表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カインサーガ  作者: サトウロン
黒の王の章
187/410

始動編08

白いカルシウムの雨が降る。


一般的には、骨、と呼ばれるカルシウムの塊が降る。

その先端は、鋭く尖り地面にガシガシと突き刺さっていく。

そのうちの一本が俺を狙っていた。


「本当だったんだな、レイドックの言っていたこと」


軽く魔力を込めた腕の一振りで、骨の槍を砕く。

乾燥しきったそれは、焼き菓子を割るようにパキリと音をたてて粉々になる。

俺の魔力が干渉して、骨の魔法を減衰させているのだ。

軽く魔力を込めただけで、魔法のていをなさなくなるほどの力量差。

つまり、この襲撃者は俺よりも弱い。

とはいえ、何本も降り注ぐ骨の槍を相手にするのはいささか面倒だった。

そのうえ、何本かのうち一本が異常に硬くなっていて生半可な魔力の込め方だと怪我をしかねない。

その硬い骨の槍が、俺に降ってくる。


「カイン君、危ない!」


不意に聞こえた声に、思わず俺の動きが止まった。

聞き覚えのある声に、そちらを向いてしまう。


「あんたは!」


「話は後だ」


その声の主は、俺の腕を掴み駆け出す。

ふと見ると、声の主はイシュリムを抱えていた。

その状態で全力疾走しているのだ。

ただ者ではない。


俺たちは、なんとか骨の槍の雨をまいて校舎の裏側の人気のない花壇の側にいた。

全力疾走のせいで、俺は肩で息をしていた。

ただ、そんなことよりも俺達をここに連れてきた男に説明を求めた。


「なぜ、あんたがここにいる。ルアー」


知り合いの衛士ルアーは、ニコリと笑って俺を見た。


「知っているかい?例の事件のことを」


「潰されたグループのリーダー達が殺されている事件のことか?」


「そうだ。そして、この学院には条件に当てはまる人物がいた」


「俺と、イシュリム、か」


ルアーは頷いた。


「君のことも心配だったし、私はここの卒業生だしね」


「そうなんだ」


「そして、訪れてみれば案の定、大変なことになっていたわけだ」


「そいつは……イシュリムはどうしたんだ」


「彼もまた、ドラゴンウインドの元リーダー。君ほどではないがマークしていた。ここにたどり着いた時、彼は骨の雨に襲われ倒れていた」


それを私が助けた、というわけさ、とルアーは言った。


「骨の、雨か」


「何か気になるのかい?」


「骨を操る魔法使いを見たことがある。この……学院で」


「本当かい?」


ルアーのその声に、俺は違和感を覚えた。

本気で、事件の犯人らしき人物のことを知りたがっているように見えない。

まるで、そいつのことを既に知っているかのように。


「……入校式で傷害事件を起こして捕まっていたはずの生徒、コレルファン・ゴントラシーム」


俺が名を呼んだのを聞きつけたかのように、校舎裏に黒い影がさした。


「みぃつけた」


影は人骨の形をしていた。

夕暮れの校舎裏で、出来の悪い怪談のような光景。

隙間だらけの髑髏がカタカタと笑いながら、声を発した。


「見つかった」


コレルファンの操る骨、いわゆるスケルトンだ。

スケルトンは自身の肋骨をボキリと折る。

それを投げた。

先端の尖った骨の槍は、俺達を狙ってくる。

あれが、先程までの骨の雨の正体。

肋骨は普通、12対24本。

つまり、一体のスケルトンから24本の骨の雨が降り注ぐ。

ボキリボキリと骨を折って投げつけるスケルトンが、次から次へと現れる。


「逃げよう、カイン君」


ルアーが焦る。


「いや、どうせまた見つかって、骨の雨に襲われるって。それなら、ここで迎え撃つ」


現役の衛士が居れば、まだマシだろ?と俺は続けた。

ルアーは目をパチクリさせて、そして苦笑した。


「やれやれ、君といると退屈しないね。それで、勝算はあるのかい?」


「勝算というか。スケルトン自身のレベルは低いと思う。ちょっと魔力を込めた腕の一振りで砕ける程度。近付けばどうにかなるはず」


「……と思う。……はず、か。指揮官としては三流のセリフだね」


「……だな」


俺も、自分の自信の無さに苦笑いするしかない。


「他に何かあるかい?」


「生徒に被害が出るくらいの騒ぎだ。そろそろ教授達が気付く。高位魔導師が出てくれば、そこで終わりだ。俺達はそれまで耐えしのげば勝ち」


「わかった。そういうことにしよう」


ルアーは魔力が込められたとおぼしき、2メルトほどの長さの杖を取り出す。

その杖をグルグルと回転させ、ビシッと止めて構える。


「あんたも、ただ者じゃないな」


武術の達人、とまではいかなくても充分に熟練者の域に達している、と思う。


「衛士は、衛兵の上位職。このくらいのことはできるさ」


へえ、そうなんだ。

衛兵の上位職が衛士なんだ。

一つ勉強になったな。


「頼りにするぜ」


「頼りにしてくれ」


俺とルアーは、そこで駆け出した。

丁度、俺達のいた場所に骨の雨が降り注ぎ、ガシガシと地面に突き刺さる。

俺達の高速移動に、スケルトンは対応できない。

レベルの低いスケルトンは、言われた通りのことしかできない。

こいつらは、肋骨折って投げるだけだ。

単体の脅威度は低い。

問題は、数が多いだけ。

校舎裏は、既に満席。

おそらく、見えないところにも、たくさん。

低位のスケルトン召喚魔法を、超多重展開したのだ。


「コレルファンも、なかなかやる」


俺の手には、黒い魔剣。

特に詠唱をしなくても、思うだけで呼び出せる。

便利な剣だ。

ラグナなんかは、それお前の固有魔法じゃないのか?とか言っていた。

その剣が、スケルトンを両断する。

両断した勢いで、次のスケルトンをぶったぎる。

片手で剣を握り、振り回すだけで三体ほど粉砕できる。

空いた手に魔力を込めて、振り回す。

それでも、二体くらいは潰れる。

一回の行動で五体は倒している計算なんだが。

骸骨満席状態は変化なし、だ。

ルアーはと言えば、杖を器用に振り回し自分の周囲のスケルトンを確実に処理していく。

けれども、スケルトンは減らない。

低位のスケルトン故に、召喚するのにもコストがかからない。

おそらく詠唱も破棄している。

コレルファンはただただ、スケルトンを呼び出し続けているだけなのだ。

その召喚速度が、俺たちの処理速度を上回っている。


「どうするカイン君?」


顔色を変えずにルアーは声をかけてきた。

ルアーにもわかっている。

教授たちが来る前に、俺達はスケルトンの海に飲み込まれる。

けど。

俺が発した言葉は違ったものだった。


「楽しくないな」


精神が削れるほど、ギリギリの戦いを求めている。

こんな消耗戦じゃ、なんにも楽しくない。

戦いをなんとか、こちらのやり方に引き寄せたい。

俺は、その一手を打つ。


「カイン君?」


「“杖”の第6階位“フレアゾーン”」


俺の魔剣に、炎が集まる。

というよりは、全てを吸い込むような闇が凝縮して、圧縮された闇が炎に転じたような。

俺は、その熱を感じながら剣を振るった。

剣先から放たれた炎は、スケルトンの群れの中心に着弾する。

そして、炎は骸骨の海を焼き尽くす。


俺は、左目に熱を感じていた。

目が燃える。


俺の左目は真っ赤に輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ