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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
177/410

魔王編18

残りの二人。

アベルと、そして。


「フェルアリード・アメンティス」


俺の苦々しげな声に、灰色の男が振り向く。


「これはこれは懐かしい顔ぶれだ。見知らぬ顔も多いがね」


「どういうことだ?」


アベルに向けた俺の問いはフェルアリードに拾われた。


「ディラレフは保存容器だったのだよ。まさにストレージだったわけだ。そして、彼の肉を借りて魂は帰った」


死んだディラレフを乗っ取り、フェルアリードは復活した。

厄介なことになった、と俺はため息をつく。

敵のような、いや明確な敵が増えた。

そこで、アズが発言する。


「いいじゃない。見る限り悪人だけど、実力はあるんでしょ?口だけじゃなきゃね」


おうおう挑発する。

これも、女王様気質のなせる業か。


「では、口だけではないところを見せてあげようか。今すぐにでも」



「できれば敵を相手にね」


「そこのカイン君とは敵同士だ。カリバーン君もそうだね。ここにいる者はなんらかの形で敵だったことがあるんじゃないかな?」


フェルアリードの言葉は真実だ。

俺とアベルとカリバーンはフェルアリードと戦った。

カリバーンはグウェンと戦い。

アズはモルドレットとベスパーラと敵対した。

俺とシュラは闘技場で対決したし、ベスパーラとは大武術会で戦った。

最初から仲良しこよしではなかった。

だからフェルアリードの言葉は毒となって、俺たちを蝕む……はずだった。


「だが、今は仲間でござる。お主も含めて」


いつも無口なシュラが毒を打ち消す。

予想していなかった反撃に、フェルアリードは薄く笑った。


「よかろう。負けを認める。君たちとは仲間だ。少なくとも、魔王を倒すまでは」


フェルアリードの降参により、分裂の危機は回避された。

そこで、俺たちは情報の共有をすることにした。


マハデヴァは逃走。

ハラは俺が倒した。

マハタパスはシュラが。

シャンカラはアズが。

ガンガーダラはベスパーラが。

ニーラカンタもベスパーラ。

ムンダマーラはモルドレットが。

バイラヴァはカリバーンが。

パシュパティはフェルアリードが。

プーテスバラは逃走。


対して、こちらはエミリーが死亡。

ディラレフは死んだが、代わりにフェルアリードが参加。

ガンガーダラから解放されたレルランも参加。


「十対二か」


犠牲は痛いが、こちらがかなりの有利だった。


「行こう」


俺は皆を促した。

おそらく、これが最後の“行こう”になるはずだ。

王の間を抜け、隠し通路を通り、魔王が封印されている部屋へ。



魔王レイドックの封印は半ば解けていた。

昨年、炎の王ラグナが施していた封印の鎖はすでにボロボロに朽ちて、床に転がっている。

石像のようにも見える封印も、半分以上が崩れ落ち中の生身の体や、魔王の装束が露出している。

その魔王の前まで、何かを引きずったような黒々とした血痕が伸びている。


「マハデヴァ……なのか?」


呼び掛けた声は、意外なものを見た、という感情が込められていた。

血痕の終点、半身だけとなったミニオン、マハデヴァは声の方を向く。


「プーテスバラ、か」


「珍しいな。貴公がそこまで痛め付けられるなど。よほどの相手だったらしいな」


マハデヴァは、プーテスバラを睨み付けた。

形のいい髭がマハデヴァのカンにさわった。


「ハラにやられたんだッ」


プーテスバラの顔色が変わる。


「ハラ……アレスが、裏切った?」


「そうだ。あの爺ィ、僕を攻撃しやがった。二度も!」


「あの冷静沈着な、ハラが?」


「妙に奴の肩を持つ……そうか、そういえば貴様もハラの仲間だったな?貴様も僕を裏切るのか!?」


「何を憤ってるんだ?落ち着け」


「黙れッ!!僕はもう騙されんぞ!」


残っていた左手で、マハデヴァは跳躍した。

突然の激昂と、ハラ=アレスの裏切りに動揺していたプーテスバラ=ラオルは対応が遅れた。

空中から、マハデヴァが放った光線はプーテスバラを貫き、彼が何か言う前にその命を奪った。

事切れた肉体を前に、マハデヴァはニヤリと笑った。



一方、カイン一行は隠し通路の先で膨れ上がった魔力の強さに警戒を強めながら進んでいた。

通路の先がうっすらと見えた、その時。

薄暗い石床の上に、ぼんやりとした何かが立っているのを俺は見つけた。

アズやグウェンが「ひっ!」と小さな声で叫ぶ。


「あの人は……まさか?」


アベルが何かを察したように呟く。


「こんなところで果てたか。古い馴染み、“悪魔”よ」


フェルアリードも呟く。

おそらく、奴の後ろぐらい過去に関わりがあるのだろう。


「ラオル……」


俺は、名を呼ぶことしかできなかった。


「カインか……」


半透明なラオルは力なく俺の名を呼ぶ。


「その、姿は……?」


「私は死んだ。今、現れているのは残留思念が魔力に乗って漂っているだけの幽霊だ」


「なんで、あんたがここにいる?」


プロヴィデンス帝国執政ラオル・ラオレシアといえば泣く子も黙る大政治家だ。

俺の弁舌の先生だ。

不出来な弟子だったろうが。


「彼は魔王のミニオンの一人です。名は“プーテスバラ”、悪魔という意味です」


アベルが言い聞かせるように説明した。


「アレスもミニオンだった。今さら誰がミニオンだったとしても驚かないけど……さ。よりによってあんたかよ」


マーリン爺さんと、スフィアと、ラオルと。

身寄りのないプロヴィデンス帝国で家族のように接してくれた人が。

世界を滅ぼそうとしている魔王の手下だったなんて。


「私はお前が、カインだと知っていた」


妙な言い回しだった。


「ラオル……?」


「ハラ=アレスと共に、私は魔王レイドックを倒す人物を育て上げることを約束していた。そして、お前なら、我らの期待に背かないだろうと知っていた」


「俺は、あんたたちに利用されていた、っていうのか!?」


「そうとらえてくれて構わない」


「……ッ!!」


今までの、日々がガタガタと崩れていくような感覚。


「だが、私はお前を本当の息子のように思っていた。千年前に失ったな。アレスも、そう思っていた」


「……あんたらは魔王の手下だろ?何がしたいんだ?」


「私とアレスはレイドックの、そう家族みたいなものだった。彼が堕ちた時も、彼を助けようとミニオンになった。しかし」


「しかし……?」


「もう、彼を止めてほしい。千年も止まらぬ渇望を止めてほしい。お前にならできる。いや、カインにしか出来ない」


「……」


ラオルの想いが痛いほど伝わった。

なぜ、俺なのかはわからないが、俺はやる。


「魔王を止める。必ず」


ラオルは微笑んだ。

出来の良い答えを返した時のように。

今は遠い、少年の日のように。


徐々に、ラオルは薄れてそして消えていく。

消え去る最後の瞬間、ラオルは言った。


「マハデヴァに気を付けろ」


と。

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