振動編04
チームバトルの役割は、ラグナが教えてくれることになった。
何気にクラスの知恵袋として、活躍しているラグナだった。
「学院戦闘祭は、まあひらたく言えばお遊びだ。だが、そのルールやテクニックは実際に戦場に出ても役に立つ場合がある。覚えて損はないはずだ」
「ラグナ先生、どうしてそんなに詳しいんですか?」
俺の質問に、ラグナは口をへの字に曲げて答えた。
「からかうなよ。まあ、もともと学院戦闘祭のファンだったから、としか言いようがないな。私の故郷は、娯楽があまりなくてな。年に一度の帝立魔道士官学院の学院戦闘祭の生中継が、楽しみだった」
照れながら説明するラグナ。
彼の、意外なというか、らしい一面を見た気がした。
そして、そこからラグナ先生の学院戦闘祭講座が始まった。
「まず、チームバトルには役割があり、それを適宜に割り振ることがチーム強化の第一歩となる」
まずは、相手の攻撃を受け止め、味方の損害を軽減する壁役“タンク”。
次に、相手にダメージを与える攻撃役“アタッカー”。
そして、味方を強化する“バフ”。
反対に相手を弱体化する“デバフ”。
それから、味方のダメージを治療する“ヒール”。
この五種類が主な役目だ。
最初に、ラグナは“タンク”の説明をはじめた。
“タンク”はチームの防衛の要であり、ここを突破されることは敗北へ一気に近付くことになる。
城壁の無い城など存在せず、城門を抜かれたならば落城も同然と考えれば“タンク”の重要性はわかるだろう。
メンバーのビルドとしては、盾装備の重戦士型と軽装の“杯”魔法使い型が考えられる。
それぞれのメリット、デメリットとして重戦士型は装備及びテクニックでの防御をするため、魔法の自由度が高い。
守りながら、“剣”魔法で味方を強化したり、“符”魔法で相手を弱体化できる。
もちろん、“杯”魔法で結界を張ったり、治癒魔法を使うなんてのも可能だ。
だが、装備の重量による移動力、俊敏さの低下、自由度の高い魔法を使うことによって防御率の低下などが考えられる。
“杯”魔法使い型はまったく逆で、魔法による結界のため、移動力、俊敏さは保持できる。
しかし、魔法が“杯”に制限されるため、手数が少なく、こちらが押している時は手持ちぶさたになりかねない。
また、魔力が尽きた時にはただの的になってしまう。
これは、その他の魔法使い型ビルドに共通のデメリットだ。
続いて、ラグナ先生が説明したのは“アタッカー”だ。
チームの攻撃の要。
最低限“アタッカー”さえいれば、戦闘態勢は整う。
本当に最低限の場合だが。
“アタッカー”は大雑把に三種類のビルドがある。
近接、遠距離、そして魔法だ。
あるいは、戦士と弓兵と魔法使いと言い換えることができる。
ひとつ目の近接は、手に武器を持ち、あるいは素手で戦う。
もちろん、強化魔法、弱体魔法を併用する。
脳まで筋肉でできているような肉体派にとっては、防御なにそれおいしいの状態になるほどの基本的な戦闘方法である。
二つ目の遠距離の場合は、武器にエンチャントをすることが多い。
元々、強力な武器である弓矢や弩の命中率をあげたり、ステータス異常の追加効果を与えるなどだ。
この場合は、近接アタッカーのサポートにまわることが多く、遠距離攻撃がメインアタッカーになることは少ない。
少なくとも、この世界では。
そして、三つ目の純魔法使いはド派手な魔法で戦場を彩っていくことに長けている。
中遠距離から、さまざまな属性の魔法を叩き込む。
低位の魔法を高速で撃ち込んだり、強力な高位魔法をここぞというタイミングで放ったりなど、頭を使った戦闘が要求される。
「先生、近距離魔法使いタイプはないんですか?」
「ない、わけではないがメリットがあまりにも少ない。魔法の優位点である距離をとった攻撃が無駄になるわけだしな」
「なるほど」
しかし、魔法の三要素である威力、時間、コストに照らし合わせれば、高威力、瞬間発動、中コストなんて魔法を使って近接型魔法使いというのも成立するのではなかろうか、と俺は考えたが、そこまで考えるのなら物理で殴ったほうが早いことに気付いた。
ラグナ先生は話を続ける。
ここからは、サポート職の話になる。
いなくても戦闘はできるが、いたほうが有利という職だ。
まずは“ヒール”だ。
魔法のタイプから言うと必然的に“杯”の魔法使いがチームの回復を担当することになる。
と、同時に“杯”の結界魔法を併用し、サブ“タンク”になることも多い。
しかし、“タンク”を併用している暇もない“ヒール”も多いとも聞く。
敵の行動を予測し、魔法を放つタイムラグも計算に入れ、治癒魔法を放つ。
チームが一人戦闘不能になれば、チームの総合力は大きく下がる。
それを防止するのが、“ヒール”の役目だ。
そう言う意味では“タンク”と“ヒール”は表裏一体の存在であると言える。
その次は“バフ”だ。
チームを強化する、のが役目だ。
基本的に、強力魔法は成功率が高い。
というか、弱体魔法の成功率が低いとも言える。
魔法の発動の妨害をするのにどちらが楽にできるか、という問題だ。
あらゆる魔法を妨害するという“パーミッション”という考え方の“デバフ”ビルドもあるにはあるが、それしかできない、という命題を抱えている。
そんな専門的なビルドが無い限り、“バフ”は確実にかかる。
であれば、その時のチームが何を必要としているかを判断し、適切な強化魔法をかけることが“バフ”の役目となる。
相手の攻撃が強力過ぎて、“ヒール”が“タンク”の回復に精一杯なんて時には“プロテクション”などの防御力上昇魔法をかける、などだ。
攻撃力上昇さえかければいい、なんていう人もいるが、それだけではすまないと理解しておくべきだろう。
最後は“デバフ”。
相手を弱体化するのが仕事だ。
“バフ”の時に説明したように、弱体魔法の成功率は低い。
相手の妨害魔法の存在もさることながら、ある程度の使い手は精神力で弱体魔法を打ち消してしまうことがあるからだ。
しかし、その分弱体魔法がきまったときの戦力差の増減は大きなものとなる。
単純なステータス低下、バッドステータス付与、行動停止など、食らっただけで敗北レベルの魔法がゴロゴロしている。
適切なタイミングで、弱体魔法を撃てるように“デバフ”は戦闘を見ていなければならない。
それどころか、戦闘をコントロールしなければ勝率は下がる一方だろう。
どの職を選んだところで、大事なことは二つしかない。
適切なタイミングで適切な手を打つこと。
そして、仲間を信頼すること、だ。
と、ラグナは説明を終えた。
そして、俺たちの方を見て言った。
「まあ、お前たちはそれ以前の問題だけどな」
失礼な台詞だったが、ラグナの苦笑いと俺たちのチームの状況を鑑みると反論はできなかった。
説明文だけになってしまいましたが、これがこの小説の戦闘に対するスタンスです。
MMORPGによくあるようなクラスロールですが、私個人の考え方でしたので、ここが違う、あれが違うなどは大目に見ていただきたいです。