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カインサーガ  作者: サトウロン
黒の王の章
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振動編07

やがて第一期が終わり、夏期休暇に突入した。

そして、俺たちは来る日も来る日も訓練だった。

俺はラグナからみっちりと“タンク”としての戦い方を教えられたし、ファイレムは効果的な“デバフ”の発動イメージを突き詰めていた。

レイドックはアベルとともに、謎訓練をしていた。


向かい合って見つめ会う、ようにしか見えない二人に俺は言葉を失ってしまった。

ツツーっとアベルの額から汗が流れ落ちる。

それをぬぐいもせず、アベルは視線を逸らさない。

それは、レイドックも同じだ。

二人の近寄りがたい雰囲気を俺たちはただ見守ることしかできない。

やがて、二人同時に息を吐く。

そして、へたりこむように座った。


「うはあ、腕を上げたな、レイドック」


「アベルこそ、魔法のコンビネーションの連携速度上がってたよ」


「なあ、今のはなんだ?」


俺の問いに、レイドックは笑って答えた。


「これはね、いわゆるイメージトレーニングだよ」


「体を動かさず、魔力を同調させて戦うイメージを作る訓練だ」


アベルの説明に、俺は素直な気持ちを言葉にした。


「よくわからん」


「ふうん。じゃ、カインもやってみる?」


レイドックは、俺の目をじっと見る。


殺気を感じた。

俺の後方から、一直線に突進してくる塊。

このままだと俺は胴を貫かれてしまう。

ならば前へ。

踏み出そうとした。

そこで悪寒。

前からも微かに殺気。

このまま踏み出せば、前からの攻撃でやられる。

上に跳ぶ、いや上にも何かいる。

左右も。

おそらく下にも。

動けばやられる。

ではどうする?

防ぐしかない、と俺は判断した。

ほぼ自動的に、俺の魔力が鎧となり俺を包む。

はじめに後ろから。

そして、前、上、左、右、下。

その全てを耐えきり、鎧は粉々に砕けた。

俺は、六連もの魔法によって消耗しているだろう術者に、これも自動的に発動した黒い魔剣によって切りつけ……。


パン、と乾いた音がした。


「はい、そこまで」


アベルの声がやけに遠くから聞こえた。

そして、徐々に戻ってくる視界。

俺も、レイドックも一歩も動いていない。

さっきの戦いの痕跡は、どこにもなかった。


「今のは……」


「今のが僕らのイメージトレーニングだよ。それにしても、カイン凄いね。僕の魔法を全て受けきって、なおかつ必殺の反撃を繰り出そうとするなんてさ」


今のが、イメージだって?

まるで、本当に戦っていたようだった。

毎日、こんな訓練をしていれば第13階位に到達するのも当然だろう。

あらためて、レイドックの凄さを理解した。


やがて、ラグナは帰郷し、エレナも帝都の自宅に戻った。

アベルとイシュリムはサポートしてくれている。

そこへ。

ジョルジュがやってきた。


イシュリムの兄にして、風の守護者モルセエス家に嫡男。

春の事件では、イシュリムを心配したゆえに巻き込まれ怪我を負った。

まあ、今は回復して学業に励んでいるらしい。

そのジョルジュが、何の用なのか?


はじめに反応したのは、イシュリムだった。


「兄、上……?」


「息災のようだな、イシュリム。家には帰らないのか?父上が会いたがっていたぞ」


「俺は帰らない、いえ、帰りません」


「そうか。まあ、いい。今日は別の用件だ」


そこで、ジョルジュは俺の方を見た。


「カイン君。出来うるなら、学院戦闘祭は棄権したほうがいい」


「……なぜです?」


「私は、君に借りがある。命を救ってもらった大きな借りだ。だから、君の味方だと考えてくれていい。その上で、棄権をすすめている」


なるほど、ジョルジュの言葉には嘘は無いようだった。

彼は完全に善意で、俺に話してくれている。


「棄権をすすめる理由は?」


「まずは、“四征獣”の件。彼らは“ホープ”クラスで戦闘祭準優勝となったチームだ。その実力は“チャンス”クラスでも最強。君たちに勝ち目はない」


「言いづらいでしょうに、バシバシ言ってくれてありがとうございます」


「私だって、本当は言いたくないさ。そして、もう一つ。“四征獣”以前に“ホープ”クラスの出場チームで学院に残った者の割合は一割をきる」


「……?」


「言い換えよう。“ホープ”クラスで学院戦闘祭に出た者の十人に九人は学院を辞めている」


「己の実力が上級生に敵わないと知って、とか?」


「いや。学院戦闘祭で再起不能にされて、だ」


本当に、言い辛そうにジョルジュは言い切った。

学院戦闘祭は、お遊びだ、とラグナは言った。

ただし、命をかけて行う遊びだ、とも。

勝利を望むチームは、出場してきた初心者のチームを叩きのめすだろう。

徹底的に。

再起不能になるまで。

それは今の自分たちの勝利のみならず、力ある後進を潰し、未来の自分たちの就職にも影響してくる。

少しでも邪魔になるのなら排除しておきたい、という考え方だ。

もしくは、力の無い者が出場してきたら身の程を思い知らせてやろう、という人間も少なからずいる。

その二つの要因が重なり、“ホープ”クラスの出場者の再起不能という事態になるのだろう。

実のところ、“ホープ”クラスの出場チームが前年上位チームの推薦のみ、となった理由は上級生による“ホープ”クラスチーム潰しを防ぐためだったらしい。


そして、俺はジョルジュにこう答えた。


「俺たちを見くびらないでください」


と。

ジョルジュはその答えを予想していたように、頷く。


「まあ、そうだろうね」


「ジョルジュさんの気持ちは有りがたくいただきますから」


「そういってもらうと助かるよ。私の気持ち的には」


ジョルジュは去ろうとした。

そして、僅かに迷う。

やがて、意を決したように再度口を開く。


「やはり、言っておいたほうがいいか、と思って」


「何を、です?」


「“ロールチェンジ”で人数差をカバーする作戦は悪くない。属性も火土闇といった攻撃的なもので、なおかつ散らしてあるのも良い。だが、“四征獣”や“フェイト”クラスには、もう一つ切り札がないと勝ち目はないと私は思う。それだけだ」


今度こそ、ジョルジュは振り返らず去っていった。

それを見送って、俺はジョルジュの言葉を反芻する。

言われていたのは、ラグナに指摘されたこととほぼ一緒だ。

“スタンスフィア”まで読まれているとは思えないが、おそらくそれ以上の切り札が必要となるはずだ。


俺たちは、連携の精度の向上と切り札の開発に重点をおいて、訓練にいそしんだ。

夏期休暇も半ばを過ぎ、暑さがウルファ大陸を覆う。

汗だくになりながらも、一応の目処がついたのは学院戦闘祭の三日前だった。


「なんとか間に合ったな」


「間に合ったと言うか」


「無理矢理間に合わせた感じだが」


それぞれ日焼けした俺たちは、苦笑しながらもガッシリ手を握った。


「まあそれでも、これが成功すれば勝てる」


俺の声に、二人は頷いた。

これで学院戦闘祭の準備は整った。

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