカー”、物理“アタッカー”の各職が揃っている。

ラグナ先生コメントには、大変戦いやすい、力をはかるにはちょうどよい相手、と記されている。

上級生相手にずいぶんな書きようだと思う。

まあ、一瞥して俺もそう思った。

バランスは良いかもしれないが、なんというか決め手に欠けるような雰囲気。

腕試しには丁度いい。


“マークウインド”の面々は、ニヤニヤと笑っていた。

余裕の表情。

確かに、俺たちは“ホープ”で、そのうえ人数も三人だ。

相手からすれば、おいしい対戦相手に見えるのかもしれない。


「その認識を変えてやるのがとても楽しみだ、と言いたそうな顔をしているぞ。カイン」


ファイレムには読まれていたようだ。

だが、ファイレムこそ不敵な顔をしていた。


「お前もな」


「さあ、始まるよ。楽しくやろうね」


レイドックのやや場違いな明るい声。

何はともあれ、そこで試合が始まった。


まず駆け出すのは俺。

手にはすでに魔力で出来た盾を持っている。

そのまま、“マークウインド”の間合いまで突っ込む。

相手“タンク”は強襲してきた俺に驚き、動きを止めた。

そこを盾でグッと押す。

よろめいた“タンク”に、ファイレムが反応する。


「“符”の第4階位“グランドプレス”」


凝縮した魔力が、“タンク”の上で大きな石の形をとる。

反応できない“タンク”は降ってきた石に潰された。


「ちぃッ、よくも」


“マークウインド”の二人の“アタッカー”は、報復すべく動き出す。

一人が剣を振るい、もう一人が“ウインドカッター”の魔法を放つ。

抜群とは言えないが、まあまあのコンビネーションだ。

けれど、俺には効かない。


炎の王×××や、ミニオン、そして魔王×××××の攻撃をも耐え抜いた俺には!


なんだ?

今のは。

よくわからない単語が頭の中を流れていった。


「カイン、集中!!」


レイドックの大声で、我にかえる。

すぐ目の前まできていた剣を盾で防ぎ、風の魔法を気合いでかきけす。

強い意思で、低位の魔法を打ち消せるのは体験的に知っていた。

攻撃を止められた二人のアタッカーへ、俺の後方から黒い魔法の弾丸が飛んでいく。


「“杖”の第6階位“ダークバレッド”、二重奏」


レイドックの魔法だ。

同じ魔法の詠唱を重複させることで、二重に放つというよくわからないテクニックを使っている。

これが決まれば、一気に二人倒せるのだがそこまで甘くない。

瞬間的に展開された“ヒール”の結界魔法が“マークウインド”の二人の“アタッカー”を守る。

即席で展開されたため、結界は一撃で割れ砕けたが“アタッカー”の守護には成功している。

“ヒール”が曲者だな。

そう思いながらも、俺は動いていた。

盾を解除し、即座に剣を精製する。

腕を顔の前で組んで防御姿勢の二人の敵“アタッカー”。

ほとんど迷わずに魔法使いタイプの“アタッカー”へ切りつける。

死なないように手加減するのも難しいな。

大した抵抗も出来ずに魔法使いタイプ“アタッカー”は切られて倒れた。

“ヒール”は同時即効結界展開で動けない。


「“タンク”が攻撃!?」


物理タイプ“アタッカー”は驚き叫ぶ。

魔法使いタイプへの攻撃の流れで、物理タイプへ攻撃。

物理タイプはかろうじて防ぐ。

その時点で、相手の腕前が分かる。

素人以上熟練者未満。

つまり、俺の相手ではない。

何度か、刃を合わせて相手もそれを理解したようだ。

しかし、その時点でレイドックは“ダークバレッド”を、ファイレムは“グランドプレス”を放っていた。

黒い弾丸は物理タイプへ。

石の塊は“ヒール”の頭上へ。

それぞれ直撃。


俺との戦いに気を取られていた物理タイプは魔法で場外まで吹き飛ばされ、結界を張ったもののダメージを与えるものではない“グランドプレス”の魔法はそれをすり抜けら、“ヒール”は押し潰される。

そして、その時点で“マークウインド”は全員戦闘不能になった。


「勝負あり、勝者“αクラスチーム”」


息つく間もない攻防、あっという間の決着に観客からはため息しか出てこなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ