砂の王国19
折れそうになる心と体を奮い起たせ、俺たちは再度フォーメーションを組む。
けれど。
カリバーンは鎧も壊れ、手にした両手剣でなんとか防いでいる状態。
アベルは、高威力の呪文を紡ぐ集中力がきれたらしく、回転の早い低位呪文を放っている。
ルーナは、さきほどからの戦闘で限界が近い。
俺はまだ戦える、がもう一度無限魔力を引き出せば気絶する予感はある。
戦えているのが、すでに奇跡だった。
巨人を復活させたのは、薄い笑いを顔に張り付けた男、フェルアリードだった。
奴も持っている無限魔力で十階位の高位呪文を連発してくる。
瀕死の巨人も修復呪文で全快させるし、嫌なところに結界を張ってくる。
十二階位の魔法使いの恐ろしさが身に染みた。
「一か八か、リーダーがフェルアリードを倒すってのはどうでしょう?」
わずかな余裕に、アベルが提案してきた。
「それしかない、けれど」
パーティーから一人でも抜ければ戦線は崩壊する。
それしかない。
「このままじゃ、全員死にます」
「私はリーダーに委ねる」
巧みな剣さばきで、巨人の攻撃をいなすカリバーンの期待も俺にかかってきた。
「私はあなたを信じます」
真っ青な顔で、それでもルーナは笑顔で言った。
「行け、カイン。ここは俺が支えてやる」
「私の父だ。私に止めさせてくれ」
戦闘の真っ只中に飛び込んできた二つの影。
俺に倒されたアルフレッドと、ホルスだ。
二人の事情や意思を詮索している暇はなかった。
仲間たちの思いを受けて、俺は駆けだした。
「フェルアリード!!」
俺の声に灰色は、薄い笑いで答える。
こうなることを予想していた顔。
虫酸が走る。
駆けた勢いのまま、剣を叩きつけるように振る。
黒い結界が剣を弾くが、左に回り込むように走り反動をいなす。
ついでに結界の反撃も回避。
回り込んだ勢いを活かし、ニ撃目ッ!
黒い結界の端に引っかかる。
凄まじい強度の結界だが、守れる範囲には限界があるはずと信じ、移動と攻撃を繰り返す。
やがて、俺は気付いた。
フェルアリードは魔法技術については雲の上だが、戦闘技術は素人だ。
だから、結界に頼る。
そして、本気をだした冒険者の移動についていけない。
そもそも、“杯”の呪文自体が攻撃には向いていない。
治療や結界は得意だが、直接攻撃はもちろんダメージを与える呪文すらない。
だからこそ、ルーナのように魔力武器をメインに魔法をサポートにする。
派手な結界と無限魔力で惑わされていたが、こいつは戦う者じゃない。
なら、いけるか?
繰り返される攻撃に苛立ち始めたフェルアリードは、ついに動いた。
莫大な魔力を引きだし、詠唱破棄からの“ダークアームシールド”を展開する。
「いつまでも、うろうろされると困るのだよ。おとなしく巨人の餌になっていたまえ」
反撃を待つ黒い結界を自身の周囲に球状に展開し、フェルアリードは笑みを戻す。
しかし、奴も焦っているはずだ。
巨人がいくら強くても俺たちが力を合わせれば倒すことができる。
パーティーも弱っているが、壁が一枚増え、俺が抜けた穴もホルスが埋めた。
大きなミスさえなければ勝てる、はずだ。
それはフェルアリードもわかっているだろう。
自分のサポートがなければ、巨人はいずれ倒れる。
そこでこの全方位結界だ。
俺の攻撃を封じ、魔力を消耗させる。
俺という邪魔者がいなくなれば、巨人を回復させて蹴散らすだけだ。
それを防ぐためにも、俺は再度攻撃を始める。
無敵に見えるあの全方位結界も弱点はある。
それは、異常なほどの魔力消費だ。
維持するためにも普通の結界を一度張るくらいの消費があり、そのうえダメージを受けるとその補修のためにさらに魔力を食う。
奴はそれを無限魔力で賄っているが、しかし無限魔力にだってデメリットはあるのだ。
魔力の量とは別に、精神的な限界は存在する。
俺が1日に二度、無限魔力を引き出して倒れたように。
フェルアリードは今日、高位な呪文を連発した。
精神的に限界が来てもおかしくない。
それを確かめるためにも攻撃の手は緩めない。
攻撃一発で、何度も襲ってくる反撃の黒い手をかわし、空いた箇所を攻撃。
その攻撃にも黒い手が反撃してくる。
それもかわし、さらに一撃。
反撃、回避、攻撃。
反撃、回避、攻撃。
反撃、回避、攻撃。
集中力が高まっているのを感じる。
それに反撃のパターンもわかってきた。
攻撃を受けた場所の周囲20センチメルトに黒い手が発生し、5セカンダリ持続する。
つまり、攻撃したら20センチメルト離れ、5つ数える間近づかない、だけで回避できる。
やがて結界にヒビが入りはじめる。
攻撃後、20センチメルト離れ、ダッシュからの最後の一撃。
ガラスが割れるように、黒い結界が粉々に砕け散った。
だが、青白くなった顔のフェルアリードには笑み。
そして、声を出す。
「今だ」と。




