表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
179/410

魔王編20

その魔法の水の塊が直撃し、俺は全身に引き裂かれるような痛みを感じた。

レーヴァテインはラグナの力ごと消え失せ、その中の魂の魔剣は解除され、ロンダフの剣だけが無事なまま残った。

俺は後方に吹き飛ばされ、なんとか受け身をとって立ち上がる。

微弱回復魔法がじんわり効いてきて、痛みが緩和されていく。


「化け物だな」


俺の気持ちを代弁したかのような声。

聖剣を構えたままのカリバーンだ。

今、この瞬間も魔王からの攻撃を防御している。

立てるほどには、痛みは薄れた。

俺は立ち上がりつつ、希望の言葉を吐く。


「だが、まだ勝ち目はある」


「なに?」


「奴の炎の魔法……俺のレーヴァテインは突破できていた。だから、慌てて炎の反対属性の水を出してきた」


「単体の力量なら、魔王を超える、か?我らがリーダーもなかなか言うようになったな」


カリバーンは笑った。


「俺だけ、じゃない。俺たちの力を全て束ねて、魔王に挑む。そうすりゃーー勝てる」


「いいじゃない。全員の力を合わせてやろうよ」


アズが立ち上がった。

他の面々も、集まってくる。

全員の顔に絶望の色はない。


「カリバーンとフェルアリードに壁を頼む」


カリバーンは聖剣を掲げ、フェルアリードは薄く笑って頷く。


「アズとグウェンは魔王の妨害だ。何かをやって気をそらすだけでもいい」


アズは任しとけ、と笑い、グウェンは頷く。


「アベル、ベスパーラ、レルランは後方からでっかい魔法を頼むぞ。だが、無理するな」


アベルは杖を掲げ、ベスパーラは笑う、レルランは固い表情で頷く。


「シュラ、モルドレットは俺と共に直接殴りにいく」


シュラは御意のままに、と答え、モルドレットは拳をあげた。


どうやら、魔王は待っていてくれたようだ。

律儀なのか。

目覚めたばかりで動きたくないのか。


「そろそろ、決めたか。お前たちの散り様を」


「抜かせ」


再度、レーヴァテインを展開。

深紅の刃が出現。

ラグナはまだ力を貸してくれている。


「では、余のほうから行くぞ。“混沌”なれ、全てを吹き飛ばせ“ヴァーユ”」


魔王の手から突風が巻き起こる。


しかし、恐れずにカリバーンは魔法に突っ込む。


「うおおおお!エクスカリバー!」


雄叫びとともに聖剣が輝き、魔法の風を食い止める。


「ウェブガーディアン」


「アザゼル」


アズとグウェンが己の最大の手段で、魔王を撹乱する。

魔王はそれを煩わしそうに払う。

ほんのわずか、意識がそちらへ向かう。

そこへ。


「トールハンマー」


「ユルルングル」


「ガンガーダラ」


三つの極大魔法が、上、左、右と三方向から魔王に迫る。


「健気だな、“混沌”なれ、全てを穿て“インドラ”」


極大魔法に応じるべく、魔王は更に魔法を放つ。

放たれた稲妻は、こっちの魔法を掻き消し、さらに俺たちに大ダメージを与える、はずだった。


「“杯”の第13階位“クロキイワト”」


フェルアリードが展開した漆黒の結界は、魔王の“インドラ”を食い止め、俺たちへのダメージと魔法の立ち消えを防ぐ。

結界はその一撃で砕け散ったが、フェルアリードは役目を完全に果たした。

薄く笑う。

止められなかったアベル達の魔法は、魔王に直撃する。

そこが、俺たちの攻撃機会だ。

俺は駆ける。

飛ぶように。

シュラも、モルドレットもついてくる。

マハデヴァ・ラージャを斬ったときのように、超越者の領域へ。

アレスを斬ったときのように、全身の駆動を完全にコントロールする。

そして、俺の今出来る最大最強の一撃。


「レーヴァテイン・ラグナロク」


シュラの槍と、モルドレットの斧、俺の剣。

それらが全て魔王に直撃した。


電撃と水と炎が炸裂し、魔王を中心に大爆発が起こる。

ミニオンでも瀕死の重症となるであろう攻撃だった。

魔王がいたあたりはもうもうと噴煙と水蒸気が立ち込め、何も見えない。

鼓膜が麻痺したか、あたりは沈黙に満ちていた。


「やった、か?」


モルドレットの問い。

応えは顔面を掴まれることで答えられた。


「魔を支配する邪神ガタノトーアの力か。ぬるい」


モルドレットは投げ飛ばされる。

壁にめり込むほどの力で。


「魔王……だな、まさしく」


水蒸気が晴れた時、魔王は立っていた。

無傷で。

服すらも、元のままで。


「粛水の女神レフィアラター、黒の魔力炉、ヤクシ族、北方大陸の魔女、魔力制御装置、魔族、余の力の残滓、カインにアベル、よくも集めたものだが、余には通じぬ」


「無傷、とはな……」


フェルアリードが流石に、消沈した声で呟く。


「しかし、ラグナの力を借りたとはいえ、やはりお前の力は危険だ。故にカイン、お前は永遠に葬り去る」


魔王レイドックは、どこからか杖を取り出す。

未知の金属の柄、杖の頭部は三叉にわかれ、それを支えに三日月の形の透明な鉱物が座している。

それを床につく。

澄んだ音が鳴る。

そして、魔王は短いながらも強い言葉で魔法を詠唱した。


「“混沌”なれ、全てを闇に帰し、破壊せしめよ“シヴァ”」


杖から放たれた、七色の光が俺に向かってくる。


「避けてください、カイン!」


アベルの声がする。


「エクスカリバーが!?」


カリバーンの焦る声。


「私では止められない!」


ベスパーラ。


「主ッ!!」


シュラが叫ぶ。


「かあさま」


祈るような声はグウェンだ。


「なんだこの魔法は?」


レルランが呟く。


「止められない、か。すまないな、カイン」


フェルアリードが謝った。

珍しいこともある。


けれど、俺だってただやられるわけにはいかない。

跳躍し、回避する。


「……!?」


飛び上がろうとした俺の動きは、止められた。

何かに掴まれているような感覚。


「……お前だけは、生かしておくものか」


マハデヴァだった。

上半身だけになり、顔色も青ざめるというよりは真っ白になっている。

それでも、俺を掴む手は異常に強い。


「お前も死ぬぞ」


「もう、手遅れなんだよ。僕は死ぬ。だったら、お前も道連れだ」


既に覚悟を決めた顔だった。

なるほど、ラオルが言っていた。

マハデヴァに気を付けろ、と。

こういうことだったのか。

妙に余計なことを考えている間に、視界は七色に染まっていた。


「……しょうがない、か」


そして、虹色の光が、俺に直撃したーーーーー。



光はカインに当たったあと、七色の光線となって爆散する。

赤、青、白、緑、紫、橙、黄。

七色の光は荒れ狂うように部屋中を駆け巡った。

そして、光の氾濫が収まったあと、そこには……。


誰もいなかった。


「カインッーーーーーーー!!」


押し寄せる絶望を感じながら、アズは叫んだ。



魔王編終了です。

次回より、ついに“カイン・サーガ”が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ