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カインサーガ  作者: サトウロン
黒の王の章
189/410

始動編10

「コレルファンを利用したのもあんたか!?」


黒い魔剣を振りながら、俺は尋ねた。

監禁されていたはずの、コレルファンの解放と暴走。

その手引きをした奴がいるはずだった。


「同じ学院の生徒を傷つけた。いかなる理由があろうとも、それは“悪”だ。“悪”人が“悪”人を狩ることに遠慮はいらないとは思わないか?」


ルアーは杖を器用に操りながら、俺の剣を受け流す。

強い。

先ほどから思っていたが、こいつは強い。

俺の、戦いに対する飢えが満たされるくらいに。

失った記憶の中に、この飢餓の原因があるのだろうか。

戦いたい。

強い相手と、命を削りあうほど。

ルアーは、合格だ。


受け流された剣を、蹴り飛ばして軌道を修正。

蹴りの勢いのまま、杖の隙を狙う。

ルアーは、わずかに驚いたようだったがその剣撃に対応し、杖で防ぐ。

防がれるように、剣を振るう。

一度ならず、二度、三度と、ルアーの隙を狙うような攻撃を繰り出す。

ルアーが無理をすれば、防げる程度の攻撃を。


もちろん、ルアーは杖の打撃と魔法を併用している。

しかし、俺の息をつかせない連撃によって、低位の魔法か、詠唱を破棄した魔法しか使えない。

長い詠唱や、集中力を必要とする高威力の魔法は封じている。

如何に強力な魔導師とて、壁がなければその実力を発揮できないのだ。


魔法を使えないまま、ルアーは押されている。

しかし、その顔から笑みは消えない。

彼には、攻撃を全て防いでいるという自負がある。

決定打が打てないなら、ルアーにも勝ち目はある。


というふうに、俺は思わせていた。


狙いすました一撃。

それは、ルアーの左、俺にとって右から襲いかかる。

黒い魔剣は、漆黒の軌跡を残してルアーに迫る。

ギリギリで、ルアーの杖が間に合う。


「君の攻撃は、全て防げる。無駄なのだよ、カイン君」


「魔剣解除」


ふっ、と俺の手から魔剣が消える。

ゆらめく残像を残して。


「な、に、を?」


ルアーの怪訝そうな声を押し退けるように、俺は次の一手を打つ。


「来い、魔剣よ!」


と、同時に筋力強化魔法。

俺の手に再び、黒い魔剣が生成される。

俺はそれを強く握り、強化された筋肉が軋むほど強く振った。

無理して防御したルアーは、俺の奇手に対応できない。

魔法、防御、回避。

その全てを無効化した俺の一撃は、ルアーの左腕を切断し、胴体まで到達した。

ぼとり、とルアーの左腕が地面に落ち、ビクッと痙攣して動かなくなる。

左腕の切断面と、胴体から滝のように血が流れ落ち、ルアーの足元に溜まっていく。

ゴポッと、ルアーの口から泡とともに血が溢れる。


「魔剣……き、みの力を見誤っていた……」


「終わりだ。ルアー」


「……だから、もう少し本気で相手をしよう」


「!?」


ルアーは血まみれの口で、ニヤリと笑った。


「“杯”の第13階位“ナインライブズ”」


魔法の詠唱自体は、攻撃を受けながらやっていたのだろう。

ルアーは発動タイミングを待っていた。

俺が必殺の一撃を放ち、攻撃の手を止めるのを。

俺が、あまりにも見事な一撃を放ったせいで想定以上のダメージを受けてしまったのを“見誤っていた”と言ったのだ。

放たれた“ナインライブズ”の魔法は、猫の鳴き声のような干渉音をたてながら、効果を現していく。

ルアーは、ズブズブと自身の血の池に沈んでいった。

その顔には、壮絶な笑み。

全身が沈みきると、一瞬沈黙が訪れた。


コレルファンのおこしたスケルトンの喧騒も。

俺の放った魔法の焼け焦げも。

ルアーと俺との戦いも、全てなかったかのような静謐。


それは、錯覚だったのだけれども。


ずぶん!!と血の池から腕が生えた。

それは、池から伸びていき、地面に手のひらをつく。

腕の筋肉に力がこもるのがわかった。

その腕が、そこに続く肉体を血の池から引きずりだす。

肩が、胸が、腹が、首が、頭が、顔が、頭髪が、下腹部が、局部が、太股が、膝が、脛が、足が、ずるりと血の池から出てきた。

その肉体には傷ひとつない。

ルアーは完全に復活したのだ。


「蘇生魔法、か」


俺は、声を絞り出す。

死者蘇生の魔法は、見つかっていないはずだった。

だから、可能性の外に置いていた。


「いや、そんな大層なものじゃないよ。死者蘇生の三歩ほど手前の魔法さ」


ルアーはゴキリと首をならした。

そして、血の池の外に落ちていた自身の服を拾いまとう。


「死者蘇生の三歩前?」


「そう。完全に死ぬ前なら、体力を全快させ、傷を癒した状態で復活できるだけの魔法。“杯”の治癒魔法のグレードアップバージョン、とでも言おうかな。一応、私のオリジナル、“ソウルユージング”だよ」


なぜか、“ソウルユージング”という言葉が、“魂の使い方”と訳されて理解された。


「未公開のオリジナル魔法か。通りで聞いたことがないわけだ」


「まあ、そう言わないでくれ。こういうことをしているとね、君みたいな身の程知らずに強い奴がいるものでね。そう言う相手への保険さ」


ルアーは、落ちていた自身の左腕を拾い血の池へ投げた。

元の左腕は、赤いぬるりとした池に沈んでいく。


「その池が、お前の魔法の元だな?」


「その通り。だけど、この池を消そうだなんて思わないでくれよ?池のように見えているだけで、実際は魔力を集めて、調整する魔力場だから、魔法の影響は受けないよ」


説明を聞くまでもなく、俺の放った低位の“杖”魔法の“ファイアボール”は、血の池にまったく影響を与えず、消失した。


「そのようだな」


「というわけで、だ。君は、一撃で私を絶命させなければ、私を倒すことはできない。出来なければ、大人しく殺られてくれ」


「いやだ」


答えと同時に、斬りかかる。


「聞き分けのないことだ」


ルアーは、ひらりと跳躍し黒い魔剣を避ける。

そのまま、大きく俺から離れ地面に降りる。


「お前!?」


そこには、気絶したままのイシュリムがいた。

ルアーは、その頭部に杖の先端を当てていた。

これ以上、力を込めれば頭蓋が割れ、脳を貫通するギリギリの強さで。


「君は確かに強い。だからこそ、“ナインライブズ”も、使った。だからこそ、一対一で戦うのは疲れる。そこで、こいつだ。私にとっては“悪”人の一人だが、君にとっては大切な仲間、なんだろう?彼がどうなってもいいのかな?」


「卑怯な真似を」


「卑怯?それは“悪”人の言葉だね。私のような“正義”を成すものにとってはこれは“効果的な手法”と言うんだ。さあ、彼の命が惜しければ武器を閉まって、手を前に出し、私の前に来るがいい。大人しくしていれば、無駄な苦痛は与えないから」


嘘は、言っていなかった。

それぐらいはわかる。

ただ、俺が殺られれば、イシュリムもきっと殺られる。

まったく、意味の無い取引だ。

しかし、本気のルアーはイシュリムを殺す気まんまんだ。


どうする?

俺が投降しても、抵抗してもイシュリムは死ぬ。

一撃で倒しきれないと、ルアーは復活する。


どうする?


わかっている。

抵抗するしかないのだ。

しかし、イシュリムが、一度でも関わった人間が死ぬことにまだ、俺は覚悟が出来ていない。


どうする?

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